「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」と今春公開の映画『ロミオとジュリエット』でロミオを踊る、ウィリアム・ブレイスウェル=インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=矢沢ケイト

1月31日より開催されるガラ公演「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」、そして今春日本で公開されるイギリスBBC製作の映画『ロミオとジュリエット』で、ともにロミオを踊るウィリアム・ブレイスウェル。まだ日本ではあまりお目見えしていないが、ブレイスウェルは類をみないノーブルな踊りと、高い技術力と優れた音楽性を表現の一つとして包み込んでしまうスイートな魅力を放つ逸材だ。脚の使い方、差し出す手の1つ1つを目にすれば、純粋さが高貴に輝くロミオそのものを感じさせる。

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© Bradley Waller

壮大な映画のセットの中でプロコフィエフの曲とともに動き出す、ケネス・マクミラン振付『ロミオとジュリエット』のステップ。情景だけを眺めると言葉を発しそうに思える出演者たちも、よく見ればロイヤル・バレエのお馴染みの顔ぶれだ。フランチェスカ・ヘイワード(ジュリエット)、ウィリアム・ブレイスウェル(ロミオ)、マシュー・ボール(ティボルト)ほかロイヤル・バレエの次世代を担う若手たちが、マクミランの巧みに編まれたステップを、ヴェローナの街のあらゆる場所を跳び交いながら演じていく。観客の正面に向けた演出や演技ばかりでなく、舞台上のダンサー同士の関係性が立体的に現れ、どの角度からも登場人物が活き活きと捉えられる振付によって、マクミランのバレエの素晴らしい魅力に、改めて気づかされる映画である。

スクリーンとステージで同じマクミラン版の『ロミオとジュリエット』に挑んできたウィリアム・ブレイスウェルに、2つの異なる世界から見つめ直したロミオについて大いに語ってもらった。

----映画の出演は、どのように決まりましたか。
ウィリアム・ブレイスウェル バレエ団でスクリーンテストが行われた日に、ロミオ、ベンヴォーリオ、パリスの候補として呼ばれて、すべてのテストに参加しました。ロミオ候補の中では僕が一番年上。プリンシパルやもっと若い子がこのロミオを演じると思っていたので、しばらくして発表された時は驚きました。

----子供の頃、映画スターに憧れたことはありましたか。
プレイスウェル ないですね(笑)。演劇の授業は楽しみましたが、考えたことはありませんでした。

----映画に出演するということは、どのような経験でしたか。
プレイスウェル 全く新しい"バレエを踊る"という経験でした。舞台との最大の違いは、シーンを切り分けて全体を作っていくところ。部分ごとに区切るので、舞台で踊るのと同じ順番ですべてが起こるとは限りません。死んでいくシーンを墓場のパ・ド・ドゥの前に撮影したり、街のシーンは一気にまとめて撮影されたりと、ストーリーが前後するのでその時々に、自分は今どこから来て何に向かっている状態なのかを自分自身に浸透させる必要がありました。また、繰り返し撮影することも映画の特有の体験です。公演の本番を何度も繰り返しているような気分で、最初は少し違和感がありましたが、2回も3回もチャンスがあるというのは悪くない(笑)。他には、舞台では自分がいる世界を想像していくけれども、映画ではセットが巧みに作られているので、その必要が全くありませんでした。背景から、石、剣、そして匂いまで、どれも精密に作られていました。

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© Bradley Waller

----この映画でも主体はマクミランの振付ですが、舞台との違いはどういったところにありますか。
プレイスウェル この映画では、マクミランの全幕作品を約90分に凝縮しています。物語要素の強い部分は残しているのでストーリーは十分意味を成しますが、ダンスシーンが短くなっています。一方で、主役2人のパ・ド・ドゥはすべて残されているという点では、マクミランの振付に忠実な演出を目指していると言えます。

----ディレクターのおふたりもロイヤル出身のダンサーですよね。
プレイスウェル Balletboyz(バレエボーイズ)として知られるマイケル・ナン と ウィリアム・トレヴィット どちらもロイヤル・バレエに在籍し、マクミラン版『ロミオとジュリエット』を何度も踊り、熟知しています。そのため、キャラクターたちがこのバレエ作品でどのような役割を担う存在かをよく理解しています。また、どのキャラクターのどの部分が映像作品として効果的に力を発揮するかを的確に捉えていると思います。その点、舞台版にとても忠実なのです。中には、ズームアップが効果的になるように構築された結果、振付が少し変更されたシーンもありました。

