堀内充がインスピレーションを受けた芸術家にまつわる3作品を上演、「バレエ コレクション 2020」

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

堀内充バレエ コレクション2020

『PAS DE SIX and TARANTELLA from NAPOLI act III』、WEST SIDE STORY「シンフォニック・ダンス」、『月光』堀内充:振付

堀内充が主宰する「バレエ コレクション 2020」は、5月公演を予定していたが、新型コロナ禍により4ヶ月延期の末、9月9日に目黒パーシモンホールで開催された。2月にリハーサルを始めてから、あしかけ7ヶ月間かけての本番となった。その間、全く先行きが見通せない事態となり、若いダンサーたちを本番にまで導くのは、メンタル面、身体面ともに並大抵のことではなかったであったろうと推察される。ダンサー、スタッフたちがこの状況の中、立派に上演を成功させたことを称賛したいと思う。

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「PAS DE SIX and TARANTELLA from NAPOLI ACT III」© JIN KIMOTO

今回の「バレエ コレクション」は堀内充が影響を受け、インスピレーションを与えられた芸術家たちにまつわる3作品が上演された。
まずは、オーギュスト・ブルノンヴィルの『ナポリ』第3幕より、パ・ド・シスとタランテラ。音楽はエドヴァルト・ヘルステッド。群衆がタンバリンを打ち鳴らす輪の中に色とりどりの民俗衣装を纏った男女のペアが飛び入りして踊る。明るくテンポ良く、全体がひとつになる共感の歓びに溢れた踊り。ステップが生き生きとして、生きること、生命を得たことの得難い感覚を表す。踊るということの原点、原初の人間の有り様が見えてくるダンスだった。堀内がニューヨーク留学時代に学んだSABの名教師、スタンリー・ウイリアムスに捧げられている。堀内がSABの公演にデビューした作品でもあるという。

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「PAS DE SIX and TARANTELLA from NAPOLI ACT III」© JIN KIMOTO

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「シンフォニック・ダンス」© JIN KIMOTO

続いて上演された、WEST SIDE STORY「シンフォニック・ダンス」はレナード・バーンスタインの曲に、シャークスとジェッツの面々が踊る。マリア、トニー、ベルナルド、アニータ、リフがソリストとなり、それぞれの群舞とともに踊る。時系列で表される物語性を消し、バーンスタインの雄弁な音楽とともに表現を作る。ニューヨーク版「春の祭典」とも観られる舞台。性的な鬱屈に焦点を絞っていないけれど、自由を激しく求める青春の群像が入り乱れ、生け贄の犠牲を祀って終わる。人種や偏見に苛まれている若者たちの「春の祭典」である。堀内にとっては、ニューヨーク時代にブロードウェイで上演されていた憧れの作品であり、今またバーンスタインの音楽の魅力を再確認し、オマージュとして振付けられた。

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「シンフォニック・ダンス」© JIN KIMOTO

最後はルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの著名な曲『月光』。小佐野圭のピアノ演奏に振付けたもの。フロアーに映した灯りと照明の光り、ソリストのコバルトブルーとイエロー、群舞のグレーと白、色彩のバランスが良い。光りを表すように光源の月に向かって群舞がラインを作り、その間をソリストのペアが戯れるように踊った。2章の冒頭には堀内充が5人の女性ダンサーと登場。そしてコバルトブルーとイエローの二組のペアが次々と速いテンポで群舞とともに踊った。ピアノの表現とダンスの動きがせめぎあうように流れ、光りの変幻を音楽とダンスでヴィジュアルに表した。演奏とダンスの一体感が心地よかった。小佐野は堀内の大学時代の恩師である。
ラストのカーテンコールで堀内充は、いつもの小クマのぬいぐるみとともにはけたが、全員揃ったところではマイクとって、長きにわたって延期になった公演が無事終わったことを感慨を持って語り、観客への感謝を熱い気持ちで伝えた。
(2020年9月9日 めぐろパーシモンホール 大ホール)

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「月光」© JIN KIMOTO

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「月光」© JIN KIMOTO

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「月光」© JIN KIMOTO

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