勅使川原三郎、愛知県芸術劇場芸術監督に就任。就任記念公演は庄司紗矢香のヴァイオリンによる『三つ折りの夜』

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

勅使川原三郎が、2020年4月から愛知県芸術劇場の芸術監督に就任する。就任プレ事業として、3月12日にダンサーの佐東利穂子、ヴァイオリニストの庄司紗矢香とのコラボレーションによる『三つ折りの夜 ―遠い時の香りに染みた鏡―』を公演する。
愛知での記者会見に続き、1月31日に勅使川原が率いるKARAS本拠地の東京・荻窪で行われた記者会見では、勅使川原が劇場への思いや今後の展開について語った。

愛知県芸術劇場は、名古屋市の中心部にある中部圏最大級の劇場。実験的な作品にも積極的に取り組んでおり、勅使川原が同劇場で手がけた作品は、いずれも高い評価を得ている。これまでは芸術監督をおいていなかったが、このたび、自主事業の充実と国内外への発信力強化のため、初代芸術監督として勅使川原を迎えることとなった。勅使川原は、「任を受けてとても誇りに感じています」と語ると同時に、打診を受けた当初は、正直、戸惑いがあったと打ち明けた。

「私はこれまで、創作者・表現者としてやってきて、芸術監督のような仕事については考えたことがありませんでした。でも、『舞台から離れた立場に身をおいたら何ができるだろうか』ということに興味があったのも事実です。おもしろい機会になるかもしれないと感じました」

決意のきっかけについて、勅使川原は同劇場のスタッフワークのすばらしさと、「明快な組織図」を挙げる。
「オペラ、ダンス、演劇、現代音楽など、高い専門性をもつ5人のプロデューサーが、各々の上演作品に責任をもたれている。その明快な組織ワークが心地良いんですね。喜び、楽しみを提供することには責任が伴います。困難を乗り越え、芸術を現実化できる実行力のある方たちなので、私はこの仕事を引き受けられる、皆さんのために働きたいと思いました」

愛知県文化振興事業団 菅沼綾子理事長、丹羽康雄館長とともに

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提供:愛知県芸術劇場 © Naohshi Hatori

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提供:愛知県芸術劇場 © Naohshi Hatori

自作品を上演したときの同劇場の印象については「自由な精神で、様々な発想を引き受ける場所」と語る。
「1993年に上演した『NOIJECT』は、東京の劇場でも二の足を踏みそうな実験的な作品。2014年には、パリ・オペラ座のオーレリー・デュポンさんをゲストに『睡眠 ―Sleep―』を上演しましたが、どちらもやりたいことをすべてやらせていただきました。スタッフに熱気があって、人と人の間にすきま風がないんです。部外者を丁寧に招き入れ、熱くつきあおうとする精神がある」。

その一方で、芸術監督としての自分と、表現者としての自分はできる限り分けていきたいという。
「決して劇場を自分の色に染めるために就任するのではありません。これまでスタッフの方々が実現してきた仕事を、継続的に発展させるのが私の役割です。劇場の仕事で何より重要なのは『継続』だと思います。私が4年の任期を終えた後も存在価値をもつ仕事を、今から始めたい」。

パリ・オペラ座バレエなどの委嘱振付、フェニーチェ劇場などでのオペラ演出など、世界での活躍がめざましい勅使川原。愛知と世界をダイレクトにつなげるようなカンパニーの招聘についても、具体的な交渉が進んでいるという。また、県内バレエ団とのコラボレーションによる特別企画も進行中だ。
「愛知県には様々なバレエ団があり、数多くの優秀なダンサーがいます。バレエ団代表者の方々とのミーティングで、この劇場をもっと使いましょう、使いこなさないともったいない! とお話ししたら、皆さんぐっと前のめりになられました。若い人たちが生き生きとレベルの高い仕事をし、旅立ち、また帰ってきたくなる。この劇場をそんなおもしろい場所にできたら」。

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提供:愛知県芸術劇場 © Naohshi Hatori

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「三つ折りの夜」© Akihito Abe

3月12日には、芸術監督就任記念プレ事業として『三つ折りの夜 ―遠い時の香りに染みた鏡―』が上演される。出演は、99年、パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで史上最年少の優勝を果たして以来、世界第一線で活躍を続ける庄司紗矢香とKARASの佐東利穂子、そして勅使川原の3人。フランスの詩人マラルメの詩から想を得た、一夜限りのダンス・コンサートだ。庄司が奏でる鮮烈な音楽と、周囲の空気の質感まで変えてしまうような佐東の踊り、そして演出・振付・照明・美術まで一手に手がける勅使川原の存在がどのような化学反応を起こすのだろうか。

2020年4月〜21年3月までのラインナップもすでに発表されている。今後も愛知県芸術劇場から目が離せない。

(2020年3月12日19時より、愛知県芸術劇場コンサートホールで行われる予定だったの『三つ折りの夜ー遠い時の香りに染みた鏡ー』は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、やむなく中止となりました。
詳細はhttps://www-stage.aac.pref.aichi.jp

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