「ダンスが道を照らしてくれる!」 リチャード・ウィンザー(ミュージカル『サタデー・ナイト・フィーバー』主演)=インタビュー

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

1977年に公開され、ディスコ・ブーム、それに続くダンスブームの火付け役になった映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が、英国発の新演出ミュージカルとなって来日する。主演は、『白鳥の湖』『ドリアン・グレイ』など、数々のマシュー・ボーン作品で主役を踊ってきたダンサー・俳優のリチャード・ウィンザーだ。

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© ヒダキトモコ

11月に行われた記者発表の会場は、都内にある大型ディスコ。ミラーボールがきらめく中、リチャード・ウィンザーが公式サポーターのDJ KOO、アン ミカとともにクールな踊りを披露。ウィンザー自らステップをレクチャーするミニレッスンまであり、会場はおおいに盛り上がった。

インタビューはその翌日。ウィンザーは様々な切り口からミュージカルの見どころについて語ってくれた。

――昨日の記者発表は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

こちらこそ。僕も楽しみました(笑)。

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© ヒダキトモコ

――最初に新演出のミュージカル『サタデー・ナイト・フィーバー』のトニー役を、というお話があったとき、どうお感じになりましたか。

興奮しました。すごく嬉しかったですよ! でも、出演をOKする前にまず確認したかったのは、映画に忠実な作品になるのかどうか、ということでした。『サタデー・ナイト・フィーバー』は、ドラマティックで大胆、しかも様々な人間模様が描かれたすばらしい映画です。僕は映画の大ファンだし、14歳のときに見たミュージカル版も大好きでしたから。プロデューサーのケンライトもまったく同じ考えで、映画を尊重しつつ新しいものをつくろうという強い意志を感じました。
それと、主人公のトニーはダンスが大好きで、様々な可能性をもっているキャラクターです。僕は単なるダンサーとして出演するのではなく、演技者としてダンスで表現する、というふうにアプローチしたかった。ディスコダンスだけでなく、いろんなジャンルのダンスを取り入れられる。踊りを通じていろんなことを表現したいと思ったんです。むろんケンライトは同意してくれ、僕のダンサーとしての資質が活かせることが確認できたので嬉しかったですね。

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© ヒダキトモコ

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© ヒダキトモコ

――記者発表で少し披露してくださいましたが、クールなディスコダンスはもちろん、ダイナミックなジャンプや回転あり、美しいペアダンスあり......と、今回の舞台ではいろんなリチャードさんを見られそうですね。

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そうなんですよ。様々なスタイルのダンスにチャレンジできました。
マシュー・ボーンの舞台でも、クラシック・バレエ以外のダンスをいろいろとやってきてはいるんですが、ディスコダンスは今回が初めてで。ディスコダンスって、全身の動きが細部までシンクロしていないとカッコよく見えないんです。それでいて、いかにクールでリラックスしているかが大事ですから、難しいんですよ。長い時間を費やして、鏡の前で練習しました。

――映画でも、トニーが鏡の前で一生懸命練習しているシーンがありましたね。今回、あらためて映画を見直したのですが、トニーが意外に繊細な青年であることが印象的でした。外ではカッコつけているけれど、家では非常にいい息子をやっている。

そう、外ではクジャクみたいに虚勢を張っているけれど、内面はシャイで傷つきやすい。家族はイタリア移民の家系で、父は失業中、母は暴力をふるわれていたり、母が誇りに思っていた兄が神父の職を辞めてしまったり......そういう壊れやすい家族関係の中にトニーはいる。週末、ディスコに踊りに行くことだけがそこからの脱出方法で、踊っているときだけは特別な人間になれるんです。今回の舞台も、映画と同様、ビージーズの「ステイン・アライブ」に乗って、彼がニューヨークの町を闊歩するシーンから始まります。トニーのダンスは磁石みたいに人を魅きつける。トニーは、女の子たちは自分からアプローチしなくてもみんな自分に寄ってくると思っているけれど、ステファニーという新しい女性に対してだけは苦戦してしまう。

――ステファニーもおもしろいキャラクターですね。上流階級出身のお嬢様なのかと思ったら、実はそうでもない。

トニーにとって、彼女は希望の光です。別の世界を見せてくれ、自分の進むべき道に光を当ててくれる存在だと思っている。ステファニーは自分が成功しているという話ばかりするし、ブルックリンに住むトニーにとって、マンハッタンで働いている彼女は実際、成功者に見えるんですね。でも、実はステファニーも、自分が本当に望んでいる場所にはたどりつけていない。ある意味、彼女も「クジャク」なんです。

『サタデー・ナイト・フィーバー』は、ビージーズの歌詞にもあるようにLost People、道に迷っている人たちの物語だと思います。皆が自分の方向性を見失っている。トニーもステファニーも、心に喪失感や悲しみを抱いています。でも、踊ることによって、進むべき道に導かれていく。一緒にゼロから出発して、よりよい世界を目指していくんです。

――ダンスと歌で、そういう濃密なドラマがどう描かれるのか、とても楽しみです。

ビージーズの歌とダンスを、あますところなくドラマに生かしたミュージカルに仕上がっていると思いますよ。舞台上にプラットフォームが設けられて、4人制のバンドと3人の素晴らしいシンガーが、ビージーズのヒット曲を次々と歌ってくれます。最高の音楽が、舞台の流れをつくってくれる。

――床がカラフルに光るディスコのシーンをはじめ、はなやかな舞台美術も見所ですね。映画だとブルックリン橋の場面が重要だったと思いますが、舞台ではどう表現するんでしょうか?

