プッチーニによるイタリアオペラの傑作『トゥーランドット』をヴェロネージが指揮し、大島早紀子が演出・振付ける!

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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イタリアオペラの名匠、アルヴェルト・ヴェロネージが指揮し、H・アール・カオス率いる大島早紀子が演出・振付を行うプッチーニの傑作『トゥーランドット』が上演される!
新型コロナ禍で活力を失っている劇場芸術界に、久しぶりにビッグニュースが伝えられた。
10月17日より順次行われるこの公演は、国内の複数の団体が総力を上げて取り組む、本格的グランドオペラの共同新制作である。『トスカ』や『蝶々夫人』などで知られるプッチーニ晩年の最高傑作『トゥーランドット』を新制作し、神奈川県民ホール、iichico総合文化センター(大分市)、やまぎん県民ホール(山形市)の3会場で上演していく。
アリア「誰も寝てはならない」で有名な『トゥーランドット』は、伝説の時代に生きた氷のような極上の美女トゥーランドット姫と、野心的な若い王子カラフとその忠実な女召使リューの生と死を賭したドラマを描くオペラ。古代中国を舞台として、美の残酷と深い愛が極限にまでせめぎ合う凄絶な物語である。
そしてこのイタリアオペラの傑作の演出・振付をHRカオスを主宰して一世を風靡した大島早紀子が手掛ける。田崎尚美、岡田昌子、福井敬、芹澤佳通ほかの錚々たる歌手の歌唱とともに踊るのは、もちろん白河直子を中心とするH.R.カオス。大島にとってはエクトル・べルリオーズの『ファーストの劫罰』以来の久しぶりのオペラ演出となる。早速、取材に向かった。

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『トゥーランドット』登場人物の関係

オペラ『トゥーランドット』は、冒頭、トゥーランドット姫の花婿となるためには、一国の王子であること、そして美姫が出した三つの謎を解き開かなさければならない。もし謎が解けなければ直ちに首を切り落とされる、と宣告が下される。現に開幕して直ぐ、月の出とともに謎解きに失敗したペルシャ王子が斬首される。しかし、タタールの王子カラフは密かに彼に想いを寄せるリューが必死に止めるのにも耳を貸さず、この命がけの無謀な謎解きに挑戦する・・・。

H・アール・カオスの世田谷のスタジオは、専売特許の宙吊りの練習ができるようになっている。今回のリハーサルでは、床面に銀紙が敷き詰められている。白河直子を始めとする5人の女性ダンサーたちが、大島の指揮のもと厳しいリハーサルを行っていた。宙吊りのダンスによって、舞台の空間の見方を変えてしまったH・アール・カオスのダイナミックな動きが、眼前で繰り広げられる。見た目には爽快な宙吊りのダンスだがダンサーにとっては極めて過酷。5分も空中で動くと気分が悪くなるという。それだけに万全の準備が必要となるわけだ。H・アール・カオスのダンスでは、ダンサーたち全員が宙吊りで劇空間を踊る。もちろん動きには機能的身体的に多くの制限があるが、その動きを表現の方法として組み立てたのは、古今東西、H・アール・カオスというダンスグループだけだろう。
いくつかの濃密なダンスシーンのリハーサルを見せてもらったが、首切り役人のダンス、結婚を申し込み謎解きに失敗し、首を斬られた王子たちの亡霊などが変幻する宙吊りダンスによって踊られて、スタジオ空間ではあるがスペキュタキュラーな光景を体験をした。今日では希薄になっている<創造>の現場に触れた思いだ。なかでも白河直子の首切り役人の宙空で踊るソロは、古代中国と現代日本を劇的仮想世界で交歓させるかのような見応えのあるものだった。

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美しくドラマティックに歌われる、トゥーランドット姫のアリア「遠い昔」(かつて美しい姫が敵に捕らえられ非業の死をとげた、その怨みをはらすため三つの謎の解けぬ王子は首を刎ねられる)、カラフ王子の「誰も寝てはならぬ」(トゥーランドット姫は彼の名前がわかるまでは誰も寝てはならない、と厳命を出す)リューの絶唱「冷たき心もやがては溶けん」(リューは深い愛を抱いているカラフの名を告げるように激しい拷問が加えられた)などの名曲。さらに、ヒーローを作り囃し立て、たちまち残酷に引きずり下ろし鞭打つ、気まぐれな群衆もまた重要な登場人物として力強い合唱によって表される。また、狂言回しの役割を担うピン・ポン・パン大臣たちの面白おかしい演技・・・。こうした美しく響き合う音楽とダイナミックなダンスシーンが大島の華麗な演出によって、渾然となって舞台に横溢するだろう。
大島は『トゥーランドット』に関するあるインタビューに答えているが、それを要約すると「氷のようなトゥーランドットの威厳ある高音の感動やカラフの熱烈なるアリアの恍惚感、リューの心に染み入る声、迫力溢れる合唱」、音楽とダンスがプッチーニの傑作オペラ『トゥーランドット』の深奥を描き、「今日のネット社会の空虚になってしまった希薄な身体の中に、歌や踊りから得られる生の凝縮した瞬間」を作って、観客と「振動し合える空気感、にごりのない幸福な恍惚感を共有していきたい」となる。
プッチーニが最後に残したオペラ『トゥーランドット』は、素晴らしい音楽と鋭く切り込むダンスを駆使する大島早紀子の演出によって、どのような世界を現出するのか、期待は膨らむばかりである。

https://www.kanagawa-kenminhall.com/oita-yamagata-turandot/

大島早紀子

大島早紀子

メインダンサー 白河直子

白河直子

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