ローラン・プティ振付『コッペリア』を無観客で上演しオンラインで無料配信する、新公立劇場バレエ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

今回、緊急事態宣言の発令により新国立劇場バレエ団公演ローラン・プティ振付の『コッペリア』が中止となった。
しかし、劇場公演は無くなってしまったが、発表された4キャスト通りの公演を無観客で上演し、オンラインで無料配信されることになった。まさに公演直前の中止決定であり、ダンサーや関係者の方々の残念な気持ちは察するにあまりある。ただ、無料オンライン配信により、全国のバレエ・ファンがこの素敵な舞台を映像で楽しむことができるということは、これはこれで素晴らしいことである。

予定されているキャストは以下の通り。

5月2日(日)14:00 米沢 唯(スワニルダ)/井澤 駿(フランツ)/中島駿野(コッぺリウス)
5月4日(火・祝)14:00 木村優里(スワニルダ)/福岡雄大(フランツ)/山本隆之(コッぺリウス)
5月5日(水・祝)14:00 池田理沙子(スワニルダ)/奥村康祐(フランツ)/中島駿野(コッぺリウス)
5月8日(土)14:00 小野絢子(スワニルダ)/渡邊峻郁(フランツ)/山本隆之(コッぺリウス)
各日とも16:00頃終了予定(休憩1回含む)

【配信ページ】
・新国立劇場YouTube
・新国立劇場バレエ団Facebook

*配信ページのURLは、配信直前に改めて新国立劇場ウェブサイトにてご案内いたします。
*本動画につきまして、無断複製はお断りいたします。
*見逃し配信はございません。
*公演リーフレットをデジタルブックにて公開予定です。

無料配信により、今年のゴールデンウィークには、新国立劇場バレエ団のダンサーによる、4人のスワニルダとフランツ、そして2人のコッペリウスを見比べることができる。おそらく、今後こんなことはあり得ない、バレエ・ファンにとって空前絶後のチャンスと言っていいだろう。今回の公演では、今までは不動と思われた小野絢子・福岡雄大のペアリングが変わっていることにも着目したい。また、新国立劇場バレエ団でプリンシパルとして踊っていた山本隆之が扮するコッペリウスも見もの。私は、京都バレエで『屏風』を踊った山本隆之を観たが、その表現力に感心した。
作品詳細は https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/coppelia/

221news01_01.jpg

小野絢子 撮影:鹿摩隆司(すべて)

221news01_02.jpg

福岡雄大

221news01_03.jpg

奥村康祐

221news01_05.jpg

米沢唯

この機会に、ローラン・プティ版『コッペリア』について少し語らせていただきたいと思う。
プティ版の『コッペリア』は、1987年5月6日、7日東京文化会館でフランス国立マルセイユ ローラン・プティ・バレエ団により上演された。この公演では、コッペリウス=ローラン・プティ、フランツ=パトリック・デュポン、スワニルダ=ドミニク・カルフーニ、というフランスでも観ることができないと言われたキャストが実現した。(すでにプティとデュポンは旅立ってしまったが・・・)
私は前年に、プティ振付『マ・パヴロワ』『長靴をはいた猫』のバルセロナ公演に招待された。そして来日したプティ、ジジ・ジャンメール夫妻へ、その返礼としての小宴をともにした。また、当時、パリではローラン・プティに関する本はあまり出版されていなかった。しかしプティの来日公演に関連して、私はアヴァン・セーヌ社とアルヴィン・ミッシェル社が刊行していたプティのバレエ作品に関する本を一冊にまとめて編集し、B5判ハードカバーの『ローラン・プティ ダンスの魔術師』として出版した。これには、「日本では立派な本が出版されている」と言って、プティも大いに喜んでくれた。そうした機縁の中で、稀有のキャストの『コッペリア』を観ることができたのだった。
機敏で若いユーモアを巧まずして表すパリジャン、パトリック・デュポンのフランツ、ムキになって拗ねたり追いかけたりするといっそう魅力が輝くドミニク・カルフーニのスワニルダ・・・しかしもちろん、圧巻はローラン・プティのコッペリウスの演技だった。
プティのコッペリウスは、E.T.A.ホフマンの原作に感じられるマッド・サイエンティスト風ではなく、老境に至った瀟洒な紳士。設定もマルセーユの街角となっている。
コッペリウスは留守の間に、好奇心を抑えられなくなって忍び込んできた少女たちを追払い、スワニルダが隠れているとはつゆ知らず、彼女を模して丹精込めて仕上げたコッペリア人形と<二人>で、シャンパンを酌み交わす。そして「時の踊り」の曲とともに、<彼女>を優しく抱いて踊る。哀しみを秘めた悦びを浮かべるコッペリウスの表情と洗練されたステップ。<彼女>が虚しく揺れて、孤独な老紳士に寄り添う・・・。
<見える音楽>、というが、まさに目で見て身体全体に沁み入ってくるような「エスプリ」だった。
新国立劇場バレエ団は、『コッペリア』とともにオペレッタの傑作をバレエで表した『こうもり』という見事な作品もレパートリーにしており、しばしば上演している。今日でも、ローラン・プティのダンスの魂を感じることができることは、ほんとうに幸せなことなのである。

221news01_04.jpg

菅野英男

221news01_06.jpg

小野絢子

221news01_07.jpg

撮影:鹿摩隆司  撮影:鹿摩隆司(すべて)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る