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新国立劇場バレエ世界初演『竜宮 りゅうぐう』〜亀の姫と季(とき)の庭〜のゲネプロ・レポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

新型コロナ禍により公演中止が続いていた新国立劇場では、7月から徐々に公演が再開されつつある。緊急事態宣言後、最初のバレエ公演となる『竜宮』(新作・世界初演)が、7月31日まで上演中だ。振付は、これまでも『サーカス』『NINJA』など、子どもも大人も楽しめるダンス作品を生み出してきた森山開次。今回は初めて、新国立劇場バレエ団のダンサーたちと共に新作バレエを創り上げた。
初日前日の7月23日、検温、消毒をはじめ徹底した感染防止体制が整えられた同劇場で、報道関係者向けに公開されたゲネプロの模様をレポートする。

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撮影:鹿摩隆司

やっとまた劇場に来られた。今回はそれが何より嬉しかった。感染防止のため、当面はビュッフェでの一杯も幕間の歓談もお預けだが、これは少し先の楽しみに取っておきたい。
今回の作品について、森山は「バレエファンの皆様や子どもたちに『やっぱりバレエっていいなあ!』と言われるような、きちんとした『バレエ』を創りたい」と語っている。その言葉どおり、見せ場もテクニックもまさに「バレエ」でありつつ、新鮮な魅力で五感を刺激してくる作品に仕上がっていた。
物語は『御伽草子』の「浦島太郎」が下敷きになっているが、これがとてもバレエっぽいお話なのである。太郎が助けた亀は、実は竜宮城のお姫さまだった。そして、玉手箱を開けた太郎がおじいさんになったところでおしまい、ではない。翁になった太郎はさらに鶴に変身して亀の姫と再会、二人は鶴亀の夫婦明神として末永く人々を守った、というハッピーエンドなのだ。
最初に登場する「時の案内人」(貝川鐵夫)が、これは「時」をめぐる物語だと告げた後、舞台は一気にのどかな島の波打ち際となる。ダンサーたちの滑るようなポアントワークや繊細な腕の動きが、寄せては返すさざ波となり、豪快なジャンプがさかまく大波となる。浦島太郎(井澤駿)は、老松の後ろから大きく跳躍しつつ現れ、手をそっと海水に浸す。床に映し出される文様化された波の映像とあいまって、潮風や砂の手触り、ひたひたと寄せてくる海水のしょっぱさまで感じられそうだ。ダンサーのイマジネーションをそのまま身体で受け取るという希有な体験は、やはり劇場でしかできないものだと思う。太郎が自然とともに生きる優しい男であることも、鶴に化身してもおかしくないような高貴さも、この登場シーンからはっきりと伝わってくる。

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撮影:鹿摩隆司

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© E.Murakami

障子に映るシルエットだけで表現される、幻想的な「鶴の夢」のシーンの後、太郎が助けた亀が姫となって太郎を迎えにくる。米沢唯が演じる亀の姫は、おっとりとほがらかで、かわいらしさと同時に時を越えた存在としての気高さも感じさせる。姫は、浜にいる間は腕に小さなひれ状の手袋をつけているのだけれど、そのひれをそろえて丁寧にお辞儀をし、優雅なマイムで太郎を竜宮城へと誘う。『白鳥の湖』でオデットがマイムで身の上話をするのと似ているが、大海原を泳ぐ海亀の姿もほうふつとさせ、ほほえましくも美しい。

竜宮では、フグやタイ、サメやクラゲなどユニークなキャラクターが次々と登場し、太郎をもてなす。バットマン・タンデュのお手本のような鋭い足さばきでビシビシと決めまくる「イカの三兄弟」のタンゴなど、海の生き物たちのダンスはいちいち工夫されていて楽しい。また、竜宮には四季を一度に堪能できる「季(とき)の庭」があり、太郎はその美しさに我を忘れる。この四季の踊りもそれぞれに見応えがあるが、特に本島美和が踊った秋の女神・竜田姫のシーンは忘れがたい。燃えるような紅葉の中、深紅の着物に黒髪を振り乱して踊る竜田姫が、太郎にすがりつくようにこときれた瞬間、雪道を踏みしめる重い足音とともに「冬」が訪れる――という展開は、むしろ子どもより大人に深い印象を残すのではないかと思う。

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© E.Murakami

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© E.Murakami

「季の庭」で地上の四季を目の当たりにし、故郷が懐かしくなった太郎が、どのように姫と別れ、どのように再会するかについては、これから舞台を観る方のため詳しく述べない。ただ、ちょうど『眠れる森の美女』のようにはなやかで幸福感に満ちたラストシーンだったこと、「バレエっていいなあ」と思いながら帰途についたことを付け加えておく。

今回、森山は新国立劇場バレエ団のダンサーとのワークショップから創作をスタートした。森山がイメージを伝えると、ダンサーたちは「バレエならこういう動きがある」と積極的にアイデアを出し、ともに作品を創り上げていったという。緊急事態宣言が発令されたのは、本格的にリハーサルを始めようとした矢先だった。美術・衣裳までトータルで担当した森山の、誰にも真似のできないイマジネーションの豊かさ、長い自粛期間を経て、限られた時間の中で「竜宮」の世界を見事に具現化したダンサー、スタッフたちの情熱に心からの拍手を送りたい。また、新型コロナ禍の不安がぬぐえない日々ではあるが、この先、一人でも多くの子どもたちがこの作品に劇場で出会えることを願わずにはいられない。

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撮影:鹿摩隆司

新国立劇場 こどものためのバレエ劇場 2020
世界初演・新作バレエ公演「竜宮 りゅうぐう」〜亀の姫と季(とき)の庭〜
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/turtle-princess/

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