----このマクミランの『ロミオとジュリエット』を映画にした際の強みは何だと思いますか。
プレイスウェル 劇場で上演するより、もっと多くの人に届くこと。劇場では鑑賞人数が限られますが、映画ならばもっと多くの方々に見てもらえる可能性があるでしょう。特に、マクミラン版『ロミオとジュリエット』は、バレエ作品の中でも最も洗練された最高級のストーリーテリング作品だと思うので、バレエという芸術が可能にする表現を広く知ってもらえる機会になると思います。
また、こんなにもクローズアップしてダンスを見る機会はなかなかないと思います。普段舞台上で使用している衣裳の装飾の細かさ、ダンサー同士のやりとりに表現されたニュアンスなど、カメラがあることによって、私たち出演者もより細かな部分にまで感情を込めることができるのです。今回の映画は、すべてにおいて、出演者全員が各々の役柄に入り込みやすい環境になるように手が加えられていました。関わるすべての俳優、セットの一部分にしても、本当にリアルなんです。自然な演技へのこだわりと、相当な努力とともに設計されていました。舞台では、観客に伝わるように私たちが表現しなくてはならないけれども、この映画の中で求められたのは、私たちが自分たちで感じることでした。例えばティボルトとの闘いのシーンでは、演技だとは分かっていても、周りの女性たちが本当に僕の後ろで泣いたり、叫んだりしているんです。グロテスクなくらいリアルな世界観が作り上げられていて、本当に誰かを殺しているみたいで、自分で怖くなるほどです。マキューシオが死んでしまって、ティボルトと闘うまでの間、本当に腹の底から怒りがふつふつと沸いてきて、醜いほどの強い感情が出てきました。

----イギリスでのタイトルには "Romeo and Juliet : Beyond Words"というサブタイトルがありますが、どういった意味が込められているのでしょうか。
プレイスウェル ディレクターとはこのことについては話したことはないので、僕の考えを話しますね。この作品は言語に関係なく、ほとんどそのまま世界中で見てもらえ、理解してもらえるということ。また、シェイクスピアは、素晴らしい文章や言葉の使い方で世界中に知られているのにも関わらず、この作品では言葉を一切使わない表現スタイルで作られているので、「言語のその先」を意味するサブタイトルが付けられたのだと思います。

----ロイヤル・バレエに移籍する前のバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)でもマクミラン版ロミオを踊っていらっしゃいますね。ここで、ご自身のことを少しお聞かせいただけますか。
プレイスウェル ロイヤル・バレエ・スクールを卒業後に、バーミンガム・ロイヤル・バレエに入団しました。ソリストとして主役を多く経験した中の1つがマクミラン版のロミオでした。その後2017年にロイヤル・バレエに移籍しました。BRBで踊ったロミオは、全く同じ振付作品ですが、衣裳やセットといった点で少しずつロイヤルとは違うものでした。

----BRBでロミオを踊った時は、誰の指導を受けましたか。
プレイスウェル デスモンド・ケリーに指導を受けました。彼のバレエに関する知識の深さと心の深さに驚かされます。マリオン・テイトにも指導を受けました。当時は、振付や動きが何を意味しているかを正確に表現することを大切にするように教えられました。バルコニーのシーンの冒頭で、走って回り込み背中を客席に向けてバルコニーの上を眺めている場面では、背中だけでロミオの高まる気持ちを伝えることを学びました。1つ1つのポーズだけでも、意味があって、何を表現する場なのかを教えてくれました。

----映画出演に際しては、どなたかの振付指導を受けましたか。
プレイスウェル レズリー・コリアと、マイケル・ナンの指導を受けました。パ・ド・ドゥの多くはレズリーが指導してくれました。彼女のことは大好きです! 彼女は素晴らしいアドバイスが湧き出てくる噴水のようで、たくさんの言葉をかけてくれました。しかし何よりも嬉しかったのは、僕たち2人を心から信頼してくれたこと。フランチェスカと僕が話し合って決めたことや、こうしてみたいという考えを、信頼して尊重してくれました。そうしたリハーサルを経て撮影に臨めたので、撮影本番の時はリラックスして踊ることができました。

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© Bradley Waller

----映画撮影に向けて、踊りの他に、演技などの準備はしましたか。
プレイスウェル この映画は、フランコ・ゼフィレッリの映画『ロミオとジュリエット』に基づいて作りたいという希望がありました。それをもう一度見返した他、シェイクスピアの原書を読み直しました。基本的には、何度も何度もキャラクターについて考えることに力を入れました。演劇を観たほか、映画は手に入るほぼすべてのヴァージョンを見たと思います。『ウエスト・サイド・ストーリー』も見ました。
ディレクターからは、ロミオの年齢設定に合うように演じて欲しいとリクエストされました。BRBでロミオを踊った時も、ロミオの年齢の17歳よりは年上でしたが、今回はよりいっそう、若さとナイーブさ、そしてそれゆえに恋愛や悲劇に急激に向かっていってしまう様子を強調しました。若い人たちが、どれだけ簡単に、目の前のことに左右され、悲劇的な結末に流されてしまいやすいかを描き出せるように心がけました。

