Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』開幕直前! 堀内將平インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=坂口 香野

今年も『くるみ』の季節がやってきた。
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』は12月2日に初日を迎える。
10月にプリンシパルに昇格したばかりの堀内將平に、熊川版『くるみ』の魅力や現在の心境、観客へのメッセージをうかがった。

――お会いできてうれしいです。今はまさにリハーサルの真っ最中ですよね。

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© Masayuki Ichinose

堀内 そうですね。マリー姫役の塚田真夕さんとのグラン・パ・ド・ドゥの稽古のほかに、クララ役の吉光美緒さんや群舞と合わせての稽古が始まったところです。

――堀内さんから見て、熊川版『くるみ割り人形』の魅力とはどんなところですか。

堀内 Kバレエ作品の魅力は、どれも芸術的でありつつ誰が見ても楽しい、エンタテインメント性が高いところだと思います。『くるみ割り人形』は熊川ディレクター自身が主演していたこともあって、男性ダンサーがくるみ割り人形から王子まで一人で踊ります。人形らしく、しかもテクニックを駆使して踊るねずみとの戦闘シーンなど、男性ダンサーの活躍は見どころですね。
それと、雪のシーンは本当に大好きで、世界一ドラマチックだと思うんです。カーテンが一瞬にして落ちると、その先は真っ白な雪の世界で......。音楽のテンポも他のヴァージョンより断然速くて、たたみかけるようなステップで、息もつけないほどスピーディに展開します。雪の降る量も尋常じゃないし。

――のどに詰まって大変そうな(笑)。

堀内 はい(笑)。昨年は雪の王を踊ったのですが、世界でいちばん素敵な雪のシーンだと思いますよ。そのほかのシーンもすべて工夫がいっぱいの面白いつくりになっていて、見どころは数えきれないくらいありますね。

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© 瀬戸秀美

――『くるみ割り人形』の王子役についてはどうとらえていますか。

堀内 『白鳥の湖』の王子は、感情の起伏がみえるドラマチックな役なんですけど、『眠れる森の美女』や『くるみ割り人形』の王子には、感情表現がそれほどないんですよね。だからひたすらノーブルに、きれいに踊ることが求められる。ただし、熊川版は人形から王子まで一人で踊るので、人形のシーンをうんと個性的に、おもちゃらしく踊ることで、その後の王子らしさが光るんじゃないかなと思っています。僕はロボットっぽいカチカチした動きがあまり得意じゃないので、今研究中です。

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© 瀬戸秀美

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© 言美 歩

――くるみ割り人形が王子の姿に戻るシーン、美しいですよね。それと、グラン・パ・ド・ドゥのアダージオの音楽も大好きで、あれを聴くと胸がきゅっと締め付けられます。

堀内 素敵な曲ですよね。ちょっと物悲しくて。

――今、リハーサルで苦労されていることはなんでしょうか。

堀内 経験したダンサーもみんな言っているのですが、あのグラン・パ・ド・ドゥ、体力的にすごくつらいんですよ。そんなに大変なことをやってるようには見えないと思うんですけど(笑)。

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© 瀬戸秀美

――たしかに、『ドン・キホーテ』や『海賊』のように派手な見せ場があるわけではないですよね。

堀内 たとえば『海賊』は勢いで踊れてしまうところもありますが、『くるみ割り人形』の王子はそうはいかない。テクニック的にも難しいですし、一つひとつのポーズをきれいに止めて、きちっと形を見せていかなくてはならないから。アダージオを踊った後はものすごく息が切れてるんですけど、そのまま回り込んでヴァリエーションを踊る前に、何とか呼吸を整えて......。先輩たちには「地獄の踊りでしょ?」って言われますが、ほんとにそうだなあと思います、

――女性のヴァリエーション、いわゆる「金平糖」の踊り(熊川版ではマリー姫)は、あの繊細なステップがものすごくつらいと聞いたことがありますが......。

堀内 男性もつらいんですよ(笑)。テンポのはっきりとした長調の曲じゃなくて、ちょっと不思議なニュアンスのある音楽ですから、少しでも隙が見えたらだいなしです。

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© 小川峻毅

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© 瀬戸秀美

――毎年、Kバレエの『くるみ割り人形』では数多くの若手がデビューを果たされますね。今回、堀内さんとマリー姫を踊る塚田真夕さん、クララ役の吉光美緒さんはどんなダンサーですか。

堀内 塚田さんは、すごくしっかりしたテクニックをもっているダンサーです。素直で吸収が速くて、リハーサルのたびにどんどん変わっていく姿を、スタジオで毎日見ています。
吉光さんも初めてのクララ役ですけれど、少女らしい表現がとても自然で上手です。きっと子どもたちに共感してもらえるクララになるんじゃないかな。

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塚田真夕、堀内將平 © 瀬戸秀美

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塚田真夕、堀内將平 © 瀬戸秀美

――堀内さん自身、子ども時代の『くるみ割り人形』の思い出はありますか。

堀内 10歳の夏にバレエを始めて、その冬、初めて観た舞台が『くるみ割り人形』だったんです。東京バレエ団の公演で、東京文化会館でした。何もわからずに観ていたけれど、とにかく特別な感じがあって印象に残っていますね。
最初の発表会も『くるみ割り人形』で、1幕はフリッツ、2幕は「葦笛」の曲でパ・ド・トロワを踊りました。このパ・ド・トロワ、振りはグリッサード&アッサンブレの繰り返しでシンプルなんですけど、全然跳べないし、体の使い方もわからない、先生に言われていることの意味もよくわからなくて、すごく難しいなと思いながら踊っていましたね(笑)。

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塚田真夕、堀内將平 © 瀬戸秀美

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© 瀬戸秀美

――今は、塚田さんをはじめ若手にアドバイスすることも多いと思います。堀内さんはとても優しい方だと思いますが、若手の指導では厳しいのでしょうか。

堀内 いえ、そんなに厳しくはないですよ(笑)。ただ、僕自身、Kバレエでとてもたくさんのことを教えていただいたので、それをできるだけ伝えたい。できる限り助けてあげたいと思っています。

――プリンシパル昇進についても教えてください。『海賊』のカーテンコールの場で、熊川芸術監督から発表されたとのことですが、これは事前に予告があったのですか。

堀内 まったくなかったです。ただ、以前熊川ディレクターとお話しした際に「堀内もいつかはプリンシパルに昇進だ......」と言われていて。「ああ、『いつか』は昇進するんだな」とは思っていたんですけど(笑)。

――昇進がまさかあのタイミングでとは思いませんよね。ではスタッフの方には知らされていましたか。

堀内 いいえ、まったく。そもそもあの日は、ディレクターはオンラインライブ配信をご覧になるということで劇場にいらっしゃらない予定でした。それなのに、カーテンコールになったらディレクターがいつの間にか舞台袖にいらして、スタッフさんたちが慌ててカメラの準備を始めて......。

――堀内さんへのサプライズですらなかったんですね。

堀内 ええっ、今日ですか!? と(笑)。心の準備はまったくできていませんでした。後でディレクターに「家で観てたんだけど、あ、これは昇進させなきゃと思って急いで来たよ、間に合ってよかった」と言われました。

――昇進後、何か心境の変化はありましたか。

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堀内將平

堀内 ありましたね。これまでも大きな役をいただいていましたし、稽古して身体のコンディションを整えて、などやること自体は変わらないんですけど。
実はこれまでずっと悩んできていたんです。Kバレエの男性ダンサーには、テクニックが強くて、派手で華麗で......みたいなイメージがあると思うんですね。自分はそのイメージと全然違うけれど、いいのだろうかと。
でも、ターニングポイントになったのが『クレオパトラ』のアントニウスや『死霊の恋』のロミュオーのようなドラマチックな役でした。Kバレエのダンサーの中でも、僕にしかない個性のようなものを熊川ディレクターが見出し、そこを引っ張り出して成長させてくれました。今回の昇格で、自分の存在そのものを認めてもらえたような気持ちになりました。自分らしい踊りでいいんだと。だからこそ、今後ますます努力していかなくちゃならないと思っています。

――『海賊』のコンラッド役、素敵でした。端正な動きから、何かを背負って立つ「孤高の男」の風格みたいなものがとても自然に伝わってきて......。ジャンプの残像がいまだに残っています。それでいてメドーラとのパ・ド・ドゥは甘くロマンティックで。

堀内 いつも演技は考えに考えて、動きを計算してつくっているんですけど、『海賊』では自分の感情を優先して、感情表現の結果として動きがついてくるような形を目指してみたんです。3月に上演するはずだった『若者と死』(プティ振付)の稽古のとき、熊川ディレクターに「堀内は優しすぎちゃうから、もう少し力強い、男らしい表現を考えるように」と言われていて。コロナで舞台が中止になり、そのまま迎えた『海賊』でしたから、ワイルドさをいかに出すかが課題でしたね。

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© 瀬戸秀美

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© 小川峻毅

――『若者と死』、とても見たかったです。ところで、公演自粛期間中はどのように過ごされていたのですか。

堀内 ふだんできないことをしようと思って、身体や心について深く勉強していましたね。食事や睡眠、トレーニング法や呼吸法とか、不安に対処する方法や舞台への心のもっていきかたとか......。図書館で本をいっぱい借りてノートにまとめて、みたいなことを毎日してて。あとは茶道の練習をしたり、料理を作ったり、けっこう忙しく過ごしてました(笑)。

――いろいろお話をうかがって、ここのところドラマチックな役柄が印象的だった堀内さんが『くるみ割り人形』でどんな王子を踊られるのか、ますます楽しみになってきました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

堀内 この一年、ずっと不安な気持ちで日々を過ごされていたかたも多いと思うんです。劇場に足を運んでいただいたり、オンラインで舞台とつながっていただくことで、そういう気持ちが少しでも和らいだらいいなと。僕自身、初めて観た舞台が『くるみ割り人形』だったので、今度は僕らから、子どもたちに夢をあげられたらいいなと思っています。

新型コロナ禍の状況では、芸術は「不要不急」と言われがちですよね。たしかに「不急」かもしれない。衣食住ができていれば、生きてはいける。でも芸術っていちばん人間らしい営みだと思います。精神的に飢えていたり、つらい思いをしている時こそ、芸術が必要なんじゃないかなと。

――本当にそうですね。舞台、楽しみにしています。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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© 言美 歩

熊川哲也 Kバレエ カンパニー
Winter 2020『くるみ割り人形』

2020年12月2日(水)〜12月6日(日)
Bunkamuraオーチャードホール

https://www.k-ballet.co.jp/contents/2020nutcracker

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