ロシア・バレエの楽しさと美しさ、そして踊る歓びに溢れたロシア・バレエ・ガラ2021

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

RUSSIAN BALLET GALA ロシア・バレエ・ガラ2021

『眠れる森の美女』よりローズ・アダージョ プティパ:原振付、直塚美穂、ミハイル・ヴェンシコフ、ボリス・ジュリーロフ、ニキータ・キルビトフ、ヴィタリー・アメリシコ:出演ほか

マリインスキー・バレエ、ミハイロフスキー劇場バレエ、モスクワ音楽劇場バレエなどのスター・ダンサーたちが集い、クラシック・バレエの名作のパ・ド・ドゥを中心とした演目を踊るロシア・バレエ・ガラ。今年は、10名のダンサーが参加して九州から横浜まで13公演が開催された。新型コロナ禍の最中に外国からの出国と日本の入国の制限、外出不可の2週間の隔離、スタッフ・キャストに感染者を出すことができない、などなどの大変に厳しい状況の中で敢行されたツァー公演だった。
芸術監督はミハイロフスキー劇場バレエのミハイル・ヴェンシコフが務め、2部構成のプログラムが組まれた。

第1部は、モスクワ音楽劇場バレエのセカンド・ソリスト、直塚美穂が『眠れる森の美女』のオーロラ姫を踊る「ローズ・アダージョ」(プティパ原振付、チャイコフスキー音楽)で幕を開けた。4人の王子(ミハイル・ヴェンシコフ、ボリス・ジュリーロフ、ニキータ・キルビトフ、ヴィタリー・アメリシコ)が居並ぶ舞台に、オーロラ姫の直塚美穂が登場。彼女はワガノワ・バレエ・アカデミーからミハイロフスキー劇場バレエなどを経て、モスクワ音楽劇場バレエに入団している。身体が伸び伸びとよく動き、アームスの運びもスムーズ。バランスも良かった。登場シーンでは少し表情が硬く感じられたが、すぐに優しいオーロラ姫らしい存在感を表した。

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『眠れる森の美女』直塚美穂 撮影/瀬戸秀美

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『眠れる森の美女』撮影/瀬戸秀美

続いて2018年までマリインスキー・バレエで踊っていたニカ・ツフヴィタリアが『白鳥の湖』第3幕より ロシアの踊り(ゴルスキー振付、チャイコフスキー音楽)を踊った。"ルースカヤ"と呼ばれて親しまれ、劇中ではデヴェルテスマンとして踊られる。ツフヴィタリアは白と淡いブルーのロシアの民俗衣裳と大きな飾りを頭に着けるお馴染みの姿。よく知られるメロディに乗せて、ポワントを多様に使うステップと小さな白い布が軽やかに振られ、観ていて心が楽しくなった。
リムスキー=コルサコフの同名の曲にフォーキンが振付けた『シェヘラザード』よりアダージョを踊ったのは、マリインスキー・バレエのファースト・ソリストだったオクサーナ・ボンダレワと2019年にプリンシパルに昇格したアンドレイ・エルマコフ。サルタンの愛妾ゾベイダに扮したボンダレワは、小柄だが小顔でとてもチャーミングなダンサーで、半裸の身体に煌めく宝飾を飾るとよく似合う。ちょっとアナーキーなトーンもあるノスタルジックな音楽に乗せて、フォーキンの官能的な振付が良く映える。ひとときの快楽を貪った後に、皆殺しにされるのをまるで予感してでもいるかのような、危ない刹那的な感覚ーーそれによって生きていることを実感して確かめているーーが横溢した舞台だった。
ミハイロフスキー劇場バレエのソリスト、イリーナ・コシェレワとミハイル・ヴェンシコフは『白鳥の湖』第2幕よりアダージョ(プティパ、イワノフ、ゴルスキー振付、チャイコフスキー音楽)。ジークフリート王子とオデットの出会いと愛を、美しい弦の響きとともに集中力を高めて踊った。
第1部の最後は『人形の精』よりパ・ド・トロワ(ニコライ&セルゲイ・レガート振付、バイヤー音楽)。マリインスキー・バレエより昨年、モスクワ音楽劇場バレエに移籍したファースト・ソリストのラウラ・フェルナンデスとやはりファースト・ソリスト、ボリス・ジュリーロフ、ワガノワ・バレエ・アカデミーからバイエルン国立バレエに入団したニキータ・キルビトフが踊った。ワガノワ・バレエ・アカデミー公演の定番となっている『人形の精』は、バクストのデザインによる人形たちが着る多彩な色彩に彩られた衣装でも知られる。日本の人形も登場する。ユーモラスで楽しい女性と男性2人によるパ・ド・トロワである。

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白鳥の湖』イリーナ・コシェレワ、ミハイル・ヴェンシコフ 撮影/瀬戸秀美

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『人形の精』撮影/瀬戸秀美

第2部はイリーナ・コシェレワとミハイル・ヴェンシコフが踊る『ライモンダ』第2幕よりアダージョ(グリゴローヴィチ振付、グラズノフ音楽)で始まった。『ライモンダ』は女性の気位の高さと愛の深さが相応するところが見所だが、コシェレワはこの役の理解の深さを感じさせる踊りだった。
『くるみ割り人形』第2幕よりパ・ド・ドゥ(ワイノーネン振付、チャイコフスキー音楽)。ニカ・ツフヴィタリアとマリインスキー・バレエのソリストだったヴィタリー・アメリシコが、初々しい雰囲気を醸して踊った。

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『ライモンダ』イリーナ・コシェレワ、ミハイル・ヴェンシコフ 撮影/瀬戸秀美

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『タリスマン』直塚美穂、ボリス・ジュリーロフ 撮影/瀬戸秀美

『タリスマン』グランパ・ド・ドゥ(グーセフ振付、ドリコ、プーニ音楽)は、直塚美穂とボリス・ジュリーロフが踊った。片側の肩を出した男性ダンサーの薄いブルーの衣裳が、天使に恋するインドのマハラジャの特徴をうまく表している。天使役の直塚はワガノワ・バレエ・アカデミーで学んだダンサーらしく、活力の溢れる踊りでとても良かった。
トリはオクサーナ・ボンダレワとアンドレイ・エルマコフが『ドン・キホーテ』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ(プティパ、ゴルスキー振付、ミンクス音楽)を踊った。ボンダレワは『シェヘラザード』とは打って変わって、宿屋の娘、キトリを歯切れのいい身体使いと闊達な動きで見せた。レヴェランスに至るまで動きに全く無駄がなく、エルマコフとともに観客とのコミュニケーションもしっかりと交わしていた。
ダンサーたちは伸びやかで屈託がなく、ロシア・バレエのガラらしい舞台の楽しさを存分に発揮して踊り、観客も大いに喜んだ公演だった。
(2021年8月30日 神奈川県民ホール 大ホール)

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© Abcdfefghijklmn Opqrstu Vwxyz

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