新型コロナ感染拡大の状況に勇気を与える〈ニューイヤー祝祭ガラ〉、上野水香が踊った『ボレロ』ほか

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団

〈ニューイヤー祝祭ガラ〉
『セレナーデ』G・バランシン:振付;『ボレロ』M・ベジャール:振付ほか

年末からの新型コロナの感染者の急増により、1都3県に緊急事態宣言が発出された翌々日、東京バレエ団が〈ニューイヤー祝祭ガラ〉を開催した。「不安な時代にエールを贈る"元気が出るバレエ・ガラ"!」として、急遽、企画されたそうだが、緊急事態宣言が発出される前にチケットを販売している公演に関しては、入場者数などの制限の適用を受けないということで予定通り実施された。プログラムは、ジョージ・バランシンの『セレナーデ』で始まり、3つのクラシカルなパ・ド・ドゥを間にはさんで、モーリス・ベジャールの『ボレロ』で終わるというもの。ベテランと期待の若手をメインの役に起用した、バレエ団の顔見世的な華やかな公演だった。

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© Shoko Matsuhashi

『セレナーデ』では、冒頭、整然とポーズを取る女性群舞の美しさに、まず目を奪われた。バランシンがスクール・オブ・アメリカン・バレエの生徒たちの学習のために振付けた作品なので難度の高いステップはないが、薄いチュールのスカートから透けて見える脚の動きも美しく、チャイコフスキーの音楽に寄り添って、精緻な群舞が展開されていった。間に置かれた沖香菜子らのソロも滑らかで、沖を上手にサポートした秋元康臣の踊りも素晴らしかった。リハーサル中に倒れ込んだ生徒や遅刻してきた生徒の姿がそのまま盛り込まれているのも面白く、プロットのないバレエだが、ソロのダンサーたちのやりとりも含めて、そこはかとないドラマが感じられ、抒情的な絵巻を見る思いがした。

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© Shoko Matsuhashi

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© Shoko Matsuhashi

『ディアナとアクテオン』(アグリッピーナ・ワガノワ振付)のグラン・パ・ド・ドゥは、主役の2人のほか、女性群舞付き。後方に設置された額縁の紗幕の後ろでポーズを取っていたダンサーたちが次々にステージに現れ、踊り終えると元のように額縁の後ろに収まるという演出が洒落ていた。ディアナの涌田美紀は一つ一つのステップを的確にこなしていたが、狩猟の女神としてのパワーがもっと強く出せればと思う。アクテオンは池本祥真で、勇ましいジャンプや回転技が見応えがあった。『タリスマン』(マリウス・プティパ振付)は、天界の女王の娘と下界で出会った貴族の青年との恋を描いた4幕の作品で、タリスマンは女王が娘に持たせた永遠の命を約束する星のお守りのこと。今は全幕で上演されることはなく、下界に送りだされる娘エッラと風の神によるパ・ド・ドゥのみが踊られている。エッラの秋山瑛は身のこなしもたおやかに、初々しさ、爽やかさで印象づけた。風の神の宮川新大はダイナミックなジャンプや見事なアントルシャを見せたが、パートナリングも巧みだった。『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥは、女性群舞と2人の女性のヴァリエーション付きだった。キトリとバジルを踊ったのは伝田陽美と柄本弾。伝田は元気の良いジャンプやダブルを入れたグラン・フェッテを鮮やかにこなし、柄本はスケールの大きなマネージュやパワフルな回転技を披露し、伝田への気配りも細やかだった。

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© Shoko Matsuhashi

締めは、ベジャールの最高傑作の一つで、高い人気を保つ『ボレロ』。赤い円卓の上で踊る"メロディー"は上野水香で、周囲を囲む"リズム"は男性陣が担った。ベジャールから直接指導を受けた上野は何度もこの作品を踊っているが、今回は演技に深みが増し、これまでにない鮮烈な印象を与えた。規則正しく刻まれるリズムと高揚し続けるラヴェルの音楽と一体化するように、上野は腕を伸ばし、身体をしなやかに屈伸させ、鋭く跳躍し、全身にパワーを漲らせていく。気迫のこもった眼差しからは上野の不屈の意志が感じ取れ、それが周囲の男性ダンサーたちにも波及していき、互いに煽るように燃焼度を高めていった。その勢いは客席も巻き込まずにはおかなかった。音楽が頂点に達すると同時に踊りも爆発して終わる。すべてが鎮まった円卓の上に、一瞬、上野の残像を見たように感じた。正に渾身の演技で、新型コロナ禍で苦しんでいる人々を元気づけたいという上野の切なる思いが伝わってきた。元気をもらえたバレエ・ガラだったが、早くコロナが収まり、存分に舞台芸術を楽しめる日常が戻るよう祈るばかりだ。
(2021年1月9日 東京文化会館)

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© Shoko Matsuhashi

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