時代を超えて語り継がれてきた、若い人々によって語られるべき『ロミオとジュリエット』、マシュー・ボーン版の映画が公開される

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

Matthew Bourne's "ROMEO +JULIET"

マシュー・ボーン IN CINEMA 『ロミオとジュリエット』

マシュー・ボーンの新演出による『ロミオとジュリエット』の映画がまもなく公開される。マシュー・ボーンは改めて紹介する必要もないかもしれないが、念のために簡略に記すと、『白鳥の湖』を白い羽で作った衣裳を纏った男性ダンサーに踊らせ、興行史に名を残す世界的大ヒットを記録。その後もバレエの古典名作を次々と大胆不敵に改訂して世界規模で上演を行い、その度に大いに話題を集めており、イギリスの舞台芸術を対象としたローレンス・オリビエ賞は6回も受賞している。

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昨年、マシュー・ボーンが12作目として振付けた『ロミオとジュリエット』が映画となって、初めて日本のスクリーンに登場することとなった。
シェイクスピアの国のマシュー・ボーンによる『ロミオとジュリエット』は、セルゲイ・プロコフィエフの音楽を用い、舞台・衣裳デザインはレズ・ブラザーストン、照明はポール・コンスタンブル。キャストは若い実力のあるダンサーを起用し、作品全体としても若さを前面に押し出すような演出を行っている。物語のあらすじはシェイクスピアの原作によっているが、コンテンポラリー作品らしく大胆に改変しているところもある。
まず、よく知られるモンタギュー家とキャピュレット家の激しい対立、という物語の背景は抽象化され、管理するために矯正しようとする社会と愛を貫こうとする若者たちの対立として描かれている。
物語の舞台は、近未来の<ヴェローナ・インスティテュート>という管理社会に反抗的な若者たちを矯正する教育施設。恋愛の自由が奪われていることへの反発から、奇矯な行動に走る若者たちを看守のティボルト(ダン・ライト)は暴力で抑え込んでいる。そして彼はジュリエット(コーデリア・プライスウェイト)に強い関心を持っており、若者たちの激しい反発もかまわず強引に犯してしまう。

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両親に見放されたロミオ(パリス・フィッツパトリック)が施設に入所してくると、マキューシオ(ベン・ブラウン)やその男性の恋人バルサザール(ジャクソン・フィッシュ)たちが珍妙な出迎えをして歓迎する。
そして施設でダンスパーティが開かれる。ここではマキューシオやバルサザールその他の若者たちも、ひととき、看守の監視から逃れ、人間らしい心のこもったダンスを見せる。そしてロミオとジュリエットは、初めて出会い、たちまち愛し合うことになる。
ここはバルコニーのシーンに当たり音楽も同じだが、マクミラン版のようなバレエのムーヴメントによる叙情的な美しさではなく、激しく燃え上がる炎のような愛を自由で率直な身体の動きによって表している。若いエネルギーに溢れた二人が、激しく情熱的に身体をぶつけ合って自然に一体となって昇華していく有様が描かれていて、実に見応えがあった。

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2週間後。仲間たちに囃されて祝福され、ベッドの上で二人きりになったロミオとジュリエット。そこへ酒に酔ったティボルトが乱入してきて、ジュリエットに酔った勢いで頻りに求愛する。その様子が滑稽!とみんなに嘲笑される。怒ったティボルトはマキューシオに銃を突きつけて大暴れ。ついに弾が放たれた! マキューシオに必死で寄り添うバルサザール、ロミオは怒り、仲間たちとともにティボルトを押さえつけ、ついには絞め殺してしまう。絶望的なジュリエットのソロ・・・。このシーンで使われるマンドリンのテーマ曲は、マキューシオの死を悼んでとても効果的だった。

この後、ティボルトの亡霊が登場するなど、原作に勝るとも劣らない恐ろしい悲劇が繰り広げられることになるのだが、残念ながら公開前なので書くわけにはいかない。
レズ・ブラザーストーンの装置は、ホールのようなスペースに三つの入り口を設け、背後の二階を行き来できるようにしていて、全体は金網で囲っている。すべてのシーンがこのセットを活用して巧みに語られ、照明も天井に大きな丸いライトが上がり下がりしたり、変化に富んでいて、スピーディな場面変換と激しいダンスの動きを際立たせ、緊張感のあるドラマを見せた。衣装も装置も純真さを表す白で統一されているが、ラストシーンに現れる血の赤がとりわけ印象的だ。
マシュー・ボーンは「時代を超えて語り継がれてきたこの物語は、若い人々によって語られるべきだ」と語っているが、まさに、若さが圧倒的な輝きを放つ素晴らしいドラマティック・ダンスだった。

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© Illuminations and New Adventures Limited 2019
■配給:ミモザフィルムズ
近日公開予定
公式サイト:http://mimosafilms.com

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