光永百花=インタビュー「サマー・バレエ・コンサート2020で『角兵衛獅子』を踊ります」
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ワールドレポート/東京
インタビュー=関口紘一
光永百花は牧阿佐美バレヱ団期待の新進気鋭のダンサー。新型コロナ禍でジュリエット・デビューは果たせなかったが、サマー・バレエコンサート 2020では橘秋子の名作『角兵衛獅子』を踊る。今、この時に花開く――。
――ご出身は千葉県ですか。
光永 はい、千葉市出身です。
――千葉市のKAORIスタジオで習われていたのですか。
光永 はい。
――オーストラリア・バレエのスカラシップを受けられましたね。
光永 はい。学生時代にオーストラリア・バレエスクール、ボリショイ・バレエ学校、パリ・オペラ座バレエ学校のサマースクールにも行きました。ビデオ・オーディションを受けてオペラ座のサマースクールに受かって、憧れのパリ・オペラ座にサマーですが留学できて、深く心に残っています。ナンテールのパリ・オペラ座バレエ学校で、講師の先生も同じで5週間受講しました。私のクラスは女性が15人くらいで男性が10人くらいでしたが、世界中から集まって来ていました。日本人は私のクラスは私一人で、下のクラスには一人か二人くらいいたようです。
――5週間パリに居たらだいぶ慣れますよね。
光永 そうですね、すごく好きになってしまって。オペラ座の公演を割引で観させてくれるので、せっかく行ったからと思って、ガルニエの3000円の天井桟敷でもいいからとたくさん観ました。天井桟敷から見ても、シアラヴォラさんのトゥが美しかったです。フォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムワット・エレヴェイテッド』を観て、『ジゼル』や『白鳥の湖』も観ました。
――なるほど、わかりました! それで京都バレエに行かれたのですね。
光永 そうなんです!
『屏風』光永百花、山本隆之 撮影/瀬戸秀美
――『屏風』では、屏風の女を踊られましたが、雰囲気があってとても良かったです。
光永 はい、でも全身タイツだったのでラインをすごい気にしなければならなかったし、自分の弱点にも向き合いました。あとやはり、表現が難しかったです。
――そうですか、やっぱりオペラ座には憧れますよね。ガルニエの大階段とかホワイエを観て、舞台も素晴らしいしダンサーも素敵ですからね。
光永 そうなんです。京都バレエではオペラ座の先生方を呼んでくださっていますし、一緒に踊らせていただいたことも何回かあります。やっぱり、オペラ座大好きになってしまいます!
――京都バレエでは何を踊られましたか。
光永 先ほど話の出た『屏風』や『アルカード』、『くるみ割り人形』『ラ・シルフィード』、オペラ座のヤン・サイズと『タイス』、『ドン・キホーテ』でオニール八菜さんが踊られた時は森の女王を踊らせて頂きました。
――オペラ座も今は大変な状況ですね。光永さんも『ロミオとジュリエット』に清瀧さんとキャスティングされていたのに残念でしたね。
光永 憧れのジュリエット役はまだ先になってしまいました。
――いつ踊る予定でしたか。
光永 6月13日でした。6月には非常事態宣言の解除になりましたけれど、やっぱりすぐには上演できませんでした。リハーサルもまだ始まっていませんでした。振付だけ覚えていて・・・残念ですけれど、もうひとつ段階を踏んでから、また、踊らせていただける機会があったら、と前向きに考えていきます。
――そうですか。でも世界中の人、誰もができなかったのですから、仕方ないですね。
京都バレエ団にはどのくらい在籍されたのですか。
光永 高校3年間と飛び級して専門学校の2年で5年間ですね。
学校の時間帯は学校の講師の先生方、学校が終わってから予科クラスというのがあってそこでは有馬えり子先生に教えていただいていました。安達哲治先生のパ・ド・ドゥのクラスもありました。
――京都では一人暮らしだったのですか。国内留学状態でしたね。
