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バレエ公演プロデューサーの仕事とは?-「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」を手掛ける小林ひかるに聞く

ワールドレポート/東京

インタビュー = 関口 紘一

――小林さんの初プロデュース公演「輝く英国ロイヤル・バレエのスター達」は、2020年1月31日に開幕しますね。プロデューサーになろうと思われた契機は何かありましたか。
小林 ひとつは日本のバレエの現状を変えたいと思ったこと。それから今までずっとバレエダンサーとして努力してきたので、いきなり全く異なった仕事を始めるよりバレエに関わる仕事をしたかった、ということでしょうか。プロデューサーになればダンサーたちともコミュニケーションが取れるし、今までの経験を活かすことができると思いました。

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――他の公演の企画を見て触発されたということはありますか。
小林 そうですね、もちろん公演を見ればそれなりに思うこともありますし、将来はこういう公演を作ってみたいな、ということはいつも頭に描いてました。

――イギリスでは、Dancers Career Development(DCD)というプログラムによって、ロイヤル・バレエでも現役のうちから「引退後何をするかプランする」という働きかけがあるようですが、活用されましたか。
小林 はい。私は、DCDの一環として、スポーツサイエンスの6年のコースで勉強をしています。プロデュースのコースも受講しています。
スポーツサイエンスというのは、アスリートの身体について学びます。オリンピックのメダルを取るまでにはどのようなことを行なっていくか、など。コーチになるための勉強をしています。
今までは、バレエはバレエの専門でという考え方が多かったのですが、最近はダンサーの身体能力が発達してきているので、私はアスリートのトレーニング法も採り入れてバレエの専門的なものを合体させる、という考え方に基づいてスポーツサイエンスを選んで学んでいます。
ひとつひとつの筋肉の動かし方は、アスリートのトレーニングの方が整っていて怪我のないように強化できますから、ダンサーにも当然適応できます。ダンサーはもちろんアスリートではないので、それプラス芸術性、音楽性が大切なのですが、怪我の予防やアフターケアなどは全くアスリートと同じです。

――プロデューサーになるために、これまではどのようなことを心がけてこられましたか。
小林 プロデューサーという仕事はコーチする仕事と似ていると思います。舞台に立つ人のために何かやるということで、結局繋がっていると思います。ダンサーが何を必要とするかを知るために、同時進行で私も今教えているのですけれども、それに応えることを追求しています。それから観客が何を求めているか、を常に考えながらやってきました。ダンサーが一番輝けるもの、観客に最も得意な部分を見せるにはどうしたら良いか。そういう方法というのは、やはりダンサーの側にいないとわからないと思います。

――この公演のプロデューサーとして、まず具体的にどんなことから始められましたか。
小林 それはプログラムの構成ですね。まずどういうガラ公演を作りたいかを整理して、何を観客に見せたいか。それからもちろん、この公演期間中に踊ってくれるダンサーを確保しなければならないので、それと同時進行でダンサーに合った演目の選定、そして観客にどういう見せ方ができるかということを進めてきました。

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プログラム打ち合わせ

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プログラムの表紙はどれになるでしょう

――ロイヤル・バレエのダンサーたちに声をかけた時は、どんな反応が返ってきましたか。
小林 スケジュールの問題がある場合はいろいろと考えることもありますが、若いダンサーなどは「ぜひ出演したい」という声が返ってきました。ベテランのダンサーは、その前後に何を踊るかなどを考えます。体調を整えなければなりませんから、リハーサルがどのように入ってくるかも確かめなければなりません。

――コンテンポラリー・ダンスを踊っていて、すぐにクラシック・バレエを踊るというわけにはいかない、ということもありますか。かつてはよくそういう話を聞いたことがあります。
小林 いえ、今はすぐに切り替えて踊ることが普通になってきています。身体のケアが進んできていること、そしてバレエ学校時代からどちらも踊る経験を積んできていますから。

