ローザンヌ国際バレエコンクール入賞、淵山 隼平=インタビュー「オンライン審査で参加者一人一人の踊りをじっくり観察できて勉強になった」

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

2019年16歳のときローザンヌ国際バレエコンクールに初挑戦した淵山隼平は、ファイナリストに選出された。それから2年後2021年にオンライン開催となった第49回ローザンヌ国際バレエコンクールに再び挑み、見事5位に入賞した。物静かな物腰ながらその奥に秘められたバレエへの情熱は熱い。
淵山隼平にローザンヌ国際バレエコンクールやアメリカ留学、これまでの歩みなどについてオンラインで話を聞いた。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2021に出場
(C)PDL2021

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ローザンヌ国際バレエコンクール2019『Becomings』(ウェイン・マクレガー振付)
(C)Gregory Batardon PDL2019

――今回の第49回ローザンヌ国際バレエコンクールでの第5位入賞、おめでとうございます。

淵山 入賞が発表された直後は、自分が受賞したとは信じられない気持ちもありましたが、今は少しずつ実感が湧いてきて、次のステップに向けて頑張っていきたい、という思いがみなぎっています。

――2年前の2019年、初めてローザンヌ国際バレエコンクールに挑戦してみようと思われたきっかけをお教えください。

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アクリ・堀本バレエアカデミーの発表会、先輩方・後輩と(後ろより2番目の列)
Photo by courtesy of Shunhei Fuchiyama

淵山 僕にとっては初めての国際バレエコンクールでした。所属するアクリ・堀本バレエアカデミーからはたくさんの先輩方が、ローザンヌ国際バレエコンクールに出場し入賞を果たしてきています(近年では2017年 山元耕陽 第4位/2016年 中村淳之介 第6位/2015年 伊藤充 第3位など)。彼らの背中を小さい頃から間近で見ていたので、いつか自分も出場したいと思っていた憧れのコンクールです。その夢の舞台に出てみたいと努力してきました。

――ローザンヌ国際バレエコンクールを経験された先輩方から学ぶところは多かったですか。

淵山 例えばアームスの使い方やその他様々な点について、先輩方から多くのアドバイスをいただきましたが、とても役に立っています。現在は皆さん世界各地で活躍されているのでなかなかお会いできないのですが。

――ローザンヌ国際バレエコンクールに出場するにあたって、先生方からの教えというのはどのようなものでしたか。

淵山 ローザンヌに向けての特訓期間では選択したクラシックとコンテンポラリーのヴァリエーションについて、それぞれ細かい部分も丁寧に見ていただきました。また前回はコンクール会場でのクラスやコーチングも審査の対象となっていたので、基本に立ち返ってバーレッスンも一から見直していただいたりしていました。

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ローザンヌ国際バレエコンクール2019 © Rodrigo Buas PDL2019

――2019年ローザンヌ国際バレエコンクールのデイリー動画で、クリスチャン・カンシアーニ先生によるジュニア男子グループのコンテンポラリー・クラスを、熱心に受講されている様子を拝見することができました。このクラスを受けた感想をお教えください。

淵山 世界の有名な先生に教わるというのは自分のなかでも貴重な体験でした。コンテンポラリーを教わったことによって、そのジャンルの見方も変わってきました。日本ではコンテンポラリーをあまりやってこなかったのですが、このクラスを受けてからクラシック以外の新しいジャンルの面白さも発見できたと思います。日本でもコンテンポラリーのクラスは受けていたのですが、クラシックほど毎日というわけではありませんでした。昔はコンテンポラリーよりはクラシックが好きでしたが、今はバレエダンサーにとってコンテンポラリーもクラシックと同じくらい重要だと認識して、コンテンポラリーの勉強にも力を入れるようにしています。

――アメリカのハリッド・コンセルヴァトリーThe Harid Conservatoyに留学された理由と留学生活についてお教えください。

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ハリッド・コンサヴァトリー留学中、ビーチで(左から5番目)
Photo by courtesy of Shunhei Fuchiyama

