マイカ・成澤ガリムーリナ Maika Narisawa-Galimullina(モスクワ・クラシック・バレエ、ソリスト)=インタビュー
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ワールドレポート/その他
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
ーー今年11月26日から全国公演を行うロシア国立モスクワ・クラシック・バレエ団は、2017年にも来日公演を行ってますね。
マイカ・成澤ガリムーリン
マイカ はい、私はその前の2013年の来日公演にも参加しています。今回はカンパニーとしては3回目の来日になります。
ーー芸術監督はずっとナタリア・カサトキナさんですか。
マイカ はい、以前はワシリョフさんとご夫妻でディレクターをなさっていましたが、新型コロナの感染拡大前でしたが、亡くなられてしまいました。今はカサトキナさんお一人で全部見ておられます。
ーー1977年から監督をなさってますね。
マイカ ええ、長く務められていますが、カサトキナさんはとてもお元気で指導されています。
ーーカンパニーのレパートリーはカサトキナさんの振付作品が多いのですか。
マイカ そうですね。モスクワ・クラシック・バレエでしか見られない作品です。振付は独特なものがあります。
ーー『くるみ割り人形』はワイノーネン版に基づいて、カサトキナさんが振付けたヴァージョンですね。
マイカ そうです。他では見られないオリジナルの振付が入ってます。
ーーワイノーネンに基づいているのでマーシャがグラン・パ・ド・ドゥを踊りますね。カサトキナ版の『くるみ割り人形』の見所はどういうところですか。
マイカ はい、マーシャが王子と踊ります。そうですね、カサトキナ版では、ネズミの王様が女王様です。女性がネズミのボスなんです。
ーーあ、そうですか。ちなみに、本来、ロシアで踊られていたネズミの王様は、原作にある七つの頭を持っている怪物でした。しかし現在は、ほとんどが単なる巨大ネズミになってしまっていて、バランシンが創設したNYCBのヴァージョンだけが、しばらくは七つの頭のネズミの王様が登場していましたが、最近はそれも無くなってしまいました。
マイカ 七つの頭を持ったネズミも登場します!
ーーえっ、登場しますか!!
マイカ ネズミの王子が七つの頭を持っているんです。その母がネズミの女王ですがこちらは普通の頭です。女王が七つの頭を持つ王子とマーシャを結婚させようと企んでいるのです。おそらく、他のヴァージョンでは見られない、とても面白い設定だと思います。
カサトキナさんのバレエは原作を大切にして、元の物語の世界観を重要視して大切にしています。ですから他のヴァージョンにはない役が登場することも多いですね。
「くるみ割り人形」
ーーそうですか、面白いですね、お話を聞いていると、確かに原作の世界を大切にしているのだと感じます。
マイカ ロシアだと年末から新年にかけて『くるみ割り人形』が数多く上演され、多くの子どもたちが劇場に観に来ます。
ーーマイカさんはどの役で出演されるのですか。
マイカ まだ発表されていませんが、多分、新しい人形の役です。普通はコロンビーヌなんですけれど、モスクワ・クラシック・バレエでは、新しい人形と壊れた人形になります。ドロッセルマイヤーがマーシャにプレゼントするために持ってくるのが新しい人形で、これは通常のヴァージョンだとコロンビーヌとアレルッキーナですね。この新しい人形の踊りがあって、壊れた人形はマーシャが持っている好きだった人形ですが、こちらも踊ります。結局、マーシャはドロセルマイヤーが持ってきたくるみ割り人形が大変に気に入り、一緒に寝ます。そしてネズミとの戦争にも新しい人形たちが登場して、おもちゃの兵隊と一緒に戦います。
2幕では、葦笛の踊りは男の子と女の子2人で踊ります。私は葦笛か中国の踊りかどちらかを踊ると思います。葦笛のパ・ド・トロワは梯子を持って踊るんです。煙突掃除人という設定なんです。
ーーああ、それはとても可愛いですね。
マイカ 2幕はお菓子の国で人形たちが踊る、という設定です。スペイン、アラビア、中国、ロシアはトレパックと葦笛です。キャンディ・ボンボンは葦笛の3人とワルツのコール・ドで、実際に梯子を昇ります。
ーー2幕のデヴェルテスマンもまた、いろいろと工夫されていてとても面白そうですね。
ーーマイカさんはイルギス・ガリムーリンさんと成澤淑栄さんご夫妻のお子様として生まれ、高木淑子バレエスタジオでバレエを始められて、橘バレエ学校に進まれ、そしてボリショイ・バレエ・アカデミー(ボリショイ・バレエ学校)を卒業されました。
マイカ そうです。ボリショイ・バレエ・アカデミーには留学ではなく、1年生から正式に入学して8年間通学しました。
ーー初等、中等とか分かれているのですか。
マイカ 明確に分かれているわけではありませんが、日本の小学校の5年生の年齢が1年生になります。バレエ学校の5年生が、日本で言うと義務教育の最終年にあたる中学3年生です。その後、3年が日本の高校生にあたることになります。8年間でちょうど、高校卒業のタイミングになります。ですから、分かれているといえば、5年と3年に分かれていますね。