――小林さんはプロデューサーであり、芸術監督でもあるわけで、当然、舞台をどのように構成するかということも考えなければなりませんね。今回テーマを設けて3部構成にする、という独自のプログラム構成を行なっていますが、これはどういうことを目指しているのでしょうか。
小林 バレエにはもっと多くの魅力がありますが、今回初めてなのでテーマを3つに絞って、それを紹介する構成しています。もちろん普通のバレエの観客にもわかりやすくなっていますが、初めてバレエを観る観客にも「一体バレエって何?」ということを知っていただきたくて、バレエに必要なものをわかりやすく提示できるプログラムにしています。
第1部の「ダイナミズム」は英国ロイヤル・バレエのレパートリーの中から代表的なものを選んでいて、ダンサーも彼らの得意な演目でダイナミズムを表現します。
第2部の「パーソナル・エモーション」はロイヤルのレパートリーにある演目もあるし新しいものもあります。ダンサーが自分の想いを強調して表現できるもの、ダンサー自身が好きなもの、観客に伝わりやすい演目を選んでいます。
第3部は「神秘的な存在」。これももちろんバレエには不可欠なものです。人間ではない存在を踊るダンサーの巧みな技を観客に見ていただくパートです。

――3つのテーマはすぐに決まりましたか。
小林 ええ、すぐに決まりましたが、もっといろいろあるので、どれを選ぶかということでした。初めてですので観客にお見せするために、わかりやすくかつ伝わりやすいものを優先しました。やはりダイナミックなテクニックは不可欠ですし、感情表現はバレエの動きの中でダンサーがどうやって表現していくか、人間ではないものを演じる時にダンサーはどのようにするのか、というものを見ていただきたいと思っております。

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――映像による紹介も加えられるとお聞きしました。どのような映像を映すのですか。
小林 短いものになりますが、演目ごとの上演の前にこれから踊るダンサーがその演目をダンサー自身の言葉で紹介します。第2部ではダンサー自身のエモーション、こういうところを感じて踊っているということをお話します。第3部ではこれはどういう物語で、どういう感覚で踊っているか、ということをダンサーがお話しします。そうした映像を見てから演目を見ていただくことにによって、より深く作品を理解していただけると確信しています。

――バレエダンサーは何をどういう感覚で踊っているのか、ということの理解をより深めていきたい、ということにもなりますね。ダンサーの選択はどのような視点からなさったのですか。
小林 私が観客に伝えたいことを伝えてくれるダンサー、やはり得意なものがより伝えやすいので、そうした点を考えてを選びました。

――その結果「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」公演では、若手のダンサーの出演が多くなっているように感じます。
小林 そうですね、ロイヤル・バレエ自体も世代交代が進んで若いダンサーが増えていますから、結果的に今のカンパニーの状況を反映したダンサーたちになっているのだと思います。

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Tシャツデザイン

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映像打ち合わせ

――その他、権利交渉など難しい仕事ががありますね。
小林 そうですね、それが実は大変です。主人(フェデリコ・ボネッリ)にもなんでこんなに権利交渉が大変な作品ばかり選んだの、って言われました。ダンサーも心配してくれています。特にベジャールの『ルナ』を、ベジャールのカンパニー以外のダンサーが踊ることは大変難しい、と知っている人は知っていたみたいですが、私は知りませんでした。却って許可を取るためにはそれが良かったようでした。特にギエムがこの演目を踊っていますからね。
ハンス・ファン・マーネン振付の"Tow Pieces for HET"(マヤラ・マグリとアクリ瑠嘉)は、私がかつてオランダ国立バレエ団で踊っていたことがあってうまく交渉できました。またデヴィッド・ビントレーの"Homage to the Queen"よりEarthのパ・ド・ドゥ(高田茜とアクリ瑠嘉)は、2006年から久しぶりの上演ということで彼も喜んでくださって、少し編集してコーダの部分を創り直してくださることになりました。また『火の鳥』はパ・ド・ドゥではあまり上演されないので、モニカ・メイソンが協力して編集してくださることになりました。
それから衣装も揃えなければなりません。ロイヤルの衣装部にあるものは借りられるのですが、新しく作らなければならいものもあります。
そしてこれから映像作成がたくさんあって、12月と1月はダンサーたちが一番忙しい時期なのでどこで捕まえるかが大変です。それからロイヤルのスタジオを確保するのが非常に困難です。びっしりと予定が組み込まれていますから。