淵山 ハリッド・コンセルヴァトリーはアメリカのフロリダ州にあるバレエ学校です。ABTで活躍されたマルセロ・ゴメスさんの母校でもあります。ロイヤル・バレエスクールで長年教えておられたメーリス・パクリ先生にご指導を仰ぎたいと思い、この学校への留学を決めました。ワディム・ムンタギロフなどが彼の生徒だったそうです。2020年3月コロナで帰国するまでは、パクリ先生のご指導を受けることができてとてもよかったです。
この学校は全寮制で、食事やマナーなどすべてがこれまで日本で暮らしていたときと異なっていたので、新しい環境に慣れるまでは大変でした。けれども親しみやすい雰囲気で、また世界共通の言語でもある英語を話せるようになって自信が持てるようになりました。フロリダは一年中温暖な気候で、学校のあるボカラトンという町はフロリダ半島の大西洋岸に面しており、近くにビーチがあるので休みの日は友だちと海に出かけたり、とオンとオフの切り替えがスムーズにできるのがよかったです。英語に慣れるためにESLコース(English as a Second Language「第二言語としての英語」の略で非英語圏からの留学生に対して行う英語教育)に通って、世界各地から集まる留学生と肩を並べて英語のコミュニケーションを学びつつハリッドの授業も受けていました。通常のバレエ・クラスのほかに、スパニッシュやキャラクター・ダンス、パ・ド・ドゥのクラスやモダン・ダンスのクラスはずっと受けていました。そのほか音楽学、舞踊史、音楽史、栄養学まで幅広い科目があり、プロのダンサーとして生きていくために必要な知識を得ることができ、留学できたことは大変有益だったと思います。

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ハリッド・コンサヴァトリーにて
Photo by courtesy of Shunhei Fuchiyama

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ハリッド・コンサヴァトリー留学中、ビーチ
Photo by courtesy of Shunhei Fuchiyama

――新型コロナウィルスの感染拡大に遭遇されてからどのような生活になったのか、また2019年に続いて、今回、ローザンヌ国際バレエコンクールに再度挑戦しようと決意された経緯をお教えください。

淵山 2020年3月に新型コロナウィルスが世界的拡大しているといわれている頃は、まだアメリカの状況はそれほど深刻視されていませんでした。ハリッド・コンセルヴァトリーも閉校するかどうかしばらく検討を重ねていたようですが、とうとう閉鎖されることになり、それに伴って僕も帰国せざるを得ませんでした。日本に戻ってアメリカの感染拡大の状況が厳しいと報道されるようになったので、ハリッドの校長先生が閉校を決断したことは正しかったのだと思いました。結局、ハリッドで勉強できたのは2020年9月〜21年3月までで、日本に戻ってからはアクリ・堀本バレエアカデミーに通って練習を続けていました。ハリッドのオンライン・クラスも受けていましたが、このように留学の機会が奪われ、踊る機会が失われていくなかで、何か目標があるほうが頑張れると思い、2021年にローザンヌ国際バレエコンクールが開催されるということを知ったとき、もう一度ローザンヌに挑戦したいと思ったのです。

――今年度のローザンヌ国際バレエコンクールが、オンライン開催と決定した時はどのように感じましたか。

淵山 ローザンヌ国際バレエコンクールに再度応募したときは、現地に行って踊るつもりで準備を進めていました。オンライン開催と決まって残念な気持ちもありましたが、新型コロナ禍の中でも最善を尽くしてコンクールを開催していただいたスタッフや審査員の方々にはとても感謝しています。

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ローザンヌ国際バレエコンクール 2021『グラン・パ・クラシック』© PDL2021

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ローザンヌ国際バレエコンクール2021 センター・エクササイズ © PDL2021

――オンライン審査にあたって、クラシックとコンテンポラリーのヴァリエーションを選んだそれぞれの理由と、どのように練習していったのか、また撮影の裏話などもあればお聞かせください。

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ローザンヌ国際バレエコンクール 2021『ディエゴのためのソロ』© PDL2021

淵山 今回は17、18歳のシニア男子グループとなり、年齢が上がったため前回よりもレベルが高いヴァリエーションが課題曲になっています。そのためジュニアのときよりも成長を見せられるもの、今の自分の実力に見合ったものをじっくり選びました。クラシック・ヴァリエーションについては先生方からも「『グラン・パ・クラシック』がいいのではないか」という助言をいただき、この作品に決めました。
コンテンポラリー・ヴァリエーションについては、上半身裸の衣装だとどうしても外国人の参加者より見劣りがすると感じ、『ディエゴのためのソロ』なら白いシャツと黒いパンツという衣装なので、僕の細い体型をうまくカバーできそうだという点も決め手になりました。あの作品は最初はゆっくりと始まるのですが、テンポがだんだん早くなっていくドラマティックな展開で、昔から憧れていた踊りでもあり、今回踊る機会に恵まれてとても嬉しかったです。
日本で撮影する映像が最終版としてコンクールの審査対象になるので、先生方のご指導を受けながら演技をブラッシュアップしていき、時には自分の踊りを録画して見返したり、自分の演技動画をハリッドの先生にも見ていただきアドバイスをいただくこともありました。コンクール審査向けに送った最終版は、収録当日に一度、練習してワンテイクで納めました。

