吉田都新国立劇場バレエ団舞踊芸術監督がシーズン開幕の前日に記者会見を行った
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
撮影:阿部章仁
新型コロナ禍であらゆる劇場芸術の予定が断絶されたなか、少しづつ足どりは鈍いながらバレエ公演が開催されてきている。国立のオペラ劇場に所属する新国立劇場バレエ団も、新任の舞踊芸術監督吉田都の元いよいよグランド・バレエ『ドン・キホーテ』の幕を開ける。その初日を前日に控えて、吉田都監督が開幕直前記者会見を行い、『ドン・キホーテ』のゲネプロをプレスなどの関係者に公開した。これは新規巻き直しの気持ちを込め観客へメッセージを送ろうと言う意気込みの現れであろう。
新国立劇場オペラパレスのロビーに仮設された会場に、秋らしいシックな色合いのパンツルックの吉田都監督が登壇。流石につい先日までスターダンサーとして踊っていただけに絵になる。プレスの面々の気持ちもいつものプレスカンファレンスよりも昂揚しているようにも感じられた。
まず、MCの質問により始まった。もう既報なのでご承知の通り、今回の『ドン・キホーテ』は、本番舞台はもちろん、ダンサーのインタビューやリハーサルなどを含めて初めて有料でオンライン配信され、すでに本番舞台以外は始まっていて見ることができる。特にリハーサル映像では、全身でキャラクターを表現するように、といった細部にわたる吉田都監督のダンサーへの注文が見られる。吉田都監督は踊りのテクニックだけでなく、全身を使った演技など全てを舞台で表現してお客様に伝えること、これは「私もとても苦労したところ」なので、重点を置いてリハーサルを重ねた、という。さらに基礎の大切さを強調し、ダンサーの身体の強化にも努めている、そうだ。
月に1回はスタッフ、キャスト全てのPCR検査を行い、マスクを着けてリハーサルをして、ダンサー自身の手でスタジオを消毒するなど新型コロナの感染対策も徹底している。『ドン・キホーテ』の舞台では、第2幕の森のシーンでは子どもたちの登場などは避けたという。そうした点も含め、改訂振付のアレクセイ・ファジェーチェフにはビデオを送り、了解を得たそうだ。バレエの舞台に限ったことではないが、アーティストの往来ができなくなっていることで様々な影響が出ている。
撮影:鹿摩隆司
撮影:鹿摩隆司
撮影:阿部章仁
ゲネプロの幕開き前には吉田都監督が黒のロングドレスで登場し、新国立劇場バレエ団の公演予定も大幅な変更を余儀なくされたが、感染対策を徹底しながら新しいバレエ公演が始まることを伝えた。そして「ロシア・バレエ」を楽しんでください、と。確かに『ドン・キホーテ』は、プティパが若き日のスペイン紀行に影響を受けて振付けられた作品で、1869年、モスクワのボリショイ劇場で初演された。しばしばスペイン舞踊が踊られるが、その根底にはロシアの踊りの魂が脈動していて、ボリショイのダンサーたちはいつもこのバレエの傑作が、ボリショイ劇場で初演されたことを誇りとして踊っている。まず、プロローグ後の踊りからして、ダンサーたちは次第にテンションをあげていくのではない。一度、先にヴァリエーションを踊って盛り上がっているような状態で舞台に登場する。バックステージでは開幕前から、スタッフ、キャストがともに踊っているかのような舞台、それが『ドン・キホーテ』。
柴山紗帆のキトリと中家正博のバジル。身長も合っていて、伸びやかに踊った。役柄になり切って、心に湧き上がる感情を表そうと指先にまで気持ちを込める努力をしている。コール・ド・バレエもグループ全体が気持ちを一体にして踊ろうとしていることが伝わってくる。エスパーダは井澤駿、街の踊り子は木村優里で、こちらも素晴らしいキレの良い圧巻の踊りだった。また、ドン・キホーテは趙載範、サンチョ・パンサは髙橋一輝、ガマーシュは小柴富久修、メルセデスは益田裕子、キューピッドは広瀬碧が踊った。
全体に表現の曖昧な部分が無く、さらに舞台を重ねていくと踊り手の個が見えてくるのではないだろうか。吉田都監督がテクニックだけでなく、演技的な部分もきちんと表現するように力を入れてきた成果の一部も確かに感じられた。23日からの本番に期待を抱かせるには充分な舞台だった。
また、今後の新国立劇場バレエ団の公演予定が発表され、一部演目の変更も伝えられた。
撮影:鹿摩隆司
・『ドン・キホーテ』アレクセイ・ファジェーチェフ:改訂振付、レオン・ミンクス:音楽。2020年10月23日〜11月1日。
・『くるみ割り人形』ウエイン・イーグリング:振付、ピョトール・チャイコフスキー:音楽。2020年12月12日〜20日。
・「ニューイヤー・バレエ」第1部『パキータ』マリウス・プティパ:振付、レオン・ミンクス:音楽。第2部(『デュオ・コンチェルタント』の演目変更)『ソワレ・ド・バレエ』深川秀夫:振付、アレクサンドル・グラズノフ:音楽。『Contact』木下嘉人:振付、オーラヴァル・アルナルズ:音楽。『カンパネラ』貝川鐵夫:振付、フランツ・リスト:音楽。第3部『ペンギン・カフェ』デヴィッド・ビントレー:振付、サイモン・ジェフス:音楽。2021年1月9日〜11日。
・『眠れる森の美女』(吉田都セレクションの演目変更)ウエイン・イーグリング:振付、ピョトール・チャイコフスキー:音楽。2021年2月20日〜23日。
・『コッペリア』ローラン・プティ:振付、レオ・ドリーブ:音楽。2021年5月1日〜8日。
・『ライモンダ』牧阿佐美:改訂振付・演出、アレクサンドル・グラズノフ:音楽。2021年6月5日〜13日。
詳細は https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/
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撮影:鹿摩隆司
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