牧阿佐美バレヱ団「プリンシパル・ガラ 2021」、古典バレエの美しさを改めて感じさせてくれた舞台

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団「プリンシパル・ガラ 2021」

『パキータ』第3幕より マリウス・プティパ:振付、『フォー・ボーイズ・ヴァリエーション』牧阿佐美:振付、『ル・コンバ』ウィリアム・ダラー:振付、『ライモンダ』第3幕 テリー・ウエストモーランド:振付(マリウス・プティパによる)

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「パキータ」光永百花  撮影/山廣康夫(すべて)

新型コロナウイルス感染拡大が依然として収まらず、未だバレエ公演にも種々の規制が行われている中、牧阿佐美バレヱ団が「プリンシパル・ガラ 2021」公演を開催した。
今回は第1部が『パキータ』第3幕より、『フォー・ボーイズ・ヴァリエーション』『ル・コンバ』、第2部が『ライモンダ』第3幕、という古典を中心にネオクラシック作品を加えたプログラム構成だった。

幕開きは『パキータ』第3幕より。6年ぶりとなる今回公演のために衣裳一新された。前回は、確か「NHKバレエの饗宴」で観たと思われるが、何回見ても骨格のしっかりとした古典バレエの構成には安定感があり、ゆったりと落ち着いた気持ちで鑑賞することができる。ダンサーたちの出入りにもニュアンスを持たせて整えられおり、装飾を施してしっかりと組み立てられた建築を観ているかのような気分にさせてくれる。
出演は光永百花のパキータと石山陸のリュシアン、第1ヴァリエーションは三宅里奈、第2は今村のぞみ、第3は茂田絵美子だった。近年人気上昇中の光永はグランフェッテもきれいにまとめたし、速い動きも上手くなかなか魅力的なダンサーだ。ただ、少しだけ表情が不安定に感じられたところがあったのだが、踊りには華があり素敵な舞台だった。石山のリュシアンは終始安定して作品全体を支えていた。

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「パキータ」光永百花・石山陸

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「パキータ」

『フォー・ボーイズ・ヴァリエーション』はエドヴァルド・ヘルステッドの音楽に牧阿佐美が振付けた小品。四人の男性ダンサー(細野生、清瀧千晴、濱田雄冴、水井駿介)のシルエットを見せて始まる。そしてそれぞれが短いヴァリエーションを踊り、続いて全員で踊る。大仰さはなく、軽妙軽快で洗練された瀟洒な仕上がりだった。牧阿佐美のこうしたノンプロット作品の振付は巧みで品良く魅せる術に長けている。

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「フォー・ボーイズ・ヴァリエーション」清瀧千晴、濱田雄冴、水井駿介、細野生

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「ル・コンバ」日高有梨、近藤悠歩

『ル・コンバ(決闘)』は、ウィリアム・ダラーがラファエロ・デ・バンフィールドの音楽を使い、イタリアの詩人タッソの「イェルサレムの解放」に基づいて、1949年にローラン・プティ主宰のパリ・バレエ団のために振付けたパ・ド・ドゥ。これを1950年にニューヨーク・シティ・バレエ団で上演するために、3人の兵士役を加えて改訂したもの。
十字軍の戦士タンクレッドとサラセン人の娘クロリンダの悲恋を描いていて、決闘したのち、倒した相手の兜を取ると彼が愛した異教徒のサラセン人の娘だった、という物語。冒頭の踊りで兜を落とすシーンがあり、結末の悲劇を示唆している。まるでリバーダンスのように上体を安定させて、下半身のステップを使って身体に悲しみの表情を作り、物語世界を表している。背景の巨樹が人間の愚かしい結末を招く営為をじっと見守っており、悲しみを浮き彫りにする効果を高めている。自身が刺殺した最愛の女性の死体と踊る、『ロミオとジュリエット』のような演舞も印象的だった。クロリンダ役は日高有梨で悲恋の美しさを見せた。タンクレッド役は近藤悠歩で、行きどころのない絶望感をありありと表した。
ダラーはフォーキンやバランシンの教えを受け、アメリカのバレエの初期にバランシンの下で踊り共同振付も行った。引退後は教師、振付家として活動している。牧阿佐美バレヱ団では『椿姫』『コンスタンチア』『フランチェスカ・ダ・リミニ』などのダラー作品を上演している。

第2部は『ライモンダ』第3幕。
中川郁がライモンダ役、元吉優哉がジャン・ド・ブリエンヌ役を踊った。中川郁は、彼女らしい柔らかなラインを創って優美さを表して踊った。ライモンダは愛を貫いたプライドを持つ気高さを感じさせる人物像が要求される。そうしたところも留意されていたと思われる。元吉は手堅い踊りで舞台を引き締めた。中川とのコンビネーションも良かったと思う。
グラズノフの祝福の声が大地から沸き上がってくるかのような、素晴らしい音楽とグラン・パ・クラシックの古典的な美しさ、チャールダッシュ、マズルカの色彩豊かなリズムに溢れる踊り、、、、。テリー・ウエストモーランド版らしく、古典に礼を尽くした素晴らしい舞台だった。
(2021年3月14日 文京シビックホール 大ホール)

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「ライモンダ」中川郁、元吉優哉  撮影/山廣康夫(すべて)

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