キエフ・バレエの新春ガラ公演、オーケストラの演奏と寄り添い、古典バレエをアットホームな雰囲気で上演

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

キエフ・バレエ〜タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ〜

「初夢バレエ・ガラ」

眠り_9SC1924.jpeg

『眠りの森の美女』 写真/瀬戸秀美(すべて)

お正月恒例のキエフ・バレエ公演のプログラムは、『くるみ割り人形』と『白鳥の湖』の全幕、そして「初夢バレエ・ガラ」で、すべて古典バレエもしくは古典音楽に振付けたバレエを上演した。
キエフ・バレエ団の来日公演は、いつもウクライナ国立歌劇場管弦楽団の演奏によって開催される。指揮はカンパニー所属のオレクシィ・バクラン。リハーサルには指揮者も立ち会うそうだ。そのために慣れ親しんでいるオーケストラの演奏に乗って、キエフ・バレエのダンサーたちのステップは軽やかで、音楽と踊りの滑らかな流れとリラックスした一体感を充分に味わうことができる。これは近年ではなかなか得難い喜びで、私はこのアットホームな雰囲気の舞台をいつも密かに楽しみにしている。

新春の3日に上演された「初夢バレエ・ガラ」をご紹介しよう。
第一部は『眠りの森の美女』(チャイコフスキー/プティパ、リトヴィノフ)序曲の演奏からはじまり、第一幕のワルツとローズアダージョが踊られた。オーロラ姫は、キエフ・バレエのプリマ、エレーナ・フィリピエワを継承していくことを期待されているアンナ・ムロムツェワ。見事なプロポーションで立っているだけでも王女としてのおおらかさを醸すことのできるダンサーだ。花婿候補の四人の王子とゆったりと踊り、とても良い雰囲気だった。ムロムツェワは今回公演の『白鳥の湖』でオデット/オディールのデビューを果たすという。次世代のキエフ・バレエに期待したい。

_眠り9SC1942.jpeg

『眠りの森の美女』

_眠り9SC1958.jpeg

『眠りの森の美女』

『フィガロの結婚』(モーツァルト/ヤレメンコ)より、は有名なモーツァルトのオペラをバレエにしたもの。かつて芸術監督も務めたヴィクトル・ヤレメンコが、バクランの音楽編成により全幕を振付けたという。フィガロ(アンドリー・ガブリシキフ)と花嫁のスザンナ(アナスタシア・グルスカヤ)、そして派手に女装したヴィタリー・ネトルネンコがマルチェリーナを踊った。キャラクターを強調したウィットの効いたバレエ。
『ライモンダ』(グラズノフ/プティパ)第三幕より、はエレーナ・フィリピエワのライモンダとニキータ・スハルコフのジャン・ド・ブリエンヌ。フィリピエワの威厳のある踊りがヴィジュアルの美しさと高貴な内面の貴さを見せたのは、さすがというほかない。今回公演の『白鳥の湖』でこの作品の全幕からは退く、と報じられているが、いつか来る舞台を去る日を視野に入れた活動になっているのであろうか。長期に渡ってキエフ・バレエのプリンシパルとして活躍し、カンパニーを支えてきた功績はたいへん大きい。ライモンダの舞台姿を見ても、まだまだ踊れると思うが、余人には分からぬ想いもあるのであろうか。指導者としての活動も始めていると聞く。スハルコフもフィリピエワのライモンダをたてつつしっかりと踊って、貴族としての矜持が感じられ、舞台の表現をいっそう深いものとしていた。

_ライモンダDS35587.jpeg

『ライモンダ』

ライモンダ_DS35529.jpeg

『ライモンダ』

ライモンダ_9SC2028.jpeg

『ライモンダ』

ライモンダ_9SC2032.jpeg

『ライモンダ』

第二部は、キエフ・バレエを象徴する『森の詩』序曲の演奏で開幕。
まず、古代からの伝統と豊かな自然に育まれてきたウクライナに伝わる民族舞踊の代表的踊り『ゴパック』(V.ソロヴィヨフ=セドーイ/ザハロフ)から。ガラ公演などでよく踊られる『ゴパック』はウクライナのコサック・ダンスで、古代キエフ大公国に持ち込まれた東洋武術に由来すると言われる勇壮な男性の踊り。リムスキー=コルサコフやムソルグスキーなどがオペラに使用しているし、舞踊では、ソロヴィヨフ=セドーイの『タラス・ブーリバ』ハチャトリアンの『ガイーヌ』などでも踊られる。ここでは、華やかに色とりどりの長いリボンを飾った民族衣装の女性ダンサーと群舞も登場し、真紅のコサック風パンツを翻してカンガルーのように跳ね回って踊る男性ダンサーが、一際、エネルギッシュに輝いた。
『コッペリア』(ドリーブ/プティパ、マラーホフ)第一幕よりは、ウクライナ出身でべルリン国立バレエの芸術監督を長く務めたウラジーミル・マラーホフ版。マラーホフは芸術監督を辞してから、様々な活動を行なっているが、キエフ・バレエにいくつかの振付作品を提供している。アレクサンドラ・パンチェンコのスワニルダとネトルネンコのフランツが、仲直りしようとするパ・ド・ドゥ。花を持って踊るパンチェンコの長い脚と愛らしい雰囲気が良かった。

_ドンキ9SC2328.jpeg

『ドン・キホーテ』

ドンキ_9SC2385.jpeg

『ドン・キホーテ』

『ドン・キホーテ』(ミンクス/プティパ、ゴルスキー、リトヴィノフ)第二幕より夢の場は、ムロムツェワのドルシネアと鈴木花音の森の女王、カテリーナ・チュピナのキューピッド。キエフ・バレエの『ドン・キホーテ』らしく、ゆったりとした時間の流れがあり、いかにも「夢の場」らしく感じられた。
『タリスマン』(ドリコ、プーニ/グーセフ)グラン・パ・ド・ドゥは、古代インドを舞台に、地上に遣わされた天界の女性と若い王の恋の物語。天界に戻ることができるお守り(タリスマン)が、重要な小道具となる。グラン・パ・ド・ドゥは、最後に天界に戻ることなく地上での愛を生きる二人の姿を表した踊り。グルスカヤとガブリシキフの『タリスマン』グラン・パ・ド・ドゥは、喜びを身体で表現して躍動感があった。しかし背景の海の映像はちょっといただけなかった。

_ドンキDS35719.jpeg

『ドン・キホーテ』

_ウィナーワルツDS36056.jpeg

『ウインナー・ワルツ』

『ウインナー・ワルツ』(シュトラウスII世/レフヴィアシヴィリ)より。オペラ座の大階段を背景に繰り広げられる舞踏会の中、愛する人がありながらフランツ(スハルコフ)は、カーラ(フィリピエワ)に惹かれる。しかし愛を失って初めて自分の本当の心を知ることになる・・・。華麗なる円舞を背景に愛する心のドラマを描いたバレエ。芸術監督アニコ・レフヴィアシヴィリがヨハン・シュトラウスの曲に振付けたバレエだ。芸術監督は昨年11月に急逝されたと知り、いっそう心に沁みる舞台となった。
(2020年1月3日 東京国際フォーラム ホールA)

_ウィナーワルツ9SC2468.jpeg

『ウインナー・ワルツ』 写真/瀬戸秀美(すべて)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る