Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』第3幕 通し稽古を観る

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

Kバレエ カンパニーが2020年の幕開けを飾るのは、芸術監督・熊川哲也の演出・再振付による古典名作『白鳥の湖』。2003年の初演以来、再演を重ねているが、今回は主役にバレエ団のトップのペア、中村祥子と遅沢佑介を筆頭に、躍進目覚ましい矢内千夏と髙橋裕哉、成田紗弥と山本雅也、小林美奈と堀内將平という3組の期待の若手を配し、さらなる進化を狙っている。一週間後に初日を控えた22日、小石川スタジオで第3幕の通し稽古が一部のメディアに公開された。その模様はインスタグラムでライブ配信されるとあって、途中で中断して注意を与えるようなことはなく、ピアノの生演奏にのせ、稽古着のまま、ドラマティックな舞踏会のシーンが本番さながらに展開された。

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この日、オディールとジークフリード王子を踊ったのは矢内と髙橋だった。矢内は入団した翌年の2016年にカンパニー最年少でオデット/オディールに抜擢された逸材。この役を演じるのは3度目だが、昨年は特に『マダム・バタフライ』のタイトルロールで高い評価を得ただけに、注目度は高い。一方の髙橋は2018年にプリンシパル・ソリストとして入団し、翌2019年には『シンデレラ』の王子役で、シンデレラの矢内と組んで主役デビューを飾った成長株である。二人が『白鳥の湖』で共演するのは今回が初めてという。なお、矢内が『白鳥の湖』で主役デビューした2016年に、王子役として相手を務めた宮尾俊太郎が、今度はロットバルトで共演するというのも興味深かった。

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ピアノが鳴り響くと同時に、スタジオ内に緊張感が走った。花嫁候補の姫たちやナポリなどの民族舞踊の踊り手たちが次々に登場した。王妃と王子の入場は堂々として風格を放っていたのはさすが。
皆、衣装で着飾らずにいわば素のままだが、見事に与えられた役を感じさせる。当たり前といえば当たり前のことには違いない。
王子の友人ベンノのパワフルなソロや、のどかで明るいナポリの踊りや、勢いの良いチャルダッシュやマズルカの群舞は眼前で披露されるだけに迫力満点で、ロットバルトの手下のスペインの踊り手たちが取る手拍子や踏み鳴らす靴音はスタジオを揺るがしもした。
だが、何より引きつけられたのは、王子やオディールの目線の動きを含めた細やかな演技のやり取りだった。ノーブルな役が身についてきた髙橋は、花嫁候補の姫たちへの冷ややかさは背中でも語られていたが、見せ場のグラン・パ・ド・ドゥでは、オディールをオデットと思って全身で喜びを表しながらも、どこかに訝しさを嗅ぎ取るのか、うつむいてみせるなど、揺れ動く心の内を伝えた。応じる矢内の演技は、したたかさを感じさせもした。横目で盗み見るようにして王子の心理を読み取り、王子を突き放したり引き寄せたりと、巧みに攻略していった。高度のテクニックが盛り込まれた踊りは舞台でも堪能できるが、スタジオでは計算された細やかな演技の受け渡しが手に取るように感じ取れたのが面白かった。
ロットバルトの宮尾は、毒々しさを強調するようなことはなく、ソロを含め、すべてを見通すように堂々と振舞っていた。

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通し稽古の後、矢内は初めてオデット/オディールを踊った時のことを聞かれ、「途中で頭が真っ白になったらどうしよう」と、ほとんどパニック状態だったという。2度目の時に音の取り方や表現法を考え直すことができたそうだが、3度目の今回もやはりパニックは感じるとのこと。王子役の髙橋につては、「もともとすごくピュアな感じを持っていて、若くて爽やかなのがよく出ている」と。「オデット/オディールとしてのコミュニケーションをすごく取りやすく、どんどんいける感じがするので、その感覚が本番につながるように作っていきたい」と語った。
瞬く間に終わってしまった通し稽古だが、かなりの完成度で仕上がっていただけに、本番への期待が高まった。

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