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Tシャツの打ち合わせ

――今回の公演グッズを作るとお聞きしましたが、そのほかにもこまごまとしたことがありますね。
小林 そうなんです。Tシャツとかトートバッグなどを考えています。やはり何か公演の記念になるものがあった方が楽しさも増すのではないかと思います。コヴェントガーデンのギフトショップなどもいろいろとグッズがあって楽しいですしね。これもまたプロデューサーの仕事のひとつです。
公演のチラシなどでも日本で作ると情報がいっぱい入っていて充実していますが、ヨーロッパではごく簡単なものしか作らないですね。劇場が主体になっているので、年間プログラムでほとんど全てを済ませているみたいです。
それから今日も舞台監督さんと打ち合わせしましたが、舞台上の細かなこと、演目ごとに照明をどうするかとか、小道具とかセット、幕などについても当然ですがしっかりと決めておかなければなりません。
客席でただ見ていただけの時とは、全然全く本当に違います! 裏からしかわからないことが山のように出てきています。

――もちろん、全作品が重要なのはわかっておりますが、もし小林さんが観客でしたら、このプログラムだったらこれは絶対見るべき、という演目はありますか。
小林 そうですね、難しいですが敢えて言いますと『火の鳥』よりパ・ド・ドゥでしょうか。これを踊るマヤラ・マグリは、昨年ロイヤル・バレエの『火の鳥』でデビューしました。私はこれを見て今まで見た中で一番感心しました。歴代のバレリーナを超える『火の鳥』だったと思いました。これは絶対に日本の観客に見てもらわなければならない、と思ってプログラムに入れました。フォーキンの『火の鳥』はもともとはロイヤル・バレエのレパートリに入っています。特にマーゴ・フォンテーンの名演が有名です。コヴェントガーデンの最上階には、著名な作品を展示するフロアがありますが、そこにも『火の鳥』の写真やフォンテーンが着た衣装などが飾られています。
それからメリッサ・ハミルトンが踊るベジャールの『ルナ』ですね。これは私も大いに楽しみにしています。そしてケネス・マクミランの『レクイエム』より2つのソロ。これは女性のソロは既に踊られていますが、男性のソロは(日本では)まだ上演されたことがありません。私の好きな作品でもあるし、2つのソロが踊られることによってこの『レクイエム』の良さが味わえると思います。
それからロシアの『春の水』ですね。ロシアで作られた作品らしいテクニックに満ちたこの作品にぴったりの日本人の二人のプリンシパルが踊るのがとても楽しみです。

――『春の洪水』という訳もあったくらいのエネルギーがあふれる作品ですね。
日本でガラ公演を上演するということで、特別に何か感じられたことはありますか。
小林 やっぱりバレエを見る観客の層が違いますし、観客が求めているものも違うと思います。それはやはり国ごとに違うのでしょうけれど、それを意識した中でもロイヤルの良さを詰め込んで、観客の皆様に喜んでいただけるような公演にしたいと思います。

――初めてプロデューサーとして仕事をなさって、まだ完成途上ですが、どのように感じられましたか。
小林 そうですね。このプログラムで観客にどうのように感じていただけるか、という不安が大きいですね。バレエファンの方々ではない方がどれだけ興味を持ってくださるか、それと公演の中身が観客に伝わるか、どこまで伝わるのか。そのあたりがとてもドキドキしているところです。今後もやりたい企画はいっぱい温めているのですが、まずは、今回の公演の成功を願っているところです。

――ダンサーを引退されてから新しい仕事を始められたわけですが、今現在もダンサーをやめてからどうしようか、と考慮中の人もいるのではないかと思います。現在の小林さんの立場から、何かアドヴァイスをいただけますか。
小林 そうですね。やはりダンサーが終わるとショックを受けると思います。実際にショックを受けて何もできなくなってしまったダンサーを見てきました。存在していた舞台が急になくなってしまうわけですから、その立場に立ってみないと本当には分からないのではないかと思います。ですから、やはり踊っている時から次に自分は何をやるか、ということを考える必要があると思います。終わってからでは遅いと思います。舞台の魔力は想像以上に強烈なものですから。

