フランチェスカ・ヘイワード=インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

――フランチェスカさんは幼い頃から『くるみ割り人形』のクララや『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『キャッツ』のヴィクトリアなどがお好きで、踊ったり演じる真似などしていたとお聞きしました。今、そうした憧れだった主役を踊ることが次々と実現しておりますが、どんなお気持ちでしょうか。

フランチェスカ・ヘイワード ヨチヨチ歩きの頃から"クララごっこ"みたいなことをして遊んでいました。それが本当に現実になって、ロイヤル・オペラハウスのたくさんの観客の前で踊るなんて、まさに夢が本当に現実になった! と言う気持ちです。一番の憧れだったクララ役に初演で初めて抜擢された時、家族もみんな総出で劇場に見に来ていて、私は舞台の袖から舞台に出るまでに感極まって泣きそうになるくらい嬉しかったことを覚えています。『ロミオとジュリエット』でジュリエット役にデビューした時も同じで、舞台に登場するまで袖で待機している時から涙ぐんでいました。でも『ロミオとジュリエット』は悲劇で、まだ2幕3幕でかなり泣くシーンがある、今、泣いてしまったら幕が降りるまでに涙が枯れてしまうかもしれない、と思い、もっと冷静にセーブしなければならい、と決意して舞台に飛び出していきました。

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Photo:Kazuhiko Okuno

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「ジゼル」© ROH Photo by Angela Kase 2019

――小さい時にしていた"クララごっこ"やジュリエットの演技を真似ていたことは、実際に舞台で踊る上で役に立ちましたか。

フランチェスカ キャラクターやストーリーが完全に頭に入っていた、と言う意味では役に立ったと思います。ロイヤル・バレエ団に入ってからもスムーズに役に入っていけましたし。また、幼い時に家で真似ていた頃は、当然ですが、パートナーはいなかったので、椅子とかテーブルなどの家具を相手に踊っていました。でもロイヤル・バレエ団ではちゃんとパートナーがいてリフトなどをしてくれます。ああ、ホンモノは違うな、と感じたことを覚えています。

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© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

――『キャッツ』では歌も披露されましたね。

フランチェスカ 私は舞台版の『キャッツ』は生で見たことがなく、子どもの頃からビデオで編集したものを観ていたのですが、ヴィクトリアの象徴的なバレエのソロのシーンがとても印象的でした。舞台のヴィクトリアは歌うキャラクターではないですね。ところが1回目のオーディションでいきなり、「歌って」と言われて驚きました。
私はヴィクトリアと言う役が好きで、そのために自分でオーディションを受けに行ったのですが、まさか歌わされるとは!と思いました。1回目のオーディションでまだ監督もいなくて、キャスティング・ディレクター一人だけでした。1対1で歌うなんて、バレエで『ジゼル』とかの大役を踊る時でもこんなに緊張したことはない、と言うくらい緊張しました。一人を眼の前にして歌うなんて全身が震えそうでした。でもそれから、ヴォイストレーナーなどについていろいろと訓練して、少し自信がつきました。しかし、私のシンガーとしてのキャリアは『キャッツ』をもって封印したいと思います。もう2度と歌手として皆様の前に出ることはないと思います。(笑)

――素敵な歌声でした。

フランチェスカ ありがとうございます。

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© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

――歌の話で申し訳ありませんが、アンドリュー・ロイド=ウエーバーやテイラー・スウィフトからアドヴァイスはありましたか。

フランチェスカ 実はあの曲はメロディだけ先にできていて、どう言う使い方になるかわかりませんでした。別の曲の練習の時、アンドリュー・ロイド=ウエーバーの家でピアノ弾いていたら、テイラー・スウィフトがちょうどいて、これに歌詞をつけてくれ、と依頼しました。そしたら1週間ほどでたちまち書き上げてきてくれました。それはヴィクトリアの生い立ちから心情まで全てを捉えきった美しい歌に出来上がっていました。完成した時は、テイラー・スウィフト自らが私に歌って聞かせてくれました。それは1対1のスペシャルコンサート状態で、本当に特別な体験でした。アドヴァイスは二人から特にはなかったですが、心を込めて感情を込めて歌ってください、技術的なことはあまり気にしなくてもいい、と言われました。

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© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

