パリ・オペラ座バレエで活躍、二山治雄が世界的ギタリストichikaと共演!「Eclips」開幕直前 二山治雄インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=坂口 香野

バレエと、日本のポップミュージックとのコラボレーションは少ない。コロナ禍で活動の場が減ってしまったダンサーやミュージシャンのために、今しかできない企画を――制作サイドのそんな思いから、10月15日、一夜限りのコラボレーションが実現する。

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ダンスは、17歳でローザンヌ国際バレエコンクール第1位、YAGPシニアの部金賞を受賞、パリ・オペラ座バレエ団で契約ダンサーとして活躍するなど、世界が注目する二山治雄。
音楽は、英国のギター誌「Total Guitar」で「現在最高のギタリスト」8位に選ばれ、YouTube登録者数が169万人など、世界的に注目されるギタリスト・ichika。舞踊監修は元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエの山本康介、振付はやはりローザンヌ国際バレエコンクールファイナリストであり、現在シカゴのジョフリー・バレエで活躍する新井誉久が務める。https://www.youtube.com/watch?v=ecqtl9CTyU0
ichikaの新曲が上がり、急ピッチでリモートによる振付・リハーサルが進行中の9月末、二山治雄にインタビューを行った。

――ichikaさんのギターでバレエを、というのが今回の企画の発端。舞踊監修の山本康介さんを交えて制作サイドで話し合った際、ダンサーは二山さんにと満場一致で決まったとうかがいました。ichikaさんご自身にも、二山さんに踊ってほしいとの強い希望があったそうですね。

二山 4月末、康介さんから電話で話をうかがった時は、失礼ながらichikaさんのことを知らなかったんです。YouTubeでichikaさんの曲を聴いてみたら、僕の知っているギターの音色とまったく違っていて。動画なのに、生で聴いた演奏以上に、心打たれるものがありました。当時はまだ秋の予定が決まっていなかったんですけど、たとえ海外にいたとしてもぜひ参加したいなと、二つ返事でお引き受けしました。
初めての経験なので不安はありますが、楽しみのほうが大きくて。僕を指名してくださって、光栄な気持ちでいっぱいです。

――『Eclips』(日食または月食)というタイトルのとおり、様々なチャンスが重なって可能になった企画という気がします。音楽は書下ろしだそうですが、お聴きになった印象はいかがでしかたか。

二山 すごく惹かれるんですよね。ずっと聴き入っちゃうんです。普通に流してぼーっと聴いてしまう、そのくらい魅力的な音楽です。この曲で踊ることが嬉しい一方で、これをどう踊りで表現できるのか、今は葛藤しながら。

――リモートでの振付は、どのように進めているのですか。

二山 新井さんと一緒に、一からつくり上げる感じです。最初に彼が振りを出してくれて、僕がこうしたほうが動きやすいとか、さらにこういうこともできるとか、アイデアを出し合いながら。頭の中でイメージしたものを動きにするのは初めてなので、楽しいけど難しいです。

――リモートならではの難しさもありますか。

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二山 お互い初対面なので、新井さんも僕がどんなダンサーで何ができるか、画面越しに確かめながら振付けるのが大変だと思います。日本とシカゴでは14時間の時差がありますし。でも、リモートだからこそ一緒に作品づくりができる。すごくいい経験になっていますね。
8月末にプロモーションビデオができて、ichikaさんのYouTubeアカウントで流してもらっているんですけど、予想以上に反響が大きくて。わくわくすると同時に、かなり緊張しています。

――一夜限りのライブ、どんなコラボレーションになるのか、とても楽しみです。ここで少し二山さんご自身のことについても教えてください。バレエは7歳のときに始められたそうですね。

二山 保育園の年長のときに、仲の良かった女の子がバレエをやっていて、僕もやりたいと言ったのがきっかけだったようです。小5のときに白鳥バレエ学園に入って。小中学校時代は、平日は地元の松本教室、週末や祝日は長野市の本部に通っていました。

――長野県内でも、松本と長野は遠いですよね。

二山 在来線で1時間20分くらいですね。

――プロのダンサーになることを意識し始めたのはいつ頃ですか?

二山 僕はずっと、バレエダンサーになるという気持ちがまったくなくて。小6の頃からコンクールにも出るようになったんですけど、それも先生に勧められたから出てみようかな、くらいの軽い気持ちでした。中学ではみんな部活をやるけれど、僕はそのかわりにバレエを頑張ろうと。でも、背が高い方ではないので、バレエダンサーは無理かなとずっと思っていましたね。高校は、調理師免許の取れる食物科を選びました。バレエを本気でやるつもりではあったけれど、けがをして続けられなくなる可能性だってあるし、手に職をつけたほうがいいということで。プロを意識したきっかけは、17歳で挑戦したローザンヌでした。

――国内のコンクールで上位入賞されたご経験もありますよね。ローザンヌも、かなり自信をもって参加されたのでしょうか。

二山 全然! 恩師の塚田みほり先生に、「日本のコンクールで入賞できても、海外でプロとして活躍できるかどうかはまた別の話」とつねづね言われていたので、とにかくできることを精一杯やろうという気持ちでした。現地に入ってからも、周囲のダンサーたちを見る余裕もなく、ひたすら集中してがむしゃらに踊っていました。

--ローザンヌはテレビで見ていたのですが、二山さんの『ラ・バヤデール』のヴァリエーション、ジャンプもまったく力みがなく、いつまでも宙に浮かんでいるようで印象に残っています。コンテンポラリー・ヴァリエーション『ディエゴのためのソロ』のほうは、はじけるような楽しい踊りでびっくりしました。コンテはあの時初めてだったのですか。