――小林さんの場合は、一度ご出産で舞台を退かれて、復帰されてまた引退されて新たな仕事を始められたわけですね。一度復帰するだけでも大変な努力だと思います。
小林 私は子供を産んでからどうしても戻ってきたかったのです。それは女性として子供を産んで終わり、というのが普通だと思われたくなかったということと、私は高齢出産だったので、若い方にこれから産んでも絶対に戻ってくることができる、とわかっていただきたかったし、そういうメッセージを伝えたかったのです。女性は子供を産んだら一線を退くといったスタイルではない、ちゃんと戻ってきて仕事ができる新しい生き方がある、ということをこれからの人たちに伝えたかったのです。そして自分でもそれを証明して感じてみたい、という強い気持ちがありました。もちろんすべてがギリギリだったのですが、自分の身体のコンディションを考えてベストの状態で終われるようにしました。なぜなら絶対にハッピーエンドで終わりたかったからです。ここで終わった方がいい、ときっちりと感じて引退しました。

――素晴らしい決断です。ハッピーエンドは唯一無二のエンディングですからね。本日は取材や打ち合わせで立て込んでいるお忙しい時に、お時間をとっていただきましてありがとうございました。「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」公演、大いに期待しております。

輝く英国ロイヤルバレエのスター達

●公式サイト http://www.royal-ballet-stars.jp/
10月12日(土)より先行販売、10月26日(土)より一般販売。
詳細は公式サイトへ

Part 1: Dynamism
ダイナミズム―ロイヤルゆかりの作品が誇るダイナミックな妙技を

1.『白鳥の湖』より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
ヤスミン・ナグディ、ワディム・ムンタギロフ
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョトール・イリイチ・チャイコフスキー

2. "Corybantic Games" より パ・ド・ドゥ<日本初演>
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:レナード・バーンスタイン

3.『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ
高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:ニネット・ド・ヴァロワ、レフ・イワノフ、エンリコ・チェケッティ
音楽:レオ・ドリーブ

4.『ライモンダ』第3幕グラン・パより
メリッサ・ハミルトン、平野亮一
振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンダー・グラズノフ

5.『クローマ』よりパ・ド・ドゥ
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:ジョビー・タルボット、ジャック・ホワイトIII

6.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
ローレン・カスバートソン、フェデリコ・ボネッリ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョトール・イリイチ・チャイコフスキー

Part 2 : Personal Emotion
パーソナル・エモーション--ダンサー自身が想いを表現できる作品を自ら厳選

1.『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
ヤスミン・ナグディ、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

2.『レクイエム』より2つのソロ
第2曲オッフェルトリウ:フェデリコ・ボネッリ
第4曲ピエ・イェズ:ローレン・カスバートソン
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ガブリエル・フォーレ

3. "Two Pieces for HET"
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:エリッキ=スヴェン・トゥール、アルヴォ・ペルト

4. "Dance of the Blessed Spirits"
ワディム・ムンタギロフ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:クリストフ・ヴィリバルト・フォン・グルック

5.『ルナ』(月のソロ)
メリッサ・ハミルトン
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

6.『春の水』よりパ・ド・ドゥ
高田茜、平野亮一
振付:アサフ・メッセレル
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ

Part 3. Mystical Being
神秘的な存在−バレエ作品で語り継がれる物語

1.『火の鳥』よりパ・ド・ドゥ
マヤラ・マグリ、平野亮一
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:イゴール・ストラヴィンスキー

2. "Homage to the Queen"より Earthのパ・ド・ドゥ
高田茜、アクリ瑠嘉
振付:デヴィット・ビントレー
音楽:マルコム・アーノルド

3.『アポロ』より
メリッサ・ハミルトン、フェデリコ・ボネッリ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:イゴール・ストラヴィンスキー

4.『ラ・シルフィード』
ヤスミン・ナグディ、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:ヘルマン・レーヴェンスョルド

5.『シルヴィア』よりグラン・パ・ド・ドゥ
ローレン・カスバートソン、ワディム・ムンタギロフ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:レオ・ドリーブ

※演目および出演者は、2019年10月8日現在の予定です。変更の可能性がございます。

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