「DANCE TRUCK TOKYO」立川レポート、大型トラックで東京の街にダンスが届く!

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

「DANCE TRUCK TOKYO」は、2019年に始まった東京都の文化プログラムだ。大型トラックの荷台を舞台に、コンテンポラリー・ダンスシーンを牽引するダンサーたちが次々と踊る。LED照明の第一人者・藤本隆行のテクニカルディレクションによる光のアートとのコラボが楽しめ、しかも無料という、たいへん太っ腹な移動型ダンスプロジェクトなのである。
4月9日に行われた立川公演の模様をレポートする。

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北尾亘『サクリファイッス!』 photo by Hiroshi Makino(すべて)

立川は多摩地区最大のターミナル駅だ。近年は再開発が進み、近未来的なイメージすら呈している。暮れゆく奥多摩の山々を行く手に見つつ、中央線に乗り込む。開演はちょうど日没頃、18時過ぎだ。
会場のサンサンロードはデパートやホテルなどに挟まれたエリア。多摩を南北に結ぶモノレールの高架下に、目指す大型トラックが止まっていた。モノレールの高架そのものがスクリーンとなって、そこに鳥が飛んだり、動物が走ったり......洗練されたアニメーション映像が映し出され、足を止めて見る人も多い。(映像:高橋啓祐)

最初の作品は北尾亘の『サクリファイッス!』。北尾は「『いいね』と思ったら僕が右手を上げたとき、一緒に上げてください。『いいね』じゃない、と思ったら左手を......」と、MCも交えて場を盛り上げつつ踊った。つむじ風のようにジャンプし、荷台の壁も使って縦横無尽の動き。トラックの荷台がちっとも狭苦しく感じられないのが不思議だ。トラック全体がゆさゆさと揺れて、エネルギーが外にあふれ出す。

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北尾亘『サクリファイッス!』

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北尾亘『サクリファイッス!』

2つめの作品はブッシュマン 黒須育海・手塚バウシュの『BUZZ』。海水パンツにゴーグル姿の二人が、動物のようにひらりと荷台に飛び乗り、「アメイジング・グレイス」や「少年時代」など叙情的な曲に合わせて踊り出す。照明に照らされたピンク色の肌が綺麗でものすごい異物感。黒須・手塚はオーディションで選出されたダンサーだ。オーディションは2019年に行われ、46組の中から7組が選ばれた。

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ブッシュマン 黒須育海・手塚バウシュ『BUZZ』

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ブッシュマン 黒須育海・手塚バウシュ『BUZZ』

3つめは劇団子供鉅人の『danran』。子供鉅人は、四度の欧州ツアーを果たすなど国内外で注目される関西発の劇団だ。ドラムスの演奏(新藤江里子)とともにドラァグクイーンのような姿で登場したのは、劇団主宰の益山寛司。荷台には空っぽの椅子がいくつか置かれている。益山は、見えない家族に向かって動きと声で激しく何かを訴える。でも家族は理解してくれないらしい。身体表現と音楽だけで、コミカルで少し怖い物語が展開していく。彼女と家族は暴力沙汰になり、挙げ句、トラックの外に吹っ飛ばしたかつらが、彼女の子ども(の幽霊?)のような存在になって復讐にやってくる......。益山はかつらを文楽人形みたいに操って一人で演じているのだが、最後にかつらを抱きしめるシーンには息を呑んだ。わずか10分程度の作品に、濃密なドラマが凝縮されていた。

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劇団子供鉅人『danran』

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劇団子供鉅人『danran』

4つめの作品は蛍光灯を改造した楽器Optronを操るアーティストの伊東篤宏と、全日本ダンストラック協会代表でDANCE TRUCK TOKYOのキュレーターでもある東野祥子による『Optronix』。銀色のマイクロミニドレスに真っ赤なスニーカーの東野は、Optronの発するノイズに動かされ、時には天井からぶらさがって伊東にからみつく。
きゃしゃな東野の動きはしなやかで切れ味鋭く、かつひどくエロチックだ。伊東と東野は音楽とダンスで互いに挑発し合う。いけないものを見ているような気にさせられるのに、凍りつきそうなクールさ。東野は、5月23日の中野公演では同じくキュレーターを務める鈴木ユキオと踊る予定だ。

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伊藤篤弘×東野祥子『Optronix』

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伊藤篤弘×東野祥子『Optronix』

5つめは、ダムタイプのメンバーでもあるSNATCH(砂山典子)の『History Repeating』。SNATCHは、荷台の赤い打ち掛けに金の扇をかざし、あでやかに立つ。でも、マスクをしているし足元はハイヒールだ。流れる曲は『夢見るシャンソン人形』のメロディで、核シェルター内での恋を歌った替え歌。打ち掛けを脱ぎ捨てると、下は真っ白な防護服。なんて不穏なんだと思いながら見ているうちに、曲はセクシーな「ジュテーム・モワ・ノン・プリュ」に変わる。防護服の下は新聞紙のドレス、その下は黒いブラ、その下は......。
その日の立川はかなり底冷えしていたのだけれど、会場の温度はみるみる上がった。乳首につけたフリンジを振り回しながら踊りまくるSNATCHと一緒に、会場全体が揺れていた。強烈な風刺もはなやかな動きも全部込みで、たのしく美しい。

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SNATCH『History Repeating』

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SNATCH『History Repeating』

最後の作品は岡本優(TABATHA)×岡田太郎による『P』。岡本のダンスは音楽そのもので、岡田もD Jのようにキーボードを奏でつつ激しく踊っていた。岡本の体はとても風通しがよく、音楽の小さな間も挑発的な加速も遊びのニュアンスも全部とらえて、受け止めたり受け流したり、一緒に歌ったりしているよう。背中にしょった小さなリュックも踊っていたし、途中で岡本が取り出した小さなミラーボールの光も、荷台の外側や高架を照らす照明も踊っていた。傍らを通り過ぎる人やモノレールまで踊っているような気がした。最後に、岡本はリュックから色とりどりの靴下やアヒルの人形をつかみだし、振りまきながら踊った。コロナ禍の今、ふれあったり声を出したりはできないけれど、ライブでしか味わえないダンスのたのしさを満喫したと思う。

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岡本優(TABATHA)×岡田太郎『P』

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岡本優(TABATHA)×岡田太郎『P』
photo by Hiroshi Makino(すべて)

次回公演も決定している。

中野公演:2021年5月23日(日)/会場:中野区役所前広場

5月8日に予定されていた東大島公演(会場:旧中川・川の駅)は、緊急事態宣言に伴い中止となったが、日程を変更して実施を予定、詳細を後日発表とのことだ。

選び抜かれたアーティストが、トラックの荷台という小空間で小作品を踊るショーケース。コンテンポラリー・ダンスに興味はあるけれど、なかなか公演を観に行くまでには至らないという人に強くおすすめしたい。見慣れた街が劇場になる面白さも味わえるので、近隣の方はもちろん、交通費を払ってでもぜひ。

http://dance-truck.jp/tokyo/

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