「永遠」へとつながる身体、勅使川原三郎新作『雲のなごり』世界初演 リハーサルレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

10月26日・27日、東京バレエ団は世界的に活躍する振付家・勅使川原三郎の新作『雲のなごり』を世界初演する。これに先立ち、11日に同バレエ団で公開リハーサルが行われた。

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photo: Arnold Groeschel(すべて)

大スタジオに集まったダンサーたちが、手足を振るなどして体をほぐし始める。リラックス、穏やかな緊張とでも呼びたい雰囲気の中、リハーサルが始まった。
「数字が1、2、3、日本語があいうえおで始まるように、新しい作品には新しい『言葉』が必要です。体で音楽をどうとらえるか、その共通理解が作品の『言葉』、土壌になる。今はその土壌をつくっているところです。難しいけれど、いちばんおもしろい段階です」と勅使川原が説明する。

音楽は武満徹の「地平線のドーリア」と「ノスタルジア」。弦楽器が強く、ときに脅かすように鳴り響く。その音に揺り動かされ、弾かれるようにダンサーたちの体が動く。出演は沖香菜子、三雲友里加、柄本弾、秋元康臣、池本祥真、それに勅使川原の振付助手も務めるKARASの佐東利穂子。バレエ団全員参加のオーディションをかねたワークショップにより、このメンバーが選ばれたという。「一人ひとりのダンサーがソリストと考えています。自然界の一要素のように、持っているものが違う方を選ばせてもらいました」と勅使川原は語る。

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「音に反応して動いて」「音楽を聴いて。演奏家が弦をどう使っているか。重心の移し方、幅、加速感。ちゃんと聴いて影響されて」「指先、水平に。弦が切れるように、緩めて」
とどまることなく流れ続ける動き。時折、佐東が重心のかけ方やタイミングをを整理して伝える。動きを自分の体で繰り返し確認するダンサーたち。勅使川原から次々と指示が飛ぶ。繰り返されたのが「緩める」という言葉だ。足の裏や全身を緩めて、重心を自由に移動させる。そこに苦戦するダンサーたちに、勅使川原の言葉が厳しく響く。
「もっと緩めて、解放して」「重心、動いてないよ。頭の中がハテナ? になっちゃって、身体が飲み込んでないんだ。やればできるはず」。

そんな中、ときおりダンサーたちの息遣いと武満徹の音楽が響きあう。「左手、到達点に向かって正確に。そこに右腕が追いついていく。星の運行みたいに。日が沈むと月が出るように」「強風の中、静けさが抵抗してるような感じ」「身体が突然、言葉が生まれる前の空間にぽんっと置かれた感じで」
音楽に拮抗して、ダンサー一人ひとりが浮き上がり、何かスケールの大きなものに見えてくる。

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リハーサル後、勅使川原が作品について語った。勅使川原は1995年、佐東が初めてKARASのワークショップに参加した時に稽古場で「地平線のドーリア」をかけ、「彼女の身体と音楽が実に敏感に呼応している」と感じたという。佐東も「曲がかかった瞬間、ものすごい衝撃を身体で受けたことを覚えています」と語る。「武満徹の音楽は痛みにも似て、とても身体的です。わからないもの、不可思議なもの、今ここにないものに向き合う。そんな質感があると思います。いつか武満さんの音楽で作品をつくりたいと思っていました」と勅使川原。テーマの「雲のなごり」は、藤原定家の和歌「夕暮れはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ」から取られている。

出演者たちも、リハーサルの印象や抱負を語った。「風の流れだったり、一本の木がたたずんでいるだけだったり......勅使川原さんの言葉を聞きながら、自分がそういうものになる時間はとても好きです」と秋元康臣。
「一人ひとりの献身をすごく感じるので、ここから急激によくなっていくと思います。上から色を塗るのではなく、一人ひとりのポテンシャルをいかに引き出すかが私の仕事。たとえば沖さんは、カンがいいだけでなく、自分に対しての客観的な眼があり、反応する力が強い。若い三雲さんは、ふだんあまり前に出ないので地味に見えるけれど、感受性がとても豊かだと思うんです。技術以前に、自分に問い続け、求める力の強さが良いダンサーの条件だと思いますし、皆その力を持っている」と勅使川原はダンサーたちを評価する。
「皆の体が徐々に変化していくのがおもしろい。分厚い本を1ページずつ読み進んでいくような日々です。始