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全国に配信される『ドン・キホーテ』でキトリを踊る新国立劇場バレエ団プリンシパル、米沢唯=インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

――『竜宮 りゅうぐう』は久しぶりに観客を入れた公演でしたがとても良い舞台でした。新型コロナウイルス感染拡大により、バレエの舞台が中止になってからはいつ以来の本番でしたか。

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© Takuya Uchiyama

米沢 お客様の前では今年2月末の『マノン』以来です。ただ、3月には無観客で「Dance to the Future」を上演しています。

――一時は、これからバレエの公演はできるだろうか、と思うほどの状況になったのですから、大変でしたね。

米沢 私ももしかしたら年内は踊れないかもしれない、と覚悟していました。

――久しぶりの本番の感触はいかがでしたか。

米沢 お客様の前で『竜宮』を上演できたことはとてもありがたかったです。しかし、すごく緊張しました。もちろん、休演中もできる限りのことはしてきましたが、それが果たして正しかったのか、もしかしたら間違った方向に頑張っていたんじゃないか、という気がして不安でした。

――リハーサルも今までとは違った形で、ソーシャルディスタンスを守りながら進行したのですよね。ですが、衣裳や小道具、照明なども大変に細やかに全体が作り上げられた舞台で感心しました。

米沢 やっぱり、みんなとても緊張していました。スタッフ・キャスト全員がなんだか異様な雰囲気に包まれてガチガチでした。久々の舞台ですし、まだまだ新型コロナの感染が不安な時期でしたし。それでも劇場に来てくださるお客様に変なものは絶対に見せられない、というプレッシャーが凄かったです。ですから初日はメンタル的にもとても大変でした。

――観客の期待に応えるとても良い公演でした。客席も大いに沸いていましたし、Dance Cubeでも紹介させていただきましたが、大きな反響がありました。

米沢 そうですか、ちょっと安心しました。

――次は『ドン・キホーテ』の公演ですね。前シーズンに予定されていた演目ですが、芸術監督に吉田都さんが就任されて最初の公演ということになりました。もちろん、リハーサルも見られていますね。

米沢 はい、見ていただいております。

――米沢さんと吉田都さんは、"Ballet for the Future"公演で同じ舞台で踊られていますね。あの時が初めてですか。

米沢 そうです。"Ballet for the Future"の公演で初めてご一緒させていただきました。

――吉田さんは米沢さんのことをとても評価されていました。実際にリハーサルを受けられていかがですか。

米沢 都さんがリハーサル会場にいらっしゃると、ピリッとした空気になります。私にとっては憧れの方なので、いつも緊張してしまって、「もうちょっと力を抜いて」「呼吸して」などと言われています。

――つい最近まで、第一線の舞台に立たれていた方ですからね。

米沢 演技などもご本人がすごく細かく工夫されていて、そういう際に意識していたことを惜しみなく私たちに伝えてくださるので、ほんとうに勉強になります。

――今回『ドン・キホーテ』の舞台が配信されることになりましたね。以前、米沢さんの『ジゼル』全幕がDVD化されていますが、ダンサーにとって舞台が映像化されるということについてはどのように感じられていますか。

米沢 そうですね、私は自分の悪いところにばかりに目がいってしまって・・・。私は勉強のために映像を観ます。舞台と映像はやっぱり、全く違うものです。実はちょっと苦手意識があります。でも今回は新型コロナ感染の影響もあって観劇にこられない方もいらっしゃるかもしれない。そうした中でご自宅などでもお客様が観てくださるというのは嬉しいです。

――新国立劇場バレエ団の地方公演は少ないですしね。今回の『ドン・キホーテ』では、初日(10月23日19時〜)は井澤駿さんのバジルと踊られて、収録日(10月31日18時30分〜)は速水渉悟さんのバジルと踊られるのですね。パートナーの違いは意識されますか。

