新シーズンの開幕に上演するピーター・ライト演出『白鳥の湖』(新制作)の記者会見が開催された、新国立劇場バレエ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団 吉田都舞踊芸術監督、主演ダンサーたちが出席して、2021/22シーズン開幕に上演される新制作『白鳥の湖』(ピーター・ライト演出)の記者会見が、9月28日にオペラパレスのホワイエで行われた。
この古典バレエの名作は、吉田都監督が2020年10月に就任第1作目として上演しようと企画していたが、新型コロナ感染拡大により延期せざるを得なかったもの。吉田都監督が師と仰ぐサー・ピーター・ライトのヴァージョンである。吉田都監督にとっては、ピーター・ライトの薫陶を受け、イギリスの地で初めて主役として踊り、バレエダンサーとして大きく羽ばたく基となった作品である。そしてその貴重な経験を新国立劇場バレエ団のダンサーたちに伝え、彼らもまた大きく成長してほしいと願う、バレエ団にとって重要な舞台である。

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© 阿部章仁

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© 阿部章仁

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© Dance Cube

会見で登壇した吉田都監督は、「監督就任後のこの1年は長かったようでもあるし、あっという間だったとも感じます・・・でも、ようやくここまで辿り着くことができました」とまず、新型コロナ禍の1年についての感慨を語った。そして「このピーター・ライトの『白鳥の湖』はイギリスでも観客に愛され、しばしば上演されていて、私もコール・ド・バレエの頃からほとんどの役を踊り、初めて主役に抜擢されたのもこの『白鳥の湖』でした」と語る。そしてイギリスらしい演劇的な作品だが、衣裳とセットも素晴らしい、と会場に展示してあるフィリップ・ブロウズによるオデットと王子の衣裳を示した。イギリス初演時と同様のもの(一部、現在では揃えられない特殊なものもあったが)を制作し、驚くほど良いものが仕上がったと言う。
また、ピーター・ライトの演出は、冒頭、先王の葬儀から始まるなど物語全体が理解し易い。登場人物たちがなぜその場にいてどのような心情を抱えているのか、ということが細かく設定されているので、ダンサーたちには踊る喜びだけでなく演じる楽しさも十分に味わってほしい、とも語った。

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© Dance Cube

今回の10月23日より上演される『白鳥の湖』は、プティパ、イワーノフ、ピーター・ライト:振付、ピーター・ライト:演出、ガリーナ・サムソワ:共同演出、音楽はチャイコフスキーで、1981年に初演されている。
周知のようにピーター・ライトは、古典作品の演出に定評がある。最初に古典作品を手掛けたのは『ジゼル』(1965年、1987年)だが、ここでも非常に丁寧に演出しており、第1幕のヒラリオンとジゼルの母ベルタとの関係も徒や疎かにせず、細やかに気を配っている。登場人物に注がれるピーター・ライトの目は、厳密・厳格なばかりではなく、常に優しく慈しみさえ感じられる。最近、そのことを強く感じたのは、今年6月に上演されたピーター・ライト版『コッペリア』だった。通常版ではコッペリウスは、精魂込めて生命を注入しようとした人形を壊されて落魄して終わる。しかしライト版はラストシーンで実に鮮やかに、一瞬、彼を救済している。中世の錬金術師の流れに属する老年の捻くれた人形作りにも、ピーター・ライトの優しい目は分け隔てなくしっかりと注がれていた。そしてそこには、彼が登場人物たちをいかに愛し慈しんで演出しているかが顕著に現れていた、と思う。

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© Dance Cube

ピーター・ライトは今回の『白鳥の湖』の上演に向けて、新国立劇場バレエ団にメッセージを贈っている。
「ミヤコがこのプロダクションをシーズン開幕の演目として選んでくれたことをとても嬉しく思いますし、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが楽しんで踊ってくれることを願っています。東京に行くこと叶わないのはとても残念なのですが、彼らの踊りを過去に見ておりますので、彼らならこの『白鳥の湖』へ見事に命を吹き込んでくれることでしょう。」と。
そして登場人物へ「命を吹き込む」ダンサーたち、オデット/オディール役の米沢唯、小野絢子、柴山紗帆、木村優里、ジークフリート役の福岡雄大、奥村康祐、井澤駿、渡邊峻郁、速水涉悟も登壇した。吉田都監督の「まず古典に立ち返って」という方針もあって、『白鳥の湖』という彼らが幼い頃から親しんできた作品の上演だけに、新作を初演する時のような強い緊張感はない。むしろ、どういうところに力を入れて努力すればいいのか、分かっている自由さが感じられた。そしてそれぞれが本番の舞台への抱負を語った。ダンサーたちはみんな力みはないが決意は固いという印象で、全体の雰囲気がとても良く、ピーター・ライト演出の『白鳥の湖』の舞台へ、大きな期待を抱かせる記者会見であった。

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© 阿部章仁

『白鳥の湖』
●2021年10月23日(土)〜11月3日(水・祝)
●新国立劇場 オペラパレス

●2021年11月7日(日)14:00
●サントミューゼ 大ホール(長野)

Webサイト:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/

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