――『キャッツ』では耳が動いたり、尻尾が動いたりしますね、あれは演技している時はどうなるかはわからないのですか。

フランチェスカ 常に私には動く耳がある、尻尾がある、と意識して踊り、演技していました。ですが、猫になるために「キャット・スクール」へとキャスト全員が行って、猫の動画を見たり、猫がどうじゃれ合うのかとか猫らしい動きのトレーニングを積んで、しっかりと身に付けています。そうしたものをダンスのルーティーンに採り入れたりしています。私はトレーニングした猫の動きをいつも頭に入れて撮影現場に臨みました。実際に映像になって耳が動いたり尻尾が動いたりするのを見て、それが表現をより増幅していると思います。完全に表現しきれていなかったと思ったダンスの深い感情まで表すことができていて素晴らしいな、と思いました。

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「ロミオとジュリエット」セザール・コラーレスと © ROH, 2019 Photo by Helen Maybanks

――フランチェスカさんがジュリエットを踊られた、映画『ロミオとジュリエット』はマイケル・ナン、ウィリアム・トレヴィットが監督しましたが、現実の風景の中で踊るのはいかがでしたか。

フランチェスカ 『ロミオとジュリエット』はもう100年以上に渡って愛されてきた作品ですし、私は数あるバレエの中でも『ロミオとジュリエット』を踊るのが一番好きです。ジュリエットを踊ることはとても光栄に思っています。
舞台のセットではやはり狭いですし、窮屈なところがあり、そのため観客は想像力を働かせなければならないこともあります。でも今回の映画は、本当にヴェローナの街を再現した素晴らしいセットでした。ジュリエットの寝室もあれば大きなボールルームもあって、ダンスで表現することをすごく助けられました。より深いレベルで表現することができてキャラクターの中に入って演技することができました。そして最終日にはちょっとセンチメンタルになって、泣きそうになってしまって、自分自身がジュリエットと同じ体験をした気持ちになりました。セットが壊される時には「ああ、私、あそこでロミオと初めて出会ったのね、そしてあそこでロミオと初めてキスしたんだわ。ああ、あそこはティボルトが殺されたところね・・・」と思いにふけって、セットが壊されるのがなんだかとても悲しかったです。そのくらい思い出深い体験となりました。
そしてその後、舞台に戻って『ロミオとジュリエット』を踊りましたが、それまでとは作品の捉え方が全然違いました。より深くうまく表現できるようになったと思います。例えばノイズとか、ため息とかすすり泣く声とかを、映画では拾って活かしてリアルに表現しています。舞台ではそうした効果は期待できないので、そのような現実の音も聞こえる世界の中で踊ったと言うことで、自分の表現力が一段と豊かになったと思います。

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© Bradley Waller

――『キャッツ』のセットは現実の2.5倍の大きさだとお聞きしましたが、どのような感じでしたか。

フランチェスカ 最初に監督からどのくらいのスケール感になるか、と言うことは聞かされてはいました。ですが実際、初日に足を踏み入れた時にはあまりの巨大さにびっくりしたんです。初日の撮影がキッチンのシーンだったのですが、何もかもが尋常じゃない大きさで、椅子もテーブルもジャンプしても届かないくらいでした。椅子に上がるのにもスタントチームが梯子を持ってきて登らなければならないくらい高いんです。窓に上がったり、窓から飛び込んだりするシーンでは、ワイヤーを付けて演技するほどでした。スプーンやフォークも巨大でした。
私も猫が好きでサイモンと言う名前の猫を飼っていますが、「ああ、サイモンはいつもこう言う視点で世界を見ているんだ」と、初めて理解することができました。

――首に時計をまいたり腕に指輪をつけたり、すごく重そうに見えましたけれど・・・

フランチェスカ もちろん、本物の真珠ではなかったですけどかなり重かったです。でも動くときにぶらぶらして怪我するといけないので、服に縫い付けて固定して演技していました。

――映画の『ロミオとジュリエット』や『キャッツ』が大成功することはとても嬉しいですが、もしかしてフランチェスカ・ヘイワードは、ムービー・スターになってバレエ界を卒業してしまうのではないか、と心配しております。

フランチェスカ ネバー。そんなことはありません。

――安心しました。本日は来日されてお忙しいところ興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。ありがとうございました。『キャッツ』と『ロミオとジュリエット』の公開をこころより楽しみにしております。

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© Bradley Waller

映画『キャッツ』公開中

公式H.P. https://cats-movie.jp

『ロミオとジュリエット』

3月6日(金) TOHOシネマズシャンテ 他 全国ロードショー
https://romeo-juliet.jp/

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