光永 実は中学三年生の時、一瞬、進路を迷ってバレエをやめてしまったことがありました。もう観にも行かないし、全くバレエから半年間ほど離れましたが、やっぱり、どうしても・・・戻ってきてしまいました。
――その時は、トゥシューズ捨てましたか。
光永 捨てることはできませんでした! レオタードも残ってました・・・。
――でもよかったですね、京都バレエでパリ・オペラ座に直接出会うことができて。
光永 本当に直接教えていただいたことがすごい経験になりました。フランチェスカ ・ズンボ先生とエリック・カミーヨ先生。カミーヨ先生にはパ・ド・ドゥも一緒に組んでいただいたりとか、あとアタナソフ先生は教えはなかったのですが、ファニー・ガイダ先生、モニク・ルディエール先生。それからカール・パケット先生や若手のダンサーもいらっしゃいました。
――パケットは京都バレエでアデュー公演をしたのでしたね。
光永 一緒に組んだヤン・サイズとは、私のことを"べイビー・モモ"と呼んでくださっていて、カミーヨ先生とヤン・サイズとリフトを研究したりしていて、分からないなりに一生懸命聞いて頂いて、今思うと生涯ない経験です。
――そうですか、それは良かったですね、京都バレエに行って正解でしたね。
光永 はい! 今でもバレエに出演させていただいているので。
「グラン・パ・ド・フィアンセ」撮影/鹿摩隆司
――そして牧阿佐美バレヱ団に入団したのはいつでしたか。
光永 2016年7月です。入団二年目に踊らせていただいた『くるみ割り人形』のアラビアの踊りが牧阿佐美バレヱ団でのソリストデビューになります。そこから『白鳥の湖』のパ・ド・トロワと『ライモンダ』の「夢の場」のソリスト、「グラン・パ・ド・フィアンセ」「花のワルツ」のソリスト、日生劇場の『ドン・キホーテ』でキトリを踊らせて頂きました。これが学生対象の公演でしたが主役デビューでした。そして『三銃士』のコンスタンスで初めて本公演の主役です。この役は阿佐美先生に直接教えて頂きましたが、手紙を渡すところの目線とか仕草が、脚で音をとって表現しなさい、と教えて頂いて、そこを特にたくさん練習しました。ドアを開けて入るシーンも2箇所あるのですが、こちらのディティールはたくさん練習しました。
――ダルタニアンは誰でしたか。
光永 モスクワ音楽劇場バレエのドミトリー・ソボレフスキーでした。青山季可さんとダブルキャストでしたので、あまり合わせる練習ができず、始まるまではドキドキでしたが、素晴らしい力強いサポートで助かりました。
――そうでしたか、『三銃士』のコンスタンス役は、難しいというか、このバレエの全体をよく理解していないと踊れない役ですね。牧阿佐美バレヱ団のレパートリーは、なかなか得難いものがあって貴重ですね。『ロミとジュリエット』もプリセツキー版で、ラストで一瞬だけど2人が一緒に生きるという素敵なヴァージョンですね。
光永 そうなんです。ロミオとジュリエットが一瞬、生きているうちに出会って、ベッドの上で自分の腕の中で息絶えてしまう・・・。私も初めて観た時、切ないけれど胸を打たれました。
――それからウエストモーランド版の『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』もいいですね。なかなか格式高くきちんと作られています。
そして8月11日のサマー・バレエコンサート2020では『角兵衛獅子』の第2幕を踊られるのですね。
光永 『角兵衛獅子』は42年ぶりに上演されます。牧阿佐美バレヱ団はレパートリーが、さっきもおっしゃったように、『三銃士』『ノートルダム・ド・パリ』など国内ではあまり見られないもの、オリジナル作品があります。そうした作品を踊らせていただくというので、出来るだけ忠実に踊りたい、と思っております。
「三銃士」コンスタンス 撮影/山廣康夫
――『角兵衛獅子』は以前、新国立劇場で新潟シティバレエ団が上演しましたね。
光永 そうですね、牧阿佐美バレヱ団では42年ぶりの上演になります。初演は森下洋子さんと大原永子さんが踊られました。
――今、リハーサルは進んでいますか。阿部裕恵さんと踊られますね。