もちろん、ブルックリン橋のシーンはありますよ。大がかりなセットの展開もあるので、楽しみにしていてください(笑)。

――ここで少しリチャードさんご自身について教えてください。ダンスはどのようなきっかけで始められたのですか?

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母がダンス・スクールを開いていたので、3、4歳の頃から姉や弟と一緒にレッスンを受けていたんです。子ども時代は、ダンスはフィットネスの一つというか、アドレナリンが出て気分が上がるからやるという感じで続けていました。ラグビーも好きだったし、ほかにもやりたいことがたくさんあったので。でも、ダンスに真剣に取り組むうちに、徐々にその面白さに目覚めていったと思います。
16歳の頃、セントラル・スクール・オブ・バレエに入学しました。創立者の故クリストファー・ゲイブルはバーミンガム・ロイヤル・バレエで活躍した「俳優ダンサー」で、それがまさに僕のやりたいことだったからです。この学校は、クラシックだけでなく演技やコンテンポラリーのクラスも充実していました。そこでの経験を経て、19歳でマシュー・ボーンのカンパニーAMP(Adventures in Motion Pictures)に入ったんです。

――AMPでは、『白鳥の湖』『シザーハンズ』『ドリアン・グレイの肖像』など、数々の主役を踊られていますね。

ええ。マシュー・ボーンのストーリーの描き方にはパフォーマーとしてすごく共感していたので、新しい作品づくりにも参加できて幸せでした。

――たとえば『白鳥の湖』では、非現実的なくらいセクシーで野性味あふれるスワンを演じられています。今回のトニー役のダンスにも、目が釘付けになりました。ああいう魅力的なキャラクターを、舞台上でどのようにつくりだされているのでしょうか? もちろん今、ふつうに話されているリチャードさんもカッコいいですが(笑)。

いやいや(笑)。自分とは違う人物を演じるわけですから、プライベートは全然違いますよね。トニーとスワンはまったく違うキャラクターですが、どちらも人を魅きつける役ではあるので。自分の中にそのキャラクターの感情を見つけて、それを高揚させることが大事だと思います。彼らがもっているカリスマ性やセクシーさ、クールさにどうアプローチし、それらの要素をどう「上げる」か、試行錯誤しながら取り組んでいます。実際舞台の上で注目を浴びると、自然にアドレナリンが出るので、上がりやすくはなるんですが。
劇場を一歩出れば、トニーみたいに肩で風を切って歩いてるわけじゃなく、どちらかといえば控えめなほうだと思います。要は、「演じる」ってことですよね。

――お忙しい毎日と思いますが、オフの日はどんなことをされていますか。

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最近飼ったばかりの子犬が、僕の生活の中心です。まだ1歳で手が掛かるので。それと、フィットネスを兼ねてマウンテンバイクに乗りますね。坂道をアップダウンすることでアドレナリンが上がり、ちょうど2時間半、舞台でトニーを演じるのと同じような高揚感を得られます。映画や舞台を観に行ったり、おいしい食事をするのも大好きですね。
日本のものだと、寿司やラーメンが好きです。ロンドンにはラーメン屋がたくさんあるんですよ。今回、東京ではお好み焼きを食べました。たぶんヘルシーじゃないんだろうけど、おいしかったな。基本的に嫌いなものってないんですよ(笑)。

――最後に、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。

チャコットのウェブニュースであれば、きっと踊ることの好きな読者が多いですよね。いろんなジャンルのダンスをやっている方が、全員楽しんでいただけるような舞台になると思います。音楽もノリノリなので、すぐ立ち上がって踊りたくなるような雰囲気だし、実際皆で踊れるディスコタイムもあります! 音楽もダンスもドラマも、変化に富んだ舞台を楽しんでいただけたら。

――日本でも、最近は災害が続くなどつらいニュースが多かったのですが、今回、ビージーズの音楽を聴いて踊ったら、それだけで元気になれる気がしました。

まさにそういうときこそ、悲しいことを一瞬でも忘れて、舞台の世界にのめりこんでいただけたらなと思います。皆さんと12月にお会いできるのを楽しみにしていますよ!!

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ミュージカル『サタデー・ナイト・フィーバー』

2019年12月13日〜29日
東京国際フォーラムホールC
公式サイト https://snf2019.jp/

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