米沢 相手が違うと違ったキトリになります。それは面白いです。

――すると、初日を観ておいてから、配信を観るのが一番面白いかもしれませんね。速水さんと組まれるのは・・・

米沢 初めてです。速水さんの新国立劇場主役デビューの舞台でもあります。
速水さんは全幕でバジルを踊るのが初めてで、固定観念が無い分、演技のことなどで話し合うと、私の方が気づかされることも多く、一緒に創っていくのが楽しいです。

――ご自身のではなく、配信映像などはご覧になることはありますか。

米沢 あります。すごい個性的で斬新なチューリッヒ・バレエの『くるみ割り人形』・・・こういうものを家で見ることができるのはすごいなと思いました。それからオランダ国立バレエ団の『マタ・ハリ』も観ました。海外のバレエ団が来日公演を行っても、どうしてもポピュラーな演目になってしまって、こうした舞台は外国まで行かなければ観られないし、とても面白かったです。

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© Chacott

――英国ロイヤル・バレエのライヴビューイングなどでは、主役だけでなく、コール・ド・バレエや小道具、衣裳、指揮者と言ったスタッフの人たちに、元プリンシパルとして経験豊かなダーシー・バッセルがインタビューして、現場の本音を聞き出したりしていて非常に興味深いですね。

米沢 『ロメオとジュリエット』の時でしたが、指導するレスリー・コリアさんが「ダンサーたちが舞台で自由になるには勇気と愛が必要よ」と語っていました。その言葉が舞台前に恐くて立ちすくむ自分に向けられたような気がして、胸がいっぱいになり、泣いてしまいました。踊りじゃなくてインタビューで泣いてるって、なんだろうとか思いますけど。

――そういうところが垣間見られるのが、やっぱり配信のいいところですね。観客席とはまた違った角度からバレエが見えてきて、非常に興味深いですね。『不思議の国のアリス』なんかも大変だと聞いています。

米沢 クリストファー・ウィールドン振付の『不思議の国のアリス』は、スタッフが"戦場"だと言ってました。ダンサーももちろん大変ですが、装置が上がったり下がったりしますし・・・スタッフさんたちのリハーサルが大変みたいで。動きの導線とか決めておかないと混乱してしまうみたいです。『不思議の国のアリス』の前シーズンの公演は中止になってしまいましたが、この舞台のバックステージに迫ったら、またおもしろいでしょうね。

――配信などの舞台映像を観てダンサーとして何か感じられることはありますか。

米沢 どこか映画を観ているような感じです。カメラワークによって見え方が違ってきますし、普段、客席からは見えないところも見えてきます。ああ、そんなところでこんなことやっていたのか、とか気がつくことも多いです。特に演者の人数が多くなると、どこに視線を据えたらいいのか分からなくて、見逃してしまうこともあります。映像で見ると、こういうことがあったからこうなったのか、と改めて物語の理解が深まることがあります。

――楽しみ方はいろいろとありますね。
今回の配信では、吉田都監督と米沢さん、速水さんらダンサーたちのロングインタビューのプレ配信(10月1日より)、吉田監督による米沢さんと速水さんのリハーサルをノーカットでライブ配信(10月9日18時より)、さらに動画視聴者が吉田監督に質問できるライブ配信(10月18日11時より)、そして『ドン・キホーテ』公演動画配信(11月5日より)があるんですね。吉田監督への質問には全国の方もオンラインで直接参加できるのもいいですね。

米沢 リハーサルから観ていただくとダンサーを身近に感じながら本番を観ていただけると思います。"あー、ここのところ苦労していたな"、"あっ、うまくいった" とか、リハーサルの時の感触を感じながら本番の舞台を観ていただけますから。

――バレエは踊られると同時に消えていきますから、そういう発見をしながら「ドキドキ感」を持って、本番のバレエを楽しんでいただけたら、ほんとに嬉しいですね。バレエはやはりスタイルがありますから、それをどんなに苦労して作っているのか、と実感を持って感じられるのではないでしょうか。
ところで米沢さんは、コロナ禍で舞台が止まってしまった時は、どういうことを考えられていましたか。