光永 はい、リハーサルが進行しています。一緒に踊る裕恵ちゃんとは同期で同じ歳なので、すごくコミュニケーションがとりやすくて、私が姉役で裕恵ちゃんが妹役です。踊りも一緒に踊るので、音を合わせて揃えなければならないですし、演技の部分も同じくらい長くて、そこの間とかはコミュニケーションがとれて踊っていけると思うので、すごくやりやすいです。
――姉妹同士のやりとりが、踊りの流れの中であるのですね。
光永 私が12歳の役なので、今、ゆうき先生に見ていただいているのですが、ちょっとしたところでも大人っぽくなってはいけない、走るのも小刻みにお辞儀も子供っぽく・・・12歳ですが、お姉さんっぽくもしなければなりません。難しいところを練習しています。
途中で虚無僧が出てきて、恋をしてパ・ド・ドゥを踊るシーンもあります。そういう淡い恋がある物語でもあります。お姉さん役は虚無僧から簪をもらって喜びのパ・ド・ドゥも踊ります。12歳で恋もするし、お姉さんでもあるし、まだ子供だし・・・角兵衛獅子を踊って芸を見せなければならないし・・・すごく難しいラインで演技をして、物語を繋いでいかなければなりません。
――角兵衛獅子で踊る方は芸として見せる踊りで、虚無僧に恋心を抱いて踊る方は自分自身の気持ちですね。
光永 お辞儀の仕方も角兵衛獅子として踊る時は、カクッとお辞儀をするんですけど、虚無僧と恥じらいを含んでお辞儀をする時は、手の添え方がちょっと違ったり、角度も違ったりします。今、そういうところを研究してます。
――おもしろいし、なかなか演じ甲斐もありますね。
光永 さらしを持って踊るところは見所だと思います。私たちは白い布を持って、すごく長いんですよ。振って群舞を踊ります。もんぺ服ですけど、襷をかけて・・・・
――そうか、思い出しました。衣裳がとっても良かったですね。日本の衣裳を基にして、その良いところを生かしてバレエにふさわしいようにアレンジしていました。だから群舞がとても鮮やかで美しかった。深く印象に残ってます。バランシンの『セレナーデ』も衣裳がキレイですが、ちょっと「いかにも」という感じがしないでもない。私は『角兵衛獅子』の群舞の方がスッキリとして良かったと思いました。
ところでしばらく、リハーサルのクラスもできなかった期間中はどうしていましたか。
光永 バレエ団の休団中はずっと、『ロミオとジュリエット』がまだ中止になっていなかったし、もしかしたらまだ踊れるかもしれないと思っていたので、身体を落とさないようにしてました。オンラインのクラスは受けていました。出来るだけセンターまで行っていましたが、やっぱり筋力は少し下がっていましたね。その他には自分に合う筋トレを探したり、お料理を作ったりもしました。他にはバレエと全然違う職業の方とお話ししたり、バレエ以外のドキュメンタリーを見ました。例えば、マイケル・ジョーダンのドキュメンタリーや人種問題、環境問題についてなど、深く、重い作品を見て考えるのも好きです。バレエに使えそうなものとか、バレエの演技に参考になる場面を探して見ていました。
緊急事態宣言が解除されてからは、新型コロナに徹底的に注意しながら、少しづつできるようになってきています。
――結局、清滝千晴さんとは合わせずじまいでしたか。
光永 その前のフェスティバル・バレエでは、『パキータ』の真ん中を二人で踊らせて頂きましけれど、舞台の上でその1回だけです。
『ロミオとジュリエット』についてはリハーサルは始まっていなかったのですが、一緒にインタビューを受けた時に、「ああしたいよね、こうだよね」というお話はしました。バレエ団の公式のインスタグラムで「こうしたかったね、ああしたかった」と話だけはしていたのですが・・・叶わず・・。
――残念でしたね。でもまた、きっと踊れますよ、若いですし。『角兵衛獅子』も全幕上演をすることになるんじゃないですか。
光永 今回は2幕の抜粋ですから。
――私は『角兵衛獅子』を振付けた橘秋子さんは非常に優れた舞踊家だったと思っています。最初に国際舞台で踊ることのできるダンサー、森下洋子と大原永子を育てた日本人だし、音楽家を非常に大切にしていて、『角兵衛獅子』の山内正や『飛鳥』の片岡良和、武満徹などを育てることにも一役買っていました。そうした活動を続けながら日本を題材にした日本の文化に基づいた全幕バレエを振付けています。ですから、『角兵衛獅子』を踊るということはとても意義のあることなんだと思います。
