菅井円加、フォーゲル、キミン・キムなどが見事に踊った、アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト Aプロ

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2020〉【Aプログラム】

『バレエ・インペリアル』ジョージ・バランシン:振付、『マノン』より第1幕のパ・ド・ドゥ ケネス・マクミラン:振付、ほか

進化し続けるトップ・プリマ、アリーナ・コジョカルが企画する〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2020〉が、AとBの2種のプログラムで開催された。コジョカルは、2012/2013シーズンに英国ロイヤル・バレエ団からイングリッシュ・ナショナル・バレエに移籍したが、ハンブルク・バレエ団など著名なカンパニーにも客演するなど、幅広い活動を展開している。この〈ドリーム・プロジェクト〉は、コジョカルが世界のスターを集めて古典から最新作まで多彩な演目を上演するガラ公演で、2012年、2014年に続き今回が3度目の開催である。
それぞれのプログラムに目玉の企画を用意したが、コジョカルが来日直前のリハーサルでケガをしたため、彼女はBプロのフレデリック・アシュトン振付『マルグリットとアルマン』以外の演目は降板し、他の作品に振り替えた。そして、代わりのダンサーを招き、演目の調整を行うなど、プログラムは大きく変更された。最終的な出演者や演目が発表されたのは、公演のほぼ1日前だった。やむを得ない事情とはいえコジョカルへの期待が大きかっただけに、正直ひどく落胆した。それでも、代わりに招いたダンサーが素晴らしく見応えある作品が上演されたことでガラ公演の体裁は整い、それなりに楽しむことができた。ここでは、Aプロを取り上げる。

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Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

開演に先立ち、座長のコジョカルが挨拶に立ち、プログラムの変更に至った経緯などを語った。Aプロのメインは『バレエ・インペリアル』。ジョージ・バランシンが、帝政ロシアのバレエの礎を築いたプティパとチャイコフスキーへのオマージュとして振付けた格調高いネオ・クラシックの作品で、コジョカルがジュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルと主役のペアを組み、東京バレエ団と共演する予定だった。だが繊細な脚さばきが要求されるため、コジョカルに代わって英国ロイヤル・バレエ団からヤスミン・ナグディが迎えられた。一つ一つ丁寧に踊っていたが、急ごしらえのせいが、どこかぎこちなさがみえた。フォーゲルはよく踊り込んでいるらしく、パートナリングも的確で、しなやかな身体を際立たせるように優雅にステップを踏んだ。東京バレエ団は、中川美雪と宮川新大、生方隆之介の3人のソリストが端正な踊りをみせ、群舞も次々に美しいフォメーションを整然と繰り広げた。

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チラシには、Aプロのもう一つの演目として『ドン・キホーテ ディヴェルティスマン』が載っていたが、コジョカルはこれにも出演せず、踊るのは負担の少ないケネス・マクミラン振付『マノン』より第1幕のパ・ド・ドゥだけになった。そのためか、追加の演目もあった。第2部は、急遽招かれたハンブルク・バレエ団の菅井円加とミュンヘン・バレエ団のオシール・グネーオによるプティパ振付『海賊』よりのパ・ド・ドゥで始まった。成長著しい菅井は精確にポジションを決め、ダイナミックなジャンプも冴え、右手を頭上に伸ばすダブルを入れたフェッテを揺るぎなく回った。逞しい体つきのグネーオはアリにふさわしく、豪快な跳躍や強靭な回転技で圧倒した。

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フランドル国立バレエ団のナンシー・オスバルデストンは自作の『エディット』を世界初演した。エディット・ピアフが歌う「水に流して」にのせ、何かをつかもうとするように腕を伸ばし、床を転がり、ステージを駆け抜けと、荒波にもまれたピアフの人生を暗示するように踊った。公私にわたるコジョカルのパートナー、ヨハン・コボーは、エリック・ゴーティエ振付『ABC』を踊った。ユーモラスな『バレエ101』の振付家として知られるゴーティエが、2019年にコボーのために創ったソロ作品である。「A」では「アラベスク」など、バレエに関する用語がアルファベット順にアナウンスされると、コボーがそのポーズやステップを実演してみせるというもの。「ヴァリエーション」の項では見事なジャンプや開脚をみせ、「インターミッション」では退場するという一幕もあり、散々振り回されたあげく、「WXYZ」で床に仰向けに倒れて終わった。
『マノン』より"寝室のパ・ド・ドゥ"は、Aプロでコジョカルがフォーゲルと組んで踊る唯一の演目となった。甘くロマンティックな情緒を醸し出してはいたが、コジョカルのケガのことを知らされているだけ、「大丈夫?」という思いでみてしまい、フォーゲルもいたわりながら応じているようで、いつものようには楽しめなかった。

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最後を締めたのは『ドン・キホーテ』ディヴェルティスマン。結婚式のグラン・パ・ド・ドゥを中心に他の幕からのヴァリエーションも織り込んで、2組のキトリとバジルの技の競い合いで盛り上げようというもの。グラン・パ・ド・ドゥのアダージオで登場したのはオスバルデストンとマリインスキー・バレエのキム・キミンのペアで、オスバルデストンの大輪の華を思わせる確かなステップや、キム・キミンの美しく弧を描くジャンプが際立ち、彼女を高く掲げる片手リフトも決まっていた。キム・キミンは長身でプロポーションに恵まれていることもあり、その洗練された演技は別格にみえた。ヴァリエーションは第1幕のものも加えられ、菅井とグネーオも入り交じって、胸のすくようなジャンプや変化をつけた回転技を目まぐるしく繰り広げていった。菅井も見事な存在感を示し、32回転を回るオスバルデストンの周りを、男性顔負けの強靭なジャンプで飛んでみせもした。東京バレエ団はドン・キホーテとサンチョ・パンサ、ガマーシュ役の男性が登場し、キホーテがサンチョ・パンサとガマーシュを踊りで競わせるシーンや、群舞の女性が参加する部分もあったが、ゲストたちの演技が傑出していただけに、どこか添え物的に映った。この『ドン・キホーテ』で盛り上がったことで、不満を残したとはいえ、次回への期待を繋ぐガラ公演になった。
(2020年2月6日 オーチャードホール)

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Photo:Kiyonori Hasegawa(すべて)

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