ベジャール・バレエを継承する芸術監督ジル・ロマンが今年10月の来日公演を語った

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新型コロナ感染拡大のため、2回にわたって延期されてきたモーリス・ベジャール・バレエ団の来日公演がいよいよ10月9日(土)より始まる。世界バレエフェスティバル出演のために来日していた、芸術監督のジル・ロマンが登壇し、上野精養軒で8月23日に記者会見が開かれた。
今回の公演は『ボレロ』『人はいつでも夢想する』『ブレルとバルバラ』が10月9日、10日、11日。そして『バレエ・フォー・ライフ』が10月14日、15日、16日、17日に東京文化会館で上演される。

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photo Yuji Namba

ジル・ロマンは世界バレエフェスティバルのAプロで『スワン・ソング』、Bプロではアレッサンドラ・フェリと『椅子』を踊った。『スワン・ソング』は、ベジャールの二十世紀バレエ団でも踊ったジョルジオ・マディアの振付で、私には21世紀版の『アダージェット』とも見えた。周知のように『アダージェット』は、マーラーの曲に振付けたベジャールの傑作。ジョルジュ・ドンが踊り、ジル・ロマンが継承して、深い印象を残す舞台を披瀝してきた。そして『椅子』は、ジル・ロマンが初めて観たベジャール作品だったとも今回の記者会見で語っていた。
さらにジル・ロマン芸術監督は、新型コロナ禍で時間が取れたので、ベジャールの『わが夢の都ウィーン』(1982年初演)の復刻上演に取り組んでいる、という。『わが夢の都ウィーン』は、かつて欧州に覇権を確立していた都市ウィーンゆかりの名曲――ベートーヴェン、ベルク、ハイドン、モーツァルト、シェーンベルク、シューベルト、ウェーベルン、シュトラウスほか――を使い、20世紀バレエ団のダンサーたちが闊達に踊る。やがて世界は終末を迎える。しかし『青きドナウ』の曲とともに、彼方に光り輝く青空が現れる・・・。輪廻の思想によると言われる壮大なイメージを絢爛の音楽とダンスが一体となって描いた作品である。よく知られる曲では『菩提樹』をS.コンパルドン『白鳥の歌』をM.ガスカール『ルル』をS.ミルクなどが踊った。この作品は1985年10月に日本でも上演された。ちなみにその時、20世紀バレエ団は『わが夢の都ウィーン』『ディオニソス』『コンクール』という一晩もの3本による豪華な来日公演を行っている。ベジャールには他にちょっと思い出すだけでも『未来のためのミサ』『マルロー、あるいは神々の変貌』『われわれのファウスト』『ニーべリングの指環』などなど近年はほとんど上演されていない大きな山のような作品がたくさんある。この20世紀の巨人、モーリス・ベジャールの傑作の数々を知り、継承していくことができるのは、ジル・ロマンをおいて他には誰もいないだろう。それだけにその期待も大きい。

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photo Yuji Namba

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「バレエ・フォー・ライフ」photo BBL - Ilia Chkolnik

そして、今回はその大きな山のひとつ『バレエ・フォー・ライフ』が上演される。この作品は、世界的ロック・バンド、クイーンの象徴的存在だったフレディ・マーキュリーとベジャール・バレエの体現者だったジョルジュ・ドン、このほぼ同時期に夭折してしまったアーティストへのオマージュ、と言われる。クイーンの音楽とジョルジュ・ドンが描いてきた舞台がその根源で融合する奇跡とも言える作品である。
また、ジル・ロマン振付の『人はいつでも夢想する』は、ニューヨークのサックス奏者にして作曲家、インプロヴァイザーなど多くの顔を持つジョン・ゾーンとの出会いから生まれたもの。『ブレルとバルバラ』は、2002年にジル・ロマンとエリザベット・ロスのためにベジャールが振付けた。そして『ボレロ』は言うまでもなく世界的な大ヒット作品である。
今日のような劇場芸術にとって厳しい状況下にいると、ベジャールの偏見がなくおおらかで、しかし人間の愛と死を冷徹に直視し、豊穣なイメージの中にそのドラマを浮かび上がらせる作品、音楽の根源とダンスが愛し合うかのように融合する舞台が、無性に恋しくなってくるのである。

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「ブレルとバルバラ」photo BBL - Gregory Batardon

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「人はいつでも夢想する」photo BBL - Ingo Schaefer

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「ボレロ」ジュリアン photo BBL - LaureN Pasche

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「ボレロ」エリザベット photo BBL - Marc Ducrest


モーリス・ベジャール・バレエ団 2021年 日本公演
詳細は https://www.nbs.or.jp/stages/2021/bejart/index.html

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