コジョカルの優雅な姿、ポルーニンの鮮やかなジャンプが印象的だった、アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト Bプロ

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2020〉【Bプログラム】

『マルグリットとアルマン』フレデリック・アシュトン:振付、ほか

進化し続けるトップ・プリマ、アリーナ・コジョカルが企画する〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト 2020〉が、AとBの2種のプログラムで開催された。Aプロは別項で書いたので、ここではBプロについて取り上げる。Aプロの項でも書いたが、このプロジェクトは話題のスターを招いて古典から最新作まで多彩な作品を上演するガラ公演で、今回が3度目。ただ、コジョカルは来日直前のリハーサルでケガをしたため、Bプロでは、セルゲイ・ポルーニンとの共演が話題のフレデリック・アシュトン振付『マルグリットとアルマン』以外の3演目は降板した。そこで新たにシュツットガルト・バレエ団のエリサ・バデネスとハンブルク・バレエ団の菅井円加を招き、演目を変更して行われた。

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Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

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第1部の幕開けは、ハンブルク・バレエ団のペア、エリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルによるジョン・クランコ振付『伝説』。クランコがロシアの伝説的バレリーナ、ガリーナ・ウラーノワへのオマージュとして創作したものである。男性が女性を空中で回転させて受け止めるなどの難しいリフトをフォーゲルは確実にこなし、流れるようなデュエットを繰り広げた。
菅井円加は、ジョン・ノイマイヤーが伝説のダンサー、ヴァスラフ・ニジンスキーが残した未完の作品をバレエ化した『ヴァスラフ』よりのソロを踊った。菅井は、何かに突き動かされるように踊り、大胆にジャンプしと、渾身の演技をみせた。アグリッピ―ナ・ワガノワ振付『ディアナとアクテオン』では、フランドル国立バレエ団のナンシー・オスバルデストンとミュンヘン・バレエ団のオシール・グネーオが、バネを効かせた勇ましいジャンプや回転技を鮮やかにこなして爽快だった。コジョカルの公私にわたるパートナーであるヨハン・コボーは、エリック・ゴーティエが彼のために昨年振付けた『ABC』を踊った。ゴーティエはコミカルな『バレエ101』の振付家として知られるが、こちらも同じ趣向。「アラベスク」「ガブリオール」などとバレエのポーズやステップが「A」からアルファベット順にアナウンスされると、それをコボーが即座に実演してみせるもので、「カブキ」「ピナ・バウシュ」といったお題には一瞬戸惑い、「インターミッション」といわれて退場する一幕もあった。「ヴァリエーション」では『ジゼル』などからのヴァリエーションを踊ったが、力強いジャンプや見事な開脚は健在だった。散々振り回されたあげく、「WXYZ」で床に倒れて終わるというユーモラスな作品だった。

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続いては、バデネスとフォーゲルによるイツィク・ガリリ振付『モノ・リサ』。拍を刻むだけのような音楽(トーマス・ヘフス)に反応するように踊り始めたフォーゲルは、やがてバデネスと共に踊りだすが、極限まで脚を振り上げ、彼女をリフトしたまま振り回すなど、アクロバティックな演技を繰り広げ、強烈なインパクトを残した。
次はプティパ振付『海賊』のパ・ド・ドゥで、菅井とマリインスキー・バレエのキム・キミンが踊った。この演目、菅井はAプロでグネーオと組んで踊ったが、Aプロ同様Bプロでも安定した端正な演技で、しなやかに力強くジャンプし、ダブルを入れた32回転も快調にこなした。長身で見栄えのするキム・キミンは、鮮やかなジャンプや躍動感あふれるピルエットをみせたが、すべて完成度が高く、しかも優雅だった。さらに、菅井を優しさで包み込むようにサポートするなど、繊細なセンスを感じさせた。アリよりもコンラッドというイメージだった。

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第2部はコジョカルが唯一出演した『マルグリットとアルマン』。アシュトンが、マーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフのために、アレクサンドル・デュマ・フィスの「椿姫」をもとに創作した一幕の作品で、病床のマルグリットが自身の人生を回想する5つのシーンで構成されている。アルマン役に選ばれたのはポルーニン。19歳で英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルになりながら、わずか2年で退団したかつての"問題児"も、今はミュンヘン・バレエ団のゲスト・プリンシパルで、若手ダンサーの支援も行っているという。この作品はロイヤル・バレエ団在籍中にタマラ・ロホと踊っている。「プロローグ」で、病床のマルグリットの元へと急ぐポルーニンのジャンプは足先に力がこもり、シャープで勢いもあったが、やや重たくみえた。「出会い」の夜会では、男たちに囲まれたコジョカルの優雅で艶やかな姿が際立った。アルマンの熱心な申し出をやんわり退けながら、受け入れたいとの思いが昂じてくる微妙な感じを伝え、「田舎で」ではアルマンと暮らす喜びを横溢させた後、アルマンの父に別れるよう告げられて絶望の淵に沈むが、その落差は痛々しいほど。アルマンの父の説得にあらがい、すがるように伸ばした手からマルグリットの悲痛な叫びが聞こえてくるようだった。「侮辱」では、人生を達観したように振る舞い、アルマンの手荒な扱いにもひたすら耐え、「椿姫の死」ではアルマンとの再会に歓喜しながら、踏むステップは弱々しく、アルマンとキスを交わして息絶える最期が哀れを誘った。アルマンは無邪気さを残した傷つきやすい青年のイメージを抱いていたが、ポルーニンは年上のマルグリットに甘えるという感じはなく、既に逞しくもある大人のイメージで、この役としては少々違和感を覚えた。アルマンの父親役を務めたコボーは、マルグリットに対して慇懃に振る舞いながら容赦なくマルグリットに別れを迫るという、頑固を絵にかいたような演技でドラマを引き締めていた。コジョカルは、Bプロではこの『マルグリットとアルマン』に全力を傾けたと思うが、ケガのため思うように真価が発揮できなかったのではと気になる。次は今回を超えて、更に進化した姿を〈ドリーム・プロジェクト〉でみせて欲しいと思う。
(2020年2月8日夜 オーチャードホール)

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Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

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