二山 ええ。たまたまあの作品が自分に合っていたし、踊っていて純粋に楽しかったんですよね。その前に踊ったクラシックがうまくいかず、悔しい思いがあったので、ここまできたらコンテンポラリーは思い切り楽しもうと。支えてきてくれた先生や家族、いろんな人たちのために踊ろうと思ったら、すごくふっ切れた感じはありました。

――金賞という結果はどう受け止められたのでしょうか。

二山 そういう結果になるとはまったく思っていなかったので、この先どうしようっていうふうになったんですよ。スカラシップをいただいて、そこでやっとダンサーになる決意ができました。留学先は、ローザンヌでレッスンを指導してくださったパトリック・アルマン先生が校長をしているサンフランシスコ・バレエスクールに決めました。

――サンフランシスコでの生活はいかがでしたか。

二山 バレエは大丈夫なんですけど、大変だったのは日常生活ですね。家に帰ればご飯が用意されてて洗濯もできている、というのがいかに恵まれていたか、自分が今までいかにいろんな人に守られ、支えられていたかを身に沁みて感じました。

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――9カ月の留学後、サンフランシスコ・バレエに研修生としての契約をもちかけられたとのことですが、そのまま帰国されたのはなぜでしょうか。

二山 今思えばもったいないことをしたのかもしれませんが、当時の僕は、プロになる心の準備も体の準備も、まったくできていなかったんです。高校は休学していましたが、きちんと卒業したかった。それまでも、バレエと高校生活を両立させようとすごく頑張ってきたので、中途半端ではなく、しっかり終わらせてから次に進みたいと思いました。それで、地元の松本市に帰って1学年下の子たちと半年間高校に通ったんです。

――そうでしたか。食物科だと、卒業制作もあったのですか。

二山 はい。そばや果物など、地元の食材を使ったフルコースを作りましたね。食器も松本民芸家具のお店へ買いに行って、スープやサラダからデザートまで、メニューをいちから考えました。

――高校卒業後は、ワシントン・バレエのスタジオカンパニーで活動しつつ、パリ・オペラ座のオーディションを受け、2017年から2020年まではパリ・オペラ座の契約団員として入団されていますね。オペラ座の外部オーディションとはどんな感じなのでしょうか。

二山 外部オーディションは毎年7月にあります。まず書類審査があって、それを通過したらオペラ座のガルニエ宮でバーとセンター・レッスン、そして課題のヴァリエーションを踊ります。2017年の課題はセルジュ・リファール振付の『白の組曲』でしたね。前芸術監督のパンジャマン・ミルピエの時代は新しいレパートリーが多かったのですが、この年、オーレリ・デュポンが芸術監督になってからは、ザ・オペラ座という感じの正統的な課題曲が多くなりました。

――パリ・オペラ座でのお仕事はいかがでしたか。

二山 すごく幸せな時間でしたね。あそこで働いていたというより、修行に行っていた感じです。バレエは――すべての芸術はそうだと思うんですけど、本当にずっと勉強で、高みを目指し続けなければならないので。バレエの本場パリの、世界最高のダンサーたちが集まるあの空間にいられたってこと自体が幸せだったなと。オペラ座にいなかったら、今の自分はないだろうと思います。同時に、かなり苦しくもあったんですけど。

――たとえばどのようなことでしょうか。

二山 フランス語が難しかったですね。それと「アジア人だから」ということで、カンパニー内でも壁を感じることがありました。でも、僕を受け入れてくれた先生方やダンサーもたくさんいて。特に元オペラ座ダンサーのジル・イゾワール先生とローラン・ノビス先生には、プライベートレッスンでもよく見てくださり、今でも交流が続いているので、頑張ってよかったなと思っています。

――オペラ座で印象に残っているレッスンはありますか。

二山 『ばらの精』を日本で踊る前に、ジル・イゾワール先生に指導してもらったんですけど、その時「目をつぶって音楽を聴きながら、自由に体を動かしてみて」と言われたんです。音楽を感じて、自分の内側から出てくるものを大切に踊りなさいと。それは今回のコラボレーションにも通じることで。既存の振付であっても、ダンサー自身の表現であることに変わりはないと実感できて、すごく勉強になりました。それと、オペラ座のスタジオの雰囲気が素晴らしいので、とても集中して取り組むことができて。やっぱり環境って大事だなと思います。

――2019年7月のパリ・オペラ座外部オーディションでは1位になっていらっしゃいますね。

二山 ええ。オーディションに向けて僕自身すごく頑張ったので。それをオーレリ・デュポンをはじめ、オペラ座の過去のスターダンサーの方たちがはっきりと評価してくださったことは嬉しかったです。僕自身、まさか1位とは思わなかったので、少しは自信を持っていいのかなと。
その前シーズンの契約が2020年の春までだったのですが、コロナ禍で公演がすべてキャンセルになってしまったので2019年の年末に帰国し、2020年からは日本を拠点に活動しています。

――国内で様々な公演に出演されていますが、今回の企画を通じて、音楽ファンの方々にも、バレエの魅力が伝わるといいですね。

二山 以前、小澤征爾さんの指揮するサイトウ・キネン・オーケストラと共演させていただきましたが、今回は僕にとって、あのときと同じくらい大きな挑戦です。世界的なギタリストであるichikaさんと一緒に踊れるので、バレエを知らない方にもぜひ見ていただきたいですね。これまでは古典を中心に踊ってきましたけれど、今後はクラシックだけにこだわらず、今回のような未知の世界にも、どんどんチャレンジしていきたいと思っています。

――本番、本当に楽しみです。今日はありがとうございました。

The Session Eclipse

https://www.nhk-p.co.jp/eclipse/
◎2021年10月15日(金)
◎渋谷ストリーム ホール

e+(イープラス)
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チケットぴあ
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配信チケット販売
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