----ご自分をスクリーンで観た感想はいかがでしたか。
プレイスウェル 試写は本当に緊張しました。関わったスタッフとキャストが集まって鑑賞する機会があったのですが、これから舞台で踊るわけでもなくすべてが終わっているにも関わらず緊張して、すごく変な感じがしました。自分が大スクリーンに映し出されていたり、見たことない角度から写された見慣れない自分がいたりと、不思議な体験でした。

----普段から舞台をともにするロイヤル・バレエのダンサーたちとの映画での共演はいかがでしたか。
プレイスウェル フランチェスカと一緒に演じたすべてのシーンが素晴らしい思い出です。彼女は、自然体な女優。彼女を信じて演技することができました。踊りはもちろんですが、キャラクターを表現することにも長けています。彼女だけでなく、素晴らしいダンサーたちに囲まれていたことに感謝の気持ちが溢れました。彼らが並外れた才能と演技力を持っていることは分かっていましたが、この映画を通して、彼らと一緒に仕事をすることがどれだけ素晴らしい機会なのかを教えてくれて、ロイヤル・バレエへの尊敬がいっそう高まりました。
それ以外では、たくさんの待ち時間があったので、バレエ団の仲間たちと映画の役柄の話から雑談まで、たくさん一緒に過ごす時間に恵まれたことが嬉しかったです。忙しすぎるせいか、知っているつもりだったけれど、そこまで皆のことを知らなかったと気づきました。昨年あまりバレエ団にいなかったこともあり、たくさんの時間を共にしたことで、ファミリーの一員になった気分です。

----映画の日本公開に先立って、今月末には『輝く英国ロイヤルバレエのスター達』でも来日されますね。
プレイスウェル このガラ公演は、本当に素敵な機会です。才能に溢れるダンサーたちが集まって、幅広い作品を一気に上演する瞬間になります。バレエが持つ表現の幅の、端から端までお見せするプログラムを、世界の精鋭たちが踊るんです! 出演の話を聞いたときには、参加したいと即答しました。観客のバレエ芸術に対する尊敬がすごく深くて、非常に温かく迎えてくれるので、僕だけでなく世界中のバレエダンサーたちは日本が大好きだと思います。

----ロミオのエキスパートになったところで、このガラ公演でも同じ作品のバルコニーシーンを踊られますね。
プレイスウェル バルコニーのシーンは、1番好きなパ・ド・ドゥです。これこそ、完璧な美しさだと思います。全幕の全体像なしにこのシーンだけを上演すると、文脈が伝えられず入り込むのが難しいかもしれないけれども、短い時間の中にこれだけの感情とストーリーが詰まっているデュエットは、他にはないでしょう。2人が恋に落ちて、お互いが無くてはならないほどの存在だと感じる瞬間です。複雑なストーリーを短い時間で表現できるのが、マクミランの素晴らしさですよね。

----映画出演を経て舞台への向き合い方への変化や、特にロミオを舞台上で踊ることを助ける学びはありましたか。
プレイスウェル 今回の映画出演は、舞台で踊る機会に繋がる収穫がたくさんありました。1つ1つの動きやジェスチャーを芯まで考えるきっかけになり、そのとき何を見ているのか、どうして見ているのか、といった観点で考えていくと、すべてをこれ以上ないくらい詳細に分析する機会になりました。また、すべての登場人物の役柄も考えました。そのように見つめ直すと、振付けられたステップは登場人物が選びとって繰り出しているかのように見えてきます。僕自身はマクミランの指導を直接受けたことはありませんが、先輩たちの話を聞いたところから考えると、登場人物の意思や想いがステップの形をして表現されるところが、マクミラン流だと思います。踊っていると、技術的完璧を求めることにばかり気を取られてしまい、なぜそのステップがその瞬間に出てくるのかまでを考えることが難しくなりがちなので、なかなかない機会でした。
バルコニーに走っていく瞬間に至るまで、どこで何をして何が起きてというすべてを表現するのは大変。だけれども、このパ・ド・ドゥは、初めはお互いの間にまだ距離があり、次第にわかり合い、後半に向けて、お互いが一緒にいることの心地良さに浸っていく経過が振付によく表現されていると思います。映画の撮影で、シーンごとに自分を切り替えて、その時々の感情に切り替えた経験は、ガラ公演でパ・ド・ドゥだけを踊る際にも役立つと思います。

<ガラ公演>
『輝く英国ロイヤルバレエのスター達』
2020年1月31日(金) 19時、2月1日(土)13時/17時
昭和女子大学人見記念講堂
http://www.royal-ballet-stars.jp/

<映画>
『ロミオとジュリエット』
2020年春日本公開
配給:東宝東和
https://romeo-juliet.jp/

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