表現力は練習で伸ばせる! エモーショナル・トレーニング&友谷真実トークイベント、参加レポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

ダンスは好きだけれど「演技したり、自分なりに表現することはちょっと苦手」と語る人は、意外に多いように思う。表現力は天性のものと思われがちだが、舞台人が表現力を磨くためのトレーニングやメソッドは数多くあり、長いキャリアをもつ俳優の多くが一生トレーニングを続けているという。
小林紀子バレエシアターを経て劇団四季で活躍した水井博子は、それらのメソッドをダンサー向けにわかりやすく伝えるため、全国でエモーショナル・トレーニングのセミナーを行っている。現在は新型コロナ禍のため、オンラインでのレッスンやゲストを招いてのイベントを随時開催中だ。

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水井博子

7月5日、Dance Cubeので「私の踊りある記」連載している、おなじみの友谷真実をゲストに迎えたオンラインイベント「みんなで『Emo』ろう!」に参加させていただいた。
参加者は小学生・保護者からダンサー、指導者まで幅広く、様々な質問が飛び出した。日本人で初めてマシュー・ボーンのカンパニー、ニュー・アドヴェンチャーズに入団、現在もニューヨークで振付家・指導者・ダンサーとして活躍中の友谷は、ダンサーに必要な表現力の磨き方について熱く語った。

最初の30分は、水井博子の指導による簡単なエモーショナル・トレーニング体験。
「五感は感情の入り口と言われています。たとえば味覚。おいしいものを食べた時とまずいものを口に入れた時では、気持ちはまったく違ってきますよね。五感を使って感情を呼び起こすこともできる。それを知っておくだけでも、日常の過ごし方が変わってきますよ」と水井は語る。
この日は、短い音楽を聴いて、思い浮かんだ言葉をどんどん書き出していく、というエクササイズを行った。「ダンス、失恋、大人」「『千と千尋の神隠し』、きれいな水、暗闇に光」「雨上がり、森、夕方、深緑、未来、窓際」「万華鏡、はらはらどきどき、強さ、さみしさ、雪」などなど、同じ曲を聴いてもイメージは一人ひとり違う。
「途中で、『これ書いてもいいのかな』とジャッジするのはやめて、どんどん書いてください。自分だけの世界を書き出すことに慣れてほしい。自分のジャッジを外すことは、表現においてとても大事なことなんですね」。他の人のイメージを聞くのも、自分の引き出しを増やす良い機会になるという。なるほど、「大人の失恋」と思って聴くのと『千と千尋』のイメージを持って聴くのとでは、音の響きまで違って聴こえそうだ。

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友谷真実

ここで、ニューヨークの友谷真実が画面上に登場。友谷と水井は、劇団四季時代先輩・後輩だったという。中学時代にオーディションを受け、15歳で飛び込んだ劇団四季での緊張感あふれる日々のこと、ニュー・アドヴェンチャーズのオーディションやマシュー・ボーンの作品づくりなど、刺激的なエピソードが次々と語られた。ここでは、参加者の表現力についての質問と、それに対するアドバイスをいくつか紹介しよう。

Q1 ある役柄を踊るとき、一つの決まった表現しかできません。どうしたらいろんな表現ができますか。

友谷)相手役の動きに反応してみるだけでも変わります。ソロの踊りでも、ふだんと違うシチュエーションを考えてみるといいですよ。
たとえば、私はマシュー・ボーンの『スリーピング・ビューティ』の乳母役をやったのですが、全幕を通して執事とのやり取りがあるんです。そこで、執事役のダンサーと相談して、ときどきちょっと設定を変えていました。たとえば「今日はケンカしてることにしよう」とかね。そうすると物を受け渡す動作ひとつでも、投げやりに渡されたものをぱっとひったくる、みたいになる。そういう小さな遊びが面白いんです。
そうそう、マクミランの『ロミオとジュリエット』で、2幕の「花嫁」役のダンサーを指導したことがありました。「花嫁」というのは名前のない役で、動きとしては街の人々が祝福する中、ただ階段を降りてくるだけなんですけど、その演技が単調だった。そこで、役柄について彼女にいろいろと質問し、考えてきてもらいました。名前は? 年齢は? モンタギュー家とキャピュレット家のどっち側? 結婚は自分の意志ですか? などなど。彼女が考えたのは、「自分は14歳。結婚は親の言う通りにするものだと思っている。でも結婚相手は別に好きじゃない。同世代のジュリエットには憧れを持っている」という設定でした。そうしたら、表現にぐっと深みが出たの。自分の父親に向かって「あたしえらい子でしょ」と誇らしげな態度を見せるけれど、結婚相手には冷めた目を向ける。

