森山未來の新感覚朗読パフォーマンス『「見えない/見える」ことについての考察』の全国ツアー

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

森山未來が、声と身体表現による新感覚朗読パフォーマンス『「見えない/見える」ことについての考察』の全国ツアーを行う。ソロ公演としては初の全国ツアーで、10月14日の横浜赤レンガ倉庫1号館を皮切りに、長野、愛知、長崎など7か所38公演を敢行する予定だ。これに先立ち、9月16日に都内で合同取材会が行われた。

本作は、2017年に東京藝術大学の上野キャンパスにある「球形ホール」で初演、2019年にはアラブ首長国連邦のシャルジャで再演され、注目を集めた作品だ。
「初演当時はもちろん、2020年の状況がこうなるとはまったく予測していませんでした。コロナ禍によって価値観が変動してしまい、この先どうやって生きていくのかまさに『手探り』の今、皮肉にも、この作品をやる意味が強まった印象がありますね」と森山は語る。

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題材となるテキストは、ノーベル賞文学作家ジョゼ・サラマーゴの小説『白の闇』。ある日、人々が原因不明の感染症により突然視力を失い、ミルクのように真っ白な闇にとらわれていくという物語だ。パンデミック下の混乱や恐怖、生き残りを図る人々の闘いを描いた、まさに今日的な作品といえる。もうひとつのテキストは哲学者・作家モーリス・ブランショによる『白日の狂気』。強烈な光によって視覚が失われるさま、すべてが「見えすぎる」ことによってかえって「見えなくなる」ことを象徴的に描いた作品だ。
「病気という外的な要因で盲目になる話と、内面的に盲目であるという話。まるで『眼』のような形をした球形ホールという空間で、この二つのテキストを交錯させたら面白いんじゃないか......この作品は、そんなところから立ち上がってきました」。本作が生まれた経緯について、森山はこのように説明する。

今年3月にWHOがパンデミックを宣言してからも、森山は映像によるクリエイションやパフォーマンスを続けてきた。インバル・ピントらとコラボレーションした短編アートビデオ『OUTSIDE』、オンライン演劇『プレイタイム』、辻本知彦とのユニット・きゅうかくうしおによる『地鎮パフォーマンス』の映像配信などだ。コロナ禍での日々や今回の再演について質問されると、森山は次のように語った。
「劇場でスタッフとともに作品をつくり上げ、観客とともに完成させるという、今まで当然のようにできていたことができなくなりました。人と人とが『出会う』場をどう構築すればいいのか、リモートを通じて話し合いながら作品づくりをしていましたね。もどかしい日々ではありました」。
舞台芸術を映像で楽しむという方法はもちろんある。しかし、その場、その時間のふれあいでしか体感できないライブならではの感覚がたしかに存在し、その強度を今、強く感じているという。「『生』で出会えさえすれば大丈夫。それだけでいいとすら思います」と森山は強調する。

「舞台芸術は、人との関わり合いの中で生まれます。スタッフ全員でつくりあげ、観客と共有することによって初めて完結する、そこに美しさを感じるので。お客様が劇場から出たときに、外の風景が少し違って見える、そんな体験になったらいいなと思っています」。

「当たり前の日常」の一角が崩れ落ちた今、「本当に見る」こととはなんだろうか。森山未來の声と、光に浮かび上がる変幻自在な身体が二つのテキストと響き合い、「今見えているもの」の裏側へと誘ってくれそうだ。

「見えない/見える」ことについての考察

10月14日〜11月6日
https://mienai-mieru.srptokyo.com/

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