カリキュラムも5年生までに義務教育の他の学科を習得します。その後は、もちろん、学科もあるのですが、バレエの教科が多くなります。劇場史だったりバレエとか音楽の歴史とか、専門科目が多くなります。ロシアの義務教育を終えてバレエをさらに学んでいきます。
ーー寮に入られたのですか。
マイカ いえ、寮もありましたが、自宅がモスクワにありましたから通学していました。
ーー橘バレエ学校の教えとは違いましたか。
マイカ ええ、最初はほんとに基礎からです。バーのところに立って、1時間半それだけで終わるみたいな感じでした。初めから細かくポジションとかパの名前からそれぞれ全部どのように動くか、とかほとんどゼロから教わります。先生たちの教育のプログラムがあって、1年生はどこからどこまでの範囲を学ぶ、と決まっていてそれに沿って習います。2年生になったらどこまでと決まっていて、パを習ったり、ジャンプも段々と難しくなります。それが8年分きっちりと決まっていて、それに忠実に従って学びます。
ーーやはり、ワガノワ・スタイルですか。
マイカ ちょっと違いますね。モスクワのスタイルです(基礎は同じですが)。多分、モスクワのバレエ学校出身の先生が多いと思います。サンクトペテルブルク出身の先生はワガノワで教えられているのだろう思います。
ーーボリショイ・バレエ・アカデミーに正式に入学して、8年間学んで卒業した人って、日本人ではいるのでしょうか。何年間か留学された人は多いですが。
マイカ 私が知る限りでは8年いた方は存じ上げないです。私は入学試験が3次試験まであって入学して、そこから8年間通いました。
ーー8年間学んだということは、期間限定の留学とはまた全然違うと思います。お父さんがロシア人だったということもあるでしょうが、たいへん貴重な体験ですね。バレエ学校入学の以前からモスクワには行き来されていたのでしょうか。
マイカ ええ、祖父母がモスクワにいるので、小さい時からモスクワに顔を見せに行って1ヶ月くらいいたりしていました。両親が踊っていましたから、反対に私が日本においてかれていたりしたこともありました。でも、バレエ学校に行った最初の頃は全然慣れなくて、やっぱり日本の暮らしと全然違うな、と感じました。
ーー旧ソ連の時代でしょうか。
マイカ いえ、父と母が結婚したときはソ連でしたが、私が生まれる直前にソ連が崩壊して、生まれた時はもうロシアでした。
ーーロシアっ子ですね、ロシアに物資が無かった時代とかご存知ないのですね。
マイカ はい、話には聞きますが、私がロシアに行った時はもうなんでもある時代になっていました。
ボリショイ劇場で
ーーボリショイ・バレエ・アカデミーに8年間通われて、モスクワ・クラシック・バレエ団に入団されました。ご両親が踊られていたバレエ団でしたから、もともと希望されていたのですか。
マイカ 今はもういらっしゃらないのですが、私が入団した頃にはちょうど、ナデジタ・パヴロワ先生がモスクワ・クラシック・バレエ団にいらして教えられていました。その少し前から、私のリハーサルを見てくださっていましたので、その流れもあって・・・もちろん、父と母が踊っていたということもあり入団しました。
ペルミ出身で今は、アメリカにもいらっしゃっていたリーシナ先生にも教えていただいています。
ーーそれからモスクワ舞踊大学に入学されていますが、バレエ団に在籍しながら通学されたのでしたか。
マイカ はい、両方に行っていました。
ーー大学の授業を受けながら大変でしたか。
マイカ はい、とても大変でした。授業がしっかりありましたから。
ーーモスクワ舞踊大学を卒業すると、バレエの教師の免許が取れるのでしたね。
マイカ はい、バレエの教員の資格が得られます。この免許がないとロシアではバレエ学校などで教えることはできません。
ーーご両親も同じ大学を卒業されているのですか。
マイカ はい、同じです。
ーー4年間ですか。どのようなカリキュラムを勉強するのですか。
マイカ はい、4年制です。
バレエ学校時代に習った1年生から8年生までのプログラムが細かく記されていて、それに沿って勉強していきます。カリキュラムをしっかりと身につけて、教えられるように学びます。例えばヴァリエーションだったらこの時期は何を学ぶとか、カウントの取り方も最初はゆっくりと、だんだん速くしていくとか、が学年毎に全部決められていて、それらをきちんと習得していくわけです。クラシック以外にもキャラクター・ダンスとか宮廷舞踊もあります。バレエ史と劇場史と音楽、バレエに関連することはすべて学びます。実技ももちろんありますが、レポートの提出があります。プログラムに沿ったコンビネーションを自分で考えて提出しなければなりません。
ーーバレエ学校を卒業してから、日本で踊ろうとは考えませんでしたか。
マイカ 仕事としてバレエをするのにはモスクワの方が環境的に適してると思いました。公演数もモスクワの方が多いので。そういう点で日本に帰るという選択肢はありませんでした。
日本だと、どうしても教えがメインになってしまいます。それはやはり踊りたいですから。