米沢 私の中では『マノン』の公演で、プツンと切られたまま2ヶ月くらい時が止まっていた、そういう感じです。そして『竜宮』の舞台で、拍手をいただいた時に、また、時が巡り始めたみたいに感じました。新型コロナ禍の時に何を考えていたか、というより、今、やっと作品と向き合いながらものを考えることができる、そういう感じです。何もない時は何もなかったんです。今、思えばそれは苦しかったかもしれませんが、苦しいとすら気づけなかったのです。
『マノン』の最後の2公演が中止になって、「Dance to the Future」は一部配信されましたが無観客でした。そして『ドン・キホーテ』のリハーサルをやりましょう、でも上演できるかどうかわかりません、となったら非常事態宣言が発せられてしまった。リハーサルの途中で「明日からもうバレエ団には来ないでください。今後のことは連絡します」となりました。『不思議の国のアリス』はできるんだろうか。でもこの事態だからしかたがないし、何よりも命が大事だし・・・自宅に戻って、私のできることはなんだろうか、トレーニング、とにかくトレーニング・・・という感じでしたが、私の中の何かはそこで止まっていました。

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撮影:瀬戸秀美

――米沢さんは新国立劇場バレエ団のトップダンサーとして、舞台全体の責任も担っていかなければならない立場に立たれていて、先頭に立ってみんなを引っ張って行かなければならないと思いますが、その点はどのように考えられていますか。

米沢 いつまでもバレエ大好きなバレエ少女でありたい、と思っている自分がいます。先輩方はもちろんですが、例えば速水渉悟さんとか初めて主役を踊る人や、木村優里さん、池田理沙子さん、柴山沙帆さんのリハーサルを見て、「この人が持っていて私にないものはなんだろう」といつも思いながらリハーサルをしています。ですから私が引っ張っていく、みたいな気持ちはほとんどないです。
『竜宮』も3キャストでしたが、今回は6キャストあるんです。それぞれの『ドン・キホーテ』を観ても、ほんとに素敵なダンサーが揃っているバレエ団です。一流のスタッフが集まっているこんな大きな劇場で、自分が真ん中で踊っているってなんだか夢のようです。私は、ロイヤル・バレエスクールにいたわけでもワガノワ・バレエ・アカデミーで学んだわけでもないです。新国立劇場バレエ団に入ってから一からバレエを学んだという気持ちがあって・・・現在の自分の立場が本当に信じられない気持ちです。
これからは、もっとプリンシパルのオーラを出して踊れるようになることを目標にしています。吉田都監督の元で進化できたら、と思っています。

――吉田都さんの教えで一番大切だなと感じたことはどんなことでしょう。

米沢 吉田都さん自身が大変に精密な踊りをされる方です。脚捌き、ポワントワークをとても大切にされています。私の憧れのダンサーですので、そういうところをしっかりと学び、そういう風に踊りたいとすごく気をつけていましたら、「そこじゃないでしょう。お客様にはもっとおおらかに愛をたくさん与えてください。何よりも大事なのはストーリーです」と言われました。やっぱりそうなんだ、脚捌き・ポワントの鮮やかさみたいなのは、作品を彩る煌めきのようなものだけれど、舞台上で語るためにはもっと先に行かなければならない。下半身は本当に細やかな動きをしても、上体は大きく表現しなければいけないのです。
それからよく言われるのは、「きちんと踊ろうとし過ぎている。もっと工夫してもっと楽しんで遊んでもいい」と。でも遊ぶためにはきちんと踊らないとくずせるものもくずせません。踊りが初めからくずれていたら楽しむことはできないので、そこのバランスは私自身が見つけていかなければいけないな、と思っています。

――本日はリハーサルでお忙しい中、貴重な時間を割いていただきましてありがとうございました。大変興味深いお話を伺うことができました。『ドン・キホーテ』大いに楽しみにしております。

新国立劇場 舞踊芸術監督 吉田都 就任公演「ドン・キホーテ」

◎公演の詳細は、こちら
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/

◎チコちゃんといっしょに課外授業 プレミアム配信の詳細は、こちら
https://chicoissyo.com/special/ballet.html

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