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英国ロイヤル・バレエの清新なダンサーが中世のヴェローナの街で踊る、悲しく美しい映画『ロミオとジュリエット』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

3月6日に公開される映画『ロミオとジュリエット』は、バレエの舞台と映像制作で非常にユニークな活躍をするバレエボーイズ(BalletBoyz)の中心メンバー、マイケル・ナンが監督しウィリアム・トレヴィットが撮影監督を務めたもの。
この映画では、大がかりなセットを組み、中世のヴェローナの街やキャピュレット家の館や教会、地下墓地をリアルに再現し、その現実の中でケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』を踊らせた。
マクミランは19世紀に作られたお姫様と王子様の物語によるバレエでは、現実をリアリティを持って捉えることは到底できない、として20世紀の観客に訴えかけることのできる革新的な舞台を目指していた。マクミランの傑作とされる『ロミオとジュリエット』は、中世ヴェローナの街の広場に、売春婦やら、旅芸人やら結婚の行列やらを登場させて、現実的な活気溢れる街の中で、この物語を展開している。バレエボーイズはそのマクミランのバレエの意図を、映画によってさらに発展させようと試みたものだ。そして巨大なセットを所狭しと踊り回るのは、英国ロイヤル・バレエの清新なダンサーたち。ロミオには、ファースト・ソリストで活気溢れるダンスで人気上昇中のウィリアム・ブレイスウェル、ジュリエットは映画『キャッツ』でヴィクトリアを演じ話題を呼んだフランチェスカ・ヘイワード、ティボルトはマシュー・ボーンの『白鳥の湖』で主演し圧巻の演技を見せたマシュー・ボール、マキューシオにはマルセリーノ・サンべ、ベンヴォーリオにはジェームス・ヘイ、パリスはトーマス・モック、ロザラインには金子芙生ほか。

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© Bradley Waller

セリフを一言も喋らず群舞とヴァリエーションを紡いでストーリーを表していくためには、計算したカメラワークが必要なのは言うまでもない。バレエの映像の専門で様々なダンスを撮っているバレエボーイズは、さすがに抜かりはない。
例えばロミオとジュリエットの出会いのシーン。ずっとキャピュレット家のロザラインを追いかけ回していた、青春真っ只中のロミオ。そのロザラインを追いながらロミオの視野にジュリエットを然り気無く入れる。すると身体はロザラインを追いかけているのだが、ロミオの心には本人も気づかないうちにジュリエットが映りこんでいる。その様子が見事なカメラワークにより、実にうまく表現されていた。そして舞踏会の客たちの間を縫い、ティボルトの鋭い追求を避けながら踊られる、出会いのシーンのパ・ド・ドウは秀逸だった。ロミオがマスクを外すタイミングもあざとい表現がなく自然だったし、ロミオの視線の力に応じたジュリエットの喜びが、ダンスの動きの中に実に率直に表現されていた。
自然の中から聴こえてくる現実音も巧みに使っている。恋し合う二人の耳に聴こえてくる小鳥のさえずりは、幸せを祝っているようであるが、寝室のシーンでは二人を引き離してしまう無情の朝を告げた。キャピュレット家の舞踏会に、激しく対立するモンタギュー家側の3人の若者に忍び込まれ、とりわけロミオとジュリエットのただならぬ様子を見せられたティボルトは怒り心頭。酒を煽って彼らが集っている広場へと乗り出す。そして、決してあとに引くことを知らない若者たちの決闘が始まる。このシーンから挿入されていた遠雷の響きは、悲劇的運命を予感させると同時に、闘いの終盤にティボルトがロミオの激怒の剣を受ける辺りから、降り始める驟雨となる。ここはまるで映画『七人の侍』の野武士の襲撃シーンを彷彿させる迫力あるアクション。そして慟哭するキャピュレット夫人の愁嘆場へと続く。この一連のシーンは、まさに舞台では作ることのできない映画ならではの自然を活用した圧倒的な迫真力であった。

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© Bradley Waller

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© Bradley Waller

また、バルコニーのシーンでは、フランチェスカの身体全体を無理なく使った軽快な動きが、軽やかなラインを描いて、世界にその喜びをアピールしているかのようだった。ただ牧師から仮死状態になる薬を飲む決意をするまで、乳母とじゃれあっていた少女が、自身の意思で死を賭して愛を貫く決意をかためるまで、その表現は深い心の動きを表さなければならない。このシーンの演技はどうであったか。女優とは違うのでやむを得ないとも言えよう。だが、ジュリエットが一人の女性として成長していく物語としては、若干弱かったかもしれない。
ブレイスウェルのロミオは、若さだけが持つ純朴とも言える力強さに溢れていて魅力的。もちろん、ジュリエットへの深い思いやりをも感じさせる踊りだった。ジュリエットとパリスとのやりとりでは、次第に愛とこだわりを募らせるパリスに、ジュリエットの悲しみが映り込んでいくようにも見え、ここでのフランチェスカの演技は見事だった。そして愛娘のジュリエットの意に反した結婚をすすめざるを得ない、キャピュレット夫人の苦悩も描かれていた。
剣を奮って死に物狂いの闘いの足下に鶏がよちよち歩いていたり、バルコニーのシーンの二人の初めての恋を優しく包むような夜風、密かに結婚の誓いをする教会に溢れる陽の光り、などなども実に効果的に青春の悲劇を彩っていた。
映画『ロミオとジュリエット』は、おそらく、このどこまでも悲しく美しい物語をバレエという独特の、しかしこの物語に実にふさわしい表現によって、世界の隅々にまで伝えてくれるのではないだろうか。バレエボーイズは素晴らしい仕事をした!

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© Bradley Waller

『ロミオとジュリエット』

3月6日(金)TOHOシネマズシャンテ 他 全国ロードショー
公式サイト https://romeo-juliet.jp/

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© Bradley Waller

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