ダンスが捉えた超高速移動の感覚が刺激的だった、クリストファー・ウィールドン振付『DGV』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエ」

『DGV』クリストファー・ウィールドン:振付ほか

新国立劇場バレエのニューイヤー・バレエは、『セレナーデ』『ライモンダ』よりパ・ド・ドゥ『海賊』よりパ・ド・ドゥ『DGV』(新制作)という順番で休憩を挟んで上演された。
『セレナーデ』(チャイコフスキー/バランシン)は寺田亜沙子、紫山紗帆、細田千晶、井澤駿、中家正博ほかが踊った。美しい踊りで日本人ダンサーが踊ると、いっそう情感が滲み出るように感じられる。
『ライモンダ』のパ・ド・ドゥ(グラズノフ/プティパ)は、小野絢子と福岡雄大。安定感のある踊りで、このペアはスケールの大きさも感じさせてくれるのでうれしい。
『海賊』のパ・ド・ドゥ(ドリーゴ/プティパ)は、木村優里と速水渉悟。速水はヒューストン・バレエで踊り、2018年に新国立劇場バレエ団に入ったという。『アラジン』のランプの精などを踊っているそうだが、私は初めて見せてもらった。ダイナミックに踊り、俊敏で力強さが感じられた。木村との新しいコンビが誕生するのだろうか、期待したい。

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撮影/鹿摩隆司(すべて)

『DGV』は英国ロイヤル・バレエを拠点として世界中で活躍しているクリストファー・ウィールドンが、フランスの高速鉄道TGVのパリ、リール間開通を記念して委嘱され、2006年に初演した作品。音楽はマイケル・ナイマン。ウィールドンはレナード・バーンスタインの生誕100年を記念して、2018年に初演された『コリュバンテスの遊戯』でも、極めて優れた音楽性を発揮して評判となった。よく言われるようにロイヤル・バレエ学校時代からその才能が注目され、ニューヨーク・シティ・バレエで活動。一時、自身のカンパニーを設立したが結局、近年は英国ロイヤル・バレエに腰を据えて創作を行なっている。彼が振付けた『不思議の国のアリス』が世界的に大ヒットしたことでもよく知られている。
『DGV』はDanse à Grande Vitesse(高速ダンス)のイニシャルであり、フランス高速鉄道TGV(Train à Grande Vitesse)に由来するのだろう。ナイマンの音楽は「MGV」(Musique à Grande Vitesse)。
舞台奥にクジラが横たわるように、アクリルっぽいメタリックな素材で、高速列車をイメージさせるオブジェが置かれている。天には太陽にも月にもなる軌道に沿って昇っていく一燈が、舞台を静かに照らしている。
全体を1〜4区に分けてそれぞれをリーディング・カップルが踊るという構成だ。ダンサーたちが次々と登場して、高速から超高速移動が描かれていく。
TGVは時速300キロを優に超えるスピードで走る。その超高速を表すために、ウィールドンはスローモーションの動きを使った。鋭く豊かな音楽性が高く評価されているウィールドンだけに、どんなスピードに乗ったダンスをみせるのか、と想像していたのだが、さすがに動きの本質を捉えた振付だった。
トップバッターは本島美和と中家正博。濃い色の斑模様が施されたレオタード。身体のラインを強調した衣装で、見事にキレの良い動きを見せた。第二区は小野絢子と木下嘉人、米沢唯と渡邉峻郁、寺田亜沙子と福岡雄大、と続きそれぞれがシャープにリズムよく踊った。

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アンサンブルも加わって、連結された列車が高速で移動していく様が客席にはっきり実感させられる、的確で正確にリズムを刻む振付である。月は昇りやがて太陽のようにも輝く。その一燈をメインにした照明が、地平線を思い描かせ、高速移動の感覚を際立たせている。やがて速度が上がり音速を越えたのか、とも思わせる一段階上のステージのスピードとなり、まるで宇宙空間を走っているかのような感覚を味わう。不思議な普段は味わえない非日常の感覚。客席にいながら高速移動している時に実感する感覚を味わっているからだろうか。このままさらにスピードアップされていくと、ワープ(瞬間移動)に至るのではないか、と空想が広がった。
高速移動するということがダンスによって表現されると、有史以来、人間があじわったことのない不思議なもう一つ世界が開けてくるかのような気持ちにさせられたのだった。日常的実感に対しては非常に刺激的なバレエだった。
(2020年1月11日 新国立劇場 オペラパレス)

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撮影/鹿摩隆司(すべて)

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