ーーモスクワ・クラシック・バレエの公演はどのようになっていますか。
マイカ 通常は月に3〜4回ですが、多いときは10〜15公演くらい、特に年末年始は『くるみ割り人形』が1日2回公演もあって20公演くらいとか、海外公演に行くと期間によって5公演とか10公演ありますから、多いときは毎日公演になることもあります。
ーー日本の公演にも時折、出演されていますね。『ア ビアント』とか。
マイカ はい、牧阿佐美先生にお声をかけていただきました。『飛鳥ASUKA』でも踊りました。
ーー京都でも踊られていた。
マイカ はい、京都で「バレエ アット ア ギャザリング」に出演しました。末松かよ先生に呼んでいただきました。海外のバレエ団で踊っている若い人を集めたガラ公演です。
ーーお好きなバレエ作品はなんですか。
マイカ クラシック・バレエは『眠れる森の美女』とか『ジゼル』とかです。『ドン・キホーテ』とかとはまた違ったプリンセス系が好きです。ゆったりしていると言いますか、そうした作品が踊るのは好きです。『バヤデルカ』は観るのも踊るのも好き、ガムザッティよりもニキヤです。
「バヤデルカ」
「バヤデルカ」
ーーモスクワ・クラシック・バレエにはコンテンポラリーのレパートリーはありますか。
マイカ ないです。ヨーロッパは多いですけど。最近はダンチェンコ(モスクワ音楽劇場バレエ)とか、ボリショイでも上演されることが多いですが。私はコンテが得意な方ではないので、やはり、クラシックが好きですからキャラクターとか。だからコンテがレパートリーにないバレエ団に入って良かったと思っています。
ーーカンパニーでは、キャラクターを踊るダンサーというのは決まっているのですか。
マイカ そうでもないです。でもボリショイとかですとダンサーの人数が多いですから、キャラクターをメインに踊っているダンサーはいます。キャラクターはいろいろと決まり事が多いですから。
『ライモンダ』、清瀧千晴と
ーー宮廷舞踊や民俗舞踊からクラシック・バレエにとりいれられているものも多いですね。
マイカ 宮廷舞踊はそれだけでキャラクターとはまた別に学びました。
ーー新作もありますか。
マイカ カサトキナさんが振付けた作品を上演することもあります。すべてカサトキナ・ヴァージョンとして、コール・ドのディティールに至るまで振付けられています。
ーー日本語でもロシア語でも普通に読書とかできるんですか。
マイカ はい、どちらでも。
ーーすごい!
マイカ でも本は日本語で読むことが多いですね。ロシアには最初は3歳くらいで行きましたが、バレエ学校に入ったのは11歳、小学校5年生からです。私は日本でも中学校は卒業しています。
ーーそうですか。でもどうやって。
マイカ 学校にも理解していただいて、テストなどを受けさせていただいて、ロシアは夏休みが3ヶ月あるので、その間とか機会を見つけて日本の学校にも通いました。課題などを出していただいてましたし。
ーーロシアで義務教育を受けていれば、当然、日本でも認められるでしょう。
マイカ はい、認められます。でも、やはり日本の学校も卒業したかったので。
モスクワのバレエ学校に行きたい、というのは自分の意志でした。両親からは「本当に入りたいのか」とすごく聞かれて。どうしても入りたいってと言って行きました。両親もバレエをダンサーでしたから、大変だということは良く知っていますからね。何度も念を押されて、「バレエ学校でなくてもバレエをやろうと思えばできるんだし」と。
でも、私はどうしてもボリショイ・バレエ・アカデミーに行きたい、と言って行きました。
ーーそうじゃなければ卒業はできなかったかもしれませんね。行きなさいって言われて行ったのでは。
本日は貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。『くるみ割り人形』公演をとても楽しみにしております。
2021.11.26(金)長野市芸術館 メインホール
2021.11.27(土)神奈川県民ホール 大ホール
2021.11.28(日)静岡市民文化会館 大ホール
2021.11.30(火)三重県文化会館 大ホール
2021.12.1(水)NHK大阪ホール
2021.12.3(金)和歌山県民文化会館 大ホール
2021.12.4(土)西条市総合文化会館 大ホール
2021.12.5(日)ウッドワンさくらぴあ 大ホール(廿日市)
2021.12.7(火)長崎ブリックホール 大ホール
2021.12.8(水)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2021.12.9(木)宝山ホール(鹿児島県文化センター)
2021.12.11(土)ホルトホール大分 大ホール
2021.12.12(日)北九州ソレイユホール 大ホール
2021年12月18日(土)昌賢学園まえばしホール大ホール(群馬県)<追加公演>
2021年12月19日(日)東京国際フォーラムホールA <追加公演>
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