『アルルの女』で初役ヴィヴェットを踊る牧阿佐美バレヱ団トップダンサー、青山季可に聞く

ワールドレポート/東京

<インタビュー=関口紘一

――青山さんは英国ロイヤル・バレエのホワイトロッジからハンブルク・バレエのバレエスクールへ進まれました。これはどうしてですか。

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© Dance Cube

青山 私は、ハンブルク・バレエ団の来日公演「幻想〜『白鳥の湖』のように」に子役で出演させていただきました。このバレエが本当に好きだったので、ハンブルクに行きました。とてもしっかりとしたバレエスクールでした。スクールとバレエ団はフロアは違うのですが、ランチタイムなどダンサーたちと触れ合う機会もありました。ちょうどオットーさんとイルジさん(ハンブルク・バレエ団ダンサー、ブベニチェク兄弟)が作品を作り始めた頃で、彼らのバレエスクール用の作品に出演させていただいたりしました。

――ホワイトロッジとハンブルク・バレエ・スクールでは、カリキュラムなど違いはありましたか。

青山 ホワイトロッジは建物が王室の別荘だったところなので、そこにいるだけで優雅な気持ちになれるような雰囲気でした。そしてホワイトロッジは義務教育なので、普通の勉強もありました。古典名作のヴァリエーションみたいな授業ばかりではなく、イギリス人が振付けた小品などを踊ることもありました。公園の中にぽつんと学校があるので、週末以外はバレエに集中せざるを得ない環境も良かったのだと思います。
私は偏平足だったので、自分の身体の弱点との向き合い方なども教わりました。
ハンブルクでは私はシアター・クラスに入ったので、解剖学やドイツ語の勉強などがありました。
日曜日にノイマイヤーさんが舞台に上がって、観客のためにバレエ作品を解説するイベントがありました。ドイツ語だったのですが、とても興味深かったです。

――すみません、いきなり時間が飛びますが、牧阿佐美バレヱ団に入団されて、クラシック・バレエの主役は全部踊られていると思います。最も気に入られている役はなですか。

青山 私は明るいと言っていただけることは多いのですが、キトリ役のように弾けるようなエネルギーを持ち合わせているわけではないので、実はそんなに得意じゃないんです。
舞台を重ねるごとに踊りやすくなっているといえば、やはり、『白鳥の湖』とか『ジゼル』ですね。『ジゼル』の1幕はすごく好きです。オデットよりもオディール役の方が発散もできるし、踊りやすいのですが、『白鳥の湖』は何度も踊らせていただいていますので、オデットの方も役の理解とテクニックが少しづつ深まっていて、しっとり見せられるようになっているといいな、と思っています。

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「リーズの結婚」撮影:山廣康夫

――踊りやすさ、と言いますと。

青山 そうですね、『リーズの結婚』とかは音と振りとマイムがしっかりと決まっているので、体力的には大変な部分もありますが、作品の中に入り易いです。全体的にクラシック作品はよくできていますから、踊り重ねるたびに自然と役に入れるようになっていると思います。『ライモンダ』とか。

――『リーズの結婚』では一人芝居するシーンもありますね。一人でいいろいろと空想を巡らす・・・。

青山 そうなんです。演技だけで見せるのはあのシーンしかないので、大切にしないといけないな、と思っています。一人で全部表現しないとけないし。

――『ライモンダ』は格調高くといいますか、気位の高いところを表現しなければならないですね。

青山 そうですね、実際の舞台ではヴァリエーションが多くて、てんてこ舞いなんです。最近、3幕だけ踊りましたが、顔の角度の1ミリ2ミリの違いで、横顔を素敵に見せられるということを教わりました。舞台全体の流れが曲線美になると美しくなるのだな、と思いました。牧先生に教えていただきながら、ほんとうに踊りがいのあるバレエだなと感じました。若い時にはどうしてもそこまで意識を持っていくことができないのですけれど。

――牧阿佐美バレヱ団では多くの振付家の作品を踊ることになりますね。

青山 そうですね、『誕生日の贈り物』なども踊りました。

――アシュトンの振付はやはり難しいですか。

青山 『誕生日の贈り物』を踊らせてもらったのはまだ、入団したばかりで、先輩方に必死についていければという思いで一生懸命に踊りました。

――最近、吉田都さんの引退公演で上演されましたが、牧阿佐美バレヱ団では久しく上演していないですね。アシュトンのステップとかは難しいですね。

青山 身体も使い方とか、二つ折りにするくらいにしなければならなかったりします。前回の『リーズの結婚』を上演した時にアシュトン財団から教えに来てくださった先生に教えていただいて、とてもいい経験になりました。雰囲気や内容がうちのバレエ団にすごく合っている作品です。

――ブルノンヴィルはありましたか。

青山 『ラ・シルフィード』を上演しています。私も踊らせていただきましたが、その時も指導のソレラ・エングランド先生がいらして教えていただきました。

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「白鳥の湖」撮影:鹿摩隆司

――ウエストモーランドのヴァージョンはどうですか。

青山 そうですね、ロイヤル・スタイルのオーソドックスな振付です。『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『ライモンダ』ですね。振付はもちろんですが、ドラマ構成から衣裳装置まで格調高い舞台です。

――プリセツキーの振付もありますね。

青山 はい『ロメオとジュリエット』と『椿姫』、どちらも牧先生と共同振付です。新国立劇場バレエでは牧先生がベルリオーズの音楽に振付けていますが、こちらはオペラと同じヴェルディです。
『ロメオとジュリエット』の振付はやはりロシア風ですね、踊るところが多くて。去年、上演する予定でしたが新型コロナ禍で中止になってしまいました。