それから、光永さんはドラマティックなバレエとモダンなバレエ、コンテンポラリー・バレエとどちらに興味がありますか。
光永 モダンなバレエやコンテンポラリー作品などは、観るのも好きですし、見ていても楽しいです。でも牧阿佐美バレヱ団が古典を大切にしていて、歴史もありますし、やはり、古典を大切にして踊って行きたいな、と思っています。オリジナル作品も機会があれば全部踊りたいです。『白鳥の湖』のオデット/オディールは、小さい頃からの憧れでもあるので・・・チャンスがあればぜひ踊りたいと思っております。そして『ロミオとジュリエット』が一番大好きなバレエなので、音楽も素晴らしいし。ジュリエットは女性の成長の物語でもあると思いますので、この作品を踊ることは、ダンサーとして重要だと思います。
――尊敬しているバレエダンサーは誰ですか。
光永 国内だと中村祥子さん。モニク・ルディエールさん、ドロテ・ジルベールさん、オニール八菜さんです。皆さん脚がしなやかでテクニックが強いダンサーです。祥子さんは子供の頃から好きでしたが、最近ではお子さんがいらして送り出してから、稽古に行かれるそうです。自己管理が素晴らしいなと感じております。
――最近は子供がいるママさんバレリーナは珍しくなくなりましたね。二人いる人もかなりいますし、一度引退してからまた復活した、という人もいますね。
光永 女性は強いですね
――これから、日本のバレエ界で光永さんはどういう存在になっていきたいですか。
光永 まずは、バレエ団で阿佐美先生に直接ご指導していただける機会が増えました。それに一心に集中すること、それからどの先生にも教えていただけることを吸収して、技術も心も成長していきたいです。いろんな先生に出会って学んでいきたいです。ゆくゆくはバレエ団を引っ張っていけるような存在になれたらいいな、と思っています。後はちょっと個人的ですが、TVCMなどにも出させていただいていて、一般の方にも見ていただけているようですので、こうした機会にバレエをもっとよく知っていただければいいな、と思っております。
――そうですか、あと話し足りなかったことはありますか。
光永 そうですね、『角兵衛獅子』では最初の踊りが終わって、本当は一幕で虚無僧と知り合っているのですが、そのシーンはなしに再会します。角兵衛獅子ですから獅子頭を着けて踊っています。その時は命がけで、さらしが地面に着いてしまったらお米がもらえなくて自分が生きていけない、という状況の中で必死になって踊っています。そして虚無僧と再会して獅子頭を取ります。自分はこの獅子頭を持っていないと生きていけないのですが、でも、恋しい虚無僧と踊りたい、のです。その時、獅子頭を外してそっと置くシーンがあるのですけれど、ここが私は、物語をすごく作っていると思っていますので、ぜひ、そういうところにも注目して観て頂きたいと願っています。
――獅子頭を着けていないと生きていけないのだけれど、それを取って一時、自分に戻るんですね。
光永 そして実は虚無僧について行こうとしてしまいます。その前から妹に「行かないで」「行かないで」と表現されているのですが、行こうとしてしまうのです。
――強い12歳ですね。
光永 そうなんです。そういうところもありますので、大事に表現しながら踊っていきたいと思います。12月の『くるみ割り人形』以来の舞台ですから、がんばります。
――それを伺っていっそう『角兵衛獅子』楽しみになりました。本日はリハーサルでお忙しいところありがとうございました。大いに期待しております。
▼牧阿佐美バレヱ団
https://www.ambt.jp/
◎サマー・バレエコンサート 2020
日時:2020年 8月11日(火)17:00開演
会場:文京シビックホール 大ホール
https://www.ambt.jp/summerballet2020/
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