水井)想像力を働かせて、その役の1日を想像してみるのもいいトレーニングになりますよね。たとえばジュリエットだってあくびもするしトイレにも行く。

友谷)想像力を膨らませて生きた人物をつくりあげていくのは、とても楽しい作業ですよ。

Q2 今度『パキータ』のソリストを踊るのですが、アームスの表現が苦手です。どんなトレーニングをしたらいいですか。

友谷)今言ったことを、アームスだけで表現してみて。しゃべらずに、心を腕だけで表現しようとすれば、心と腕がつながる。アームスだけきれいに動かしても、心とつながっていなければ表現にはならないんですね。

水井)足の指だけで会話しましょう、なんてトレーニングもあるんですよ。足先から髪の毛の先まで、すべてに意識を入れて何か伝えようとすると、心とつながって「表現」になる。それがバレエのフォームとつながるといいですね。

友谷)たぶん、バレエの振りもちゃんと気持ちとつながるようにできていると思います。アームスを開いたときと、クローズしたときは感覚が違うと思う。アームスで語りかける意識をもってみてください。

Q3 コンテンポラリー作品の表情やニュアンスはどのように決まるのですか。意識的につくるのか、自然に任せるのか、振付に入っているのか...。

友谷)振付家やディレクターによって違いますね。そもそもクリエイションのしかたから違っていて、作品の題名や音楽のイメージからつくるもの、ストーリーがあるもの......。「題名から」の作品を踊るときは、その言葉について調べて自分なりにイメージを膨らませます。たいてい詩だったり、哲学だったり、背後にいろいろな意味があるので。わからないときはディレクターに質問するか、とりあえず自分の解釈で踊っちゃう。そうすると「それはいいね」「その表現は違うよ」とか言ってくれるから。音楽がある場合は、何度も何度も聴きこみながら、音楽と振りがしっくりするまで繰り返し踊ります。

水井)まずは題名や音楽、ストーリーからイメージをふくらませて自分の解釈をもつこと。そして、自分の解釈を言葉にして伝え、振付家やディレクターと話し合いながらつくり上げていくことが大事だと思います。そのためにも、ふだんからイメージを表現するボキャブラリーを増やしておく必要がありますね。

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イベント参加者たち

Q4 マシュー・ボーンから影響を受けたことはどんなことですか。

友谷)いろいろありますが、いちばん学んだのが「音楽を演技にどう利用するか」ということでしょうか。マシューの作品では、演技と音楽が一体となって、「音楽が私たちのかわりにしゃべってる」みたいになるんです。たとえばダンダンダン!という強い音に、「なぜ!?」というジェスチャーが合わさると、お客様は目でも音楽を聴いて、耳でも演技を見てるような感覚になる。ダンサーの身体から音楽が聴こえてくるんですよね。

水井)ダンサーに音楽性はすごく大事ですね。カウントだけなら手拍子でいいけど、音楽を使ってレッスンする意味を考えてほしい。

友谷)カウントでしか踊れないのはもったいないです。たまには、ポップミュージックでもジャズでも、好きな音楽を使って、音のニュアンスを感じながらレッスンするといいですよ。

Q5 長年バレエを習ってきて、最近ジャズ・ダンスを始めて悩んでいます。バレエの癖が抜けず、動きがぎこちなくて思ったように踊れません。

友谷)「思ったように踊れない」っていうのは一生そうだと思います。有名な俳優さんでも、自分の出ている映画は見られない人がいるくらい。バレエダンサーで「ジャズが苦手」と思っている人は多いけれど、いろいろやり方がありますよ。
まず、自分がカッコいいと思う格好をすること。髪型も自由にしてね。ウィッグとかつけるだけで全然気分が変わります。自分はいけてる、と思うだけでその気になっちゃうんですよね。あとは、カッコいいと思った人の動きをマネする。その人になったつもりで踊ってみる。ただし、鏡で自分をチェックしないこと。「全然違う」と思うと踊れなくなるから。外側から気持ちをつくることも大事なんです。
「バレエの癖を抜こう」とする必要はありません。バレエは、ジャズを踊る上で非常にプラスになりますからね。「私、バレエのおかげでみんなより足が上がる!」って思うとかね。これもできないあれもできない、カッコ悪いと思うより、まず自分を好きになってあげて。本人が楽しんでいれば、見ているほうも楽しくなるから。

水井)踊ること、自分を表現することはそもそも楽しいことですよね。それなのに、ダンスに本気になればなるほど悩みすぎてしまう。「あ、自分はダンスが好きだったんだ」という気持ちに、ときどき立ち戻ることは必要だなと思います。

参加者からは、このほかにも数多くの質問が寄せられた。一人ひとりの質問の答える友谷、水井のアドバイスはとても具体的で熱がこもり、密度の濃い2時間半があっという間に過ぎた。
「内面から出てくるもの」こそが表現になり、人の心を動かす。表現力はトレーニングで磨くことができる......このことはダンスに限らず、あらゆる分野で共通していることかもしれない。

http://www.emotionaltraining.jp/
http://blog.livedoor.jp/hirokomizui-emotionaltraining/archives/cat_150261.html

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