――それから今回のローラン・プティですね。

青山 そうですね、久しぶりの・・・

――そうか、『ノートルダム・ド・パリ』が中止になってしまいましたから。

青山 はい、『ノートルダム・ド・パリ』はかなりリハーサルをしていたんですけど・・・『アルルの女』も本当に久しぶりの上演です。牧阿佐美バレヱ団が日本初演した時は私は海外留学中でした。その後、バンジャマン・ペッシュさんと田中祐子さんが地方のガラ公演で踊った時に、私は初めてコール・ドで踊りました。その時もとても素敵な舞台で周りを踊っていても楽しかったことを覚えています。

――ローラン・プティの振付というのはいかがですか。
青山 よく言われるのは、内面で感じたものを心の内側から表現するように、と。でも難しいです。私は、プティ作品で主役を踊るのは初めてなので、とても緊張しています。

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「アルルの女」撮影:山廣康夫

――『アルルの女』は内容を把握することが難しいというか。

青山 男性の主役は、パワフルでテクニック的にも最後までもたせるエネルギーとか、難しいと思うのですが。女性は一途に思いを寄せる役なので、それをどう見せるか、どう伝わるか。男性の主役とのコントラストとか、私がどのように彼に対して反応するかによって、お互いの見え方が違うのだろうな、と思います。決まった定番のクラシックとはまた異なった表現になると思います。間の取り方とかによって、印象もずいぶん変わるので、フレデリ役の水井駿介くんともしっかりと話し合っています。

――『アルルの女』はその関係性がすべてですから、表現することが大変ですね。

青山 女性のヴィヴェット役は彼を想い続けていますが、フレデリの心はどんどん離れていくし。内容の濃い大人のバレエだな、という感じがします。

――確か、プティのバレエ団と一緒にヨーロッパツアーをしましたよね。

青山 はい、『デューク・エリントン・バレエ』や『ピンク・フロイド・バレエ』のツアーで一緒にスペインやフランスを回りました。スペインでは、マドリッドやバルセロナはもちろん、マヨルカ島とかカナリア諸島にも行って野外ステージで踊りました。また、バレエ団でもグラナダのフェスティバルに参加して『眠れる森の美女』を踊りました。

――ローラン・プティと牧阿佐美バレヱ団はとてもいい関係ですね。

青山 1996年に『アルルの女』を日本初演したのも牧阿佐美バレヱ団ですし、『デューク・エリントン・バレエ』は私たちのバレエ団のために振付けられた作品です。

――プティ作品を踊る時に苦労するというのは、どういうところですか。

青山 ポワントの美しさを強調することです。プティ作品に必ず登場するポワントワークがあります。
今、もちろん『アルルの女』を練習しているのですが、目先を変えて別のプティ作品を見て視野を広げてみようかな、と思い『カルメン』とかを観ているところです。

――女性の主役の役柄は正反対ですけれど。

青山 はい。カルメンは強い女性です。自分の感情に素直な女性ですから。

――まず、10月3日の「NHKバレエの饗宴」ですね。

青山 そうです。8組のペアと主役の男女が踊ります。ローラン・プティの没後10年を迎えて、10月9日と10日に「ローラン・プティの夕べ」として『アルルの女』と『デューク・エリントン・バレエ』の2作品を同時に上演します。

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「デューク・エリントン・バレエ」撮影:鹿摩隆司

――初役ですね。

青山 そうなんです。今までバレエ団で踊ってきた先輩の方々がどれだけ想い入れ深く踊ってきたのか、大切にしてきたのかがひしひしと伝わってくる作品なので、しっかりと踊って継承していきたいと思っています。過去には『アルルの女』は草刈民代さんと田中祐子さんがイルギス・ガリムーリンさんと、志賀三佐枝さんが小島直也さんと踊っていて、今、私たちはイルギスさんに教えていただいています。

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© Dance Cube

――そうですか。『アルルの女』のヴィヴェット役の見どころとと言いますと?

青山 美術もゴッホの絵を基としたものですし、絵画的で詩的で美しくて、その世界観に入ることがすごく大変だと感じますが、この舞台の世界観を大切にして踊りたいと思います。元々、私はゴッホが好きでしてアルル地方にも興味がありました。芸術家たちが好む地域なんだなと思います。・・・実際はアルルよりもっと田舎の話なのですが・・・登場人物の心の色を舞台というキャンバスにどう描くのか、思い切って踊ってみたいと思います。
昨日は主役二人だけで通してみて、今日は初めてみんなと一緒に通してたところです。そうすると、やはり感情がつながってきて流れを見ることができます。もう少しするとルイジ・ボニノさんがオンラインなのですが、見てくれることになっています。

――青山さんがカンパニーのトップダンサーとして、いつも心掛けていることはなんですか。

青山 私が先輩方たちに憧れて大切に引き継いできたものをつなげて、発展させていけたらいいな、と思っています。『アルルの女』でも祐子さんや三佐枝さんと、森田健太郎さんとはよくお話しさせていただいております。
牧阿佐美バレヱ団も今までは橘バレエ学校から入団してきた人が多かったのですが、最近は外部から入団する人も増えてきました。それはそれで魅力もありつつ、大切にしてきた伝統も発展させていける一員になれればと思います。

――『アルルの女』とても楽しみにしております。本日はリハーサルでお忙しいところお話を聞かせていただきましてありがとうございました。

公演の詳細は
2021年10月3日
「NHKバレエの饗宴」https://www.nhk-p.co.jp/ballet/
2021年10月9日、10日
「ローラン・プティの夕べ」https://www.ambt.jp

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