――ローザンヌ国際バレエコンクールについて、前回の通常開催と今回のオンライン形式とを両方ご経験されたご感想をお願い致します。

淵山 2019年のローザンヌ国際バレエコンクールでは、会場で有名な先生方から直接指導を受けられてダンスの見方が変わりました。現地で同年代の男子のお友だちができたのもすごく嬉しかったです。先生方とも交流できたのも何事にも代えがたい思い出です。素晴らしい舞台で踊るという経験もできました。
それまでの審査ではグループ・レッスンの様子を審査員が見守るという形でしたが、今回のオンライン審査では一人ひとりの映像をチェックするので、お国柄やメソッドの違いなどがより明確にわかって興味深かったです。コンクール会場のクラス・レッスンは、グループでいっせいに行われるので、一人一人のバー・レッスンやセンター・ワークをじっくり見ることは不可能でした。準決選・決戦のときも自分の舞台に集中するのが精一杯で、他の参加者の演技を見る余裕はありませんでしたが、今回は参加者による個々のヴァリエーションも一人ずつ見ることができました。コンクール会場に行ったのと同じくらいとても勉強になりました。 審査員の先生方からは審査がすべて終了してから講評をいただくことができました。

――隼平さんがバレエを始めたきっかけとローザンヌ国際バレエコンクールに出場するまでの歩みをお教えください。

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バレエを始めた頃
Photo by courtesy of Shunhei Fuchiyama

淵山 小さい頃はサッカーをやっていたのですが、体が硬かった僕を心配した母がどのスポーツをするにしても体が柔らかいほうがいいのではないかと、5歳のときにたまたま連れて行ったたのがアクリ・堀本バレエアカデミーでした。母は「やめたかったらいつでもやめていいよ」と言ってくれましたが、僕自身がバレエの楽しさにすっかり夢中になってしまい、バレエがどんどん好きになっていきました。このバレエ教室には素晴らしい男性の先輩がたくさんいらしたことも大きかったと思います。
ローザンヌ国際バレエコンクールに出場することを目標とする上で、舞台に慣れておいたほうがいいだろうということで、小学校6年生頃から国内コンクールに出場するようになりました。

――バレエではどの作品が好きですか。今後踊ってみたい役はなんですか。

淵山 クラシックの全幕物では『ドン・キホーテ』『海賊』、 パ・ド・ドゥでは『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』が大好きです。いつか自分でも踊ってみたいです。ハリッド・コンセルヴァトリーでもパ・ド・ドゥのクラスが毎週あり、1時間半のクラスでみっちり練習できたので自分でも上達してきたなと思います。女性ダンサーを支えたり抱えたりするためにトレーニングはこれからも頑張ろうと思っています。

――憧れのダンサーは誰ですか。

淵山 カルロス・アコスタさんとキューバのニジンスキーと謳われたローランド・サラビアさんです。お二人ともテクニックが完璧でとても憧れます。2019年のローザンヌ国際バレエコンクールではアコスタさんが審査員長でバレエ・クラスやコーチングのときに僕たちはじっくりと観察されました。憧れの方が見ていると思うととても緊張しましたが、クラスが始まると僕は先生がおっしゃることに集中して審査員の存在は忘れてしまうほどでした。。コンクール出場者と審査員という立場上、私的なアドバイスなどは禁止されていたのですが、クラスが終わった後は「お疲れ様。よく頑張ったね」と僕たちに労いのお言葉をくださったのがとても嬉しかったです。

――将来についての展望をお聞かせください。

淵山 クラシックだけでなくコンテンポラリー、ジャズダンスなど様々なジャンルに適応できるようになっていきたいと思います。将来的に機会があれば振付にも挑戦してみたいです。

――アメリカ留学をご経験されてもスリムな体型を維持されていますが、その秘訣は。

淵山 元々たくさん食べても太らない体質ではあるのですが、筋肉をつけるために鶏肉やプロテインを摂るよう心がけています。バレエを踊るとたくさん動くので多くのパワーを必要とします。摂取したエネルギーはほとんど消費してしまうのではないかと思うくらいです。もっと太くなりたいというダンサーの方も結構いらっしゃるようです。

――これからローザンヌ国際バレエコンクールを目指す方、プロのバレエ・ダンサーを目指す方へのアドバイスをお願い致します。

淵山 コンクールのように周囲と競い合う環境は、プロのダンサーを志す者にとってどうしても避けて通れないものです。カンパニーに入るためにもオーディションに合格しなければなりません。ポジティブな見方をすれば、コンクールは次へ進むステップのための足がかりになります。コンクールに出場して入賞を目指すという目標を持てば、それに向かって頑張ることができるのでとても効率的だと思います。将来プロのバレエダンサーを目指す方には、ローザンヌ国際バレエコンクールをはじめその他様々なコンクールに挑戦してほしいと思います。

――これからも隼平さんのご活躍を楽しみにしております。お忙しいところ、ありがとうございました。

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