中川郁と水井駿介というフレッシュな組み合わせによる『眠れる森の美女』、牧阿佐美バレヱ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『眠れる森の美女』テリー・ウエストモーランド:演出振付(マリウス・プティパ版に基づく)

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水井駿介、佐藤かんな 撮影/鹿摩隆司(すべて)

新型コロナ感染拡大のために3月に『ノートルダム・ド・パリ』、6月には『ロメオとジュリエット』の公演を中止せざる得なかった牧阿佐美バレヱ団が、テリー・ウエストモーランド版『眠れる森の美女』を文京シビックホール20周年記念公演として上演した。予定されていた指揮者のデヴィッド・ガルフォースが来日することができず、冨田実里の指揮により東京オーケストラMIRAIが演奏を行った。ソーシャルデスタンスのために、一部楽器は花道に置かれており、そうしたことからなのか、いつも聴く牧阿佐美バレヱ団のサウンドが少し変わったような印象も受けた。

美術はウエストエンドのミュージカルや映画、テレビなどでも活躍しているロビン・フレーザー・ペイ。今回のヴァージョンでは、カラボス(菊地研)は上手から怒りを秘め艶やかに登場する。衣裳は赤を基調としたデコラティヴなもので、手下はネズミの頭を被り真っ赤なパンツ。王妃や貴族なども赤を効果的に使った衣裳で全体を構成していて、登場人物たちの動きの軌跡に立体感が感じられる良いデザインだった。

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菊地研(カラボス)

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佐藤かんな(リラの精)

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中川郁、水井駿介

中川郁はオーロラ姫を踊るのは2度目だが、落ち着いて安定感のある踊りだった。第1幕冒頭、芳紀まさに16歳、匂うばかりの華やかさ、長い一生の間に僅かな時間しかない最も輝ける宝石のような貴重な時を、行き過ぎることなくうまくアピールした。期待の若手、水井駿介はフロリモンド王子のデビューである。エネルギーのあふれる踊りで活気があり、身体のラインがきれいに現れていた。ただ、少しだけ上半身に固さが感じられたような気がする。表現にもう少しだけ柔軟性が見られるようになればさらに良いダンサーになるのではないかと思った。リラの精は佐藤かんな、第3幕の宝石は織山万梨子、阿部裕恵、坂爪智来、山本達史が折り目正しく踊り、客席も感じ入っていた。そしてフロリン王女とブルーバードは三宅里奈と元吉優哉というキャストだった。初日は青山季可のオーロラ姫と清滝千晴のフロリモンド王子である。

ウエストモーランド版は原典であるブティパ、チャイコフスキーの創作意図を研究して尊重し、多くのダンサーを登場させてヴァラエティに富んだ踊りを次々と踊らせ、奥行きのある舞踊とマイムの物語世界を現出している。特にプロローグの妖精たちの特性や、リラの精がオーロラ姫への贈り物としてカラボスの邪悪な呪いを変える、と言った物語の展開が細やかに整えられている。その点ではダンサーは踊り易いのではないだろうか。全体にオーソドックスで格調高い優れた古典的ヴァージョンである。
新型コロナ禍の中で様々な制限を受けながら、民間のバレエ団がこれだけ登場人物の多い複雑な全3幕のグランド・バレエを上演することは、並大抵のことではないだろうと思われた。敬意を表したい。
(2020年10月4日 文京シビックホール 大ホール)

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中川郁

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水井駿介

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中川郁、水井駿介 撮影/鹿摩隆司(すべて)

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