Kバレエカンパニー『白鳥の湖』ゲネプロレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』が、東京のBunkamuraオーチャードホールで上演されている。開幕前夜、3月23日に行われたゲネプロの模様をレポートする。この日の配役はオデット/オディール・成田紗弥、王子・堀内將平、ロットバルト・栗山廉。

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© Hidemi Seto(すべて)

芸術監督・熊川哲也の持論どおり、「ライブに勝る芸術体験はない」かもしれないと見ながら思った。舞台で展開する一瞬一瞬に、見所が詰め込まれているからだ。
たとえば第1幕。幕が上がると、舞台上は王子の誕生日を祝う浮き立つような空気で満たされる。王子の友人・ベンノ(佐野朋太郎)が打ち上げ花火のような豪快なジャンプを見せ、ワルツのステップも生き生きと弾み、若き日の喜びとでもいいたい華やかなエネルギーにあふれる。舞台中央で展開するダンスに目を奪われつつ、堀内王子の演技からも目が離せない。王子のちょっとした身のこなしから、優しくて気取らない人柄で友達も多く、皆に愛されていることがよくわかる。でも、王妃(山田蘭)にはまったく逆らえず、困るといつも隣にいる老家庭教師(伊坂文月)に相談ばかりしているので、ちょっと弱虫なのかな? と思えたりする。熊川版『白鳥の湖』は王子の成長の物語でもある。オデットと心を通わせていく繊細きわまりない2幕のパ・ド・ドゥ、3幕ヴァリエーションの高い跳躍や滑らかな回転の素晴らしさはいうまでもないが、思春期にありそうな心の揺れを感じさせる、とても人間的なヒーローなのだ。
気高く堂々とした王妃や、王子の唯一の理解者らしい家庭教師など、キャラクター一人ひとりに存在感がある。この家庭教師だけが、1幕でちらりと現れるロットバルトの姿を目撃したり、3幕でオディールたちが怪しいと指摘したりするのも興味深い。

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そして熊川版『白鳥の湖』のもう一人のヒーローが悪魔ロットバルト(栗山廉)。2幕の冒頭、有名な「情景」の音楽で踊られるロットバルトのソロは、孤独な男の魂の叫び、という感じで見応えがある。ロットバルトは誰にも愛されず、力で白鳥たちを支配することしかできない。誰にも愛されるけれど、オデットに会うまでは誰も本気で愛したことのなかった王子と真逆の存在といえるかもしれない。
また、ロットバルトから全力で逃れようとするオデットや白鳥たちのエネルギーもすさまじい。ロットバルトと対決する白鳥の群舞は、本作の大きな見所だ。一人ひとりが意志をもった白鳥であり、全員が息を合わせてはばたくと、まるでひとつの生き物のようになる。

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そして、『白鳥の湖』といえばもちろんオデット・オディールなのだけれど、成田紗弥のオデットは、優美さの中に強い生命力が感じられた。また、3幕のオディール役では王子の心をもてあそぶのを楽しんですらいる感じで、爽快なまでの「悪」になっていた。はかなげで可憐なイメージがあったので、その豹変ぶりにびっくりした。

チャイコフスキーのドラマティックな音楽を生かし切り、隅々まで見所にあふれた熊川版『白鳥の湖』。キャストが違うとまたまったく違った印象になるに違いない。公演は28日(日)まで。

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© Hidemi Seto(すべて)

Daiwa House PRESENTS 熊川哲也Kバレエカンパニー Spring 2021
『白鳥の湖』

2021年3月24日(水)〜3月28日(日)
Bunkamuraオーチャードホール
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2021swanlake

★ライブ配信公演も決定
2021年3月28日(日)13:00公演
オデット/オディール:日髙世菜、ジークフリード:髙橋裕哉、ロットバルト:杉野慧
他 Kバレエ カンパニー
※実際の公演同様、 開演が遅れる場合もございます
※3月29日(月)23:59 まで視聴可能
詳細はStreaming + : https://eplus.jp/kballetswanlake-st/
■視聴発売期間 [日本時間]3月10日(水)10:00〜3月29日(月)21:00まで

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