20世紀舞踊史の傑作を生んだストラヴィンスキーの『春の祭典』を金森穣が新たに演出振付けた
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』
『夏の名残のバラ』映像舞踊『BOLERO 2020』『Fratres III』『春の祭典』金森穣:演出振付
新型コロナ感染拡大は劇場芸術にさまざまな形で大きな影響を及ぼしている。この公演では、昨年8月に入場者数を制限してプレビュー公演を行わざるを得なかった『春の祭典』と『Fratres III』を完全版として上演している。2作とも昨年6月に初演を予定していたのだが、新型コロナ禍により1年延期され『春の祭典』は、期せずしてストラヴィンスキー没後50年の上演となった。
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
開幕の『夏の名残のバラ』は、Noism副芸術監督を務める井関佐和子に振付けられたもの。2019年に『シネマトダンス――3つの小品』で上演されており、映像表現と関わるダンスである。タイトルはアイルランドの美しい旋律でよく知られる、同名のトマス・ムーアの詞から援用されている。
まず、本番にむけて念入りにメークアップする井関佐和子のクローズアップがスクリーン映し出される。準備が整うと井関の映像は舞台へと向かう。そして井関は、彼女を撮っているカメラマン(山田勇気)とその映像とともに、一面に枯葉を敷き詰めた舞台に登場する。舞台の表現を作る者としてのダンサーは、振付家の表現を体現している自身を意識し、さらにそれを撮影される(凝視される)対象でもあるという、錯綜した存在を表しているのであろうか。
鏡に映った自分の表現を見ていたら、それを映している鏡を見つけたような錯覚。心身が無心のうちに一体となって踊っていた時には気づかなかった、ダンサーの意識の微妙な、しかし大きな変化が描かれていた。執拗に迫るカメラマンの動きにも、ダンサー人生の秋を迎えた心の動揺が写されていたかと思う。よく考え込まれて創られた小品だった。鏡の迷路に迷い込むベジャール振付の『ペトルーシュカ』を一瞬、想起した。
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0『夏の名残のバラ』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
続いて映像舞踊『BOLERO 2020』。昨年夏にオンライン配信された映像による『ボレロ』が大きなスクーリンに映された。Noismのダンサーたちが居間や食堂、玄関など様々なスペースで思い思いの衣裳によって、ラヴェルの『ボレロ』を踊る。その映像を画面全体を12等分に割って、それをいく通りにも組み合わせ、カラーとモノクロ、縁取りなど、画面自体も変幻しつつ映しだされた。画面の変化のリズムが音楽と踊りのリズムと共振していてなかなか面白かった。最後はそれぞれが『ボレロ』を踊りつつ、やがて全員がスタジオに集まってユニゾンする。この世にオンライン配信によってしかダンスが存在できなかった、つい先日までの現実が、まるで「不思議の国」の出来事でもあったかのような奇妙な印象を感じた。
『Fratres III』は、2019年に上演された『Fratres』シリーズ3作目で、最終章となるそうだ。金森は17年間に彼が感じたことの全てを描いた「祈り」だとパンフレットに記している。音楽はアルボ・ペルトの『フラトレス』。古楽のアンサンブルのために作曲された荘厳な音楽である。私は今回がこのシリーズの初見なので次の機会に語らせてもらおう。
映像舞踊『BOLERO 2020』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1『FratresⅢ』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1『FratresⅢ』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
そして『春の祭典』。金森が師と仰ぐベジャールを始め、ピナ・バウシュ、ニジンスキーなど20世紀の舞踊史のレジェンドたちが傑作を残してきたストラヴィンスキーの不朽の音楽である。金森は「もしも(『春の祭典』の)楽器を演奏している人たちが踊り出したら?」「演奏から生まれてくる響きが、そのまま動きとして立ち現れたらどうなる?」、という発想から『春の祭典』の振付を思い着いたという。ストラヴィンスキーの千変万化する音楽を構造として捉えて、ダンサーが個々の楽器となってダンスの動きを創る。そういった着想から金森穣の『春の祭典』は振付けられた。
まず、舞台前面に椅子を横に並べ、白いアッパッパーのような同じ衣裳を着けたダンサーたちが、恐怖に怯えながら全員座る。そして恐怖は恐怖を呼び、集団は集中したり分散したり、個々にはおもねったり怒ったり、共感したり、空間も同時に大きく変容し、ダンサーたちが立つ空間のフェーズもさまざまに変わる。ストラヴィンスキーの音楽の不協和的な響きが際立ち、パニックが渦巻き全体に広がって、ついには「生贄」に至る。それは今日のパンデミックの恐怖に怯えるわれわれのを映しているのかもしれない。
(2021年7月23日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣
撮影:篠山紀信
Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』演出振付:金森穣 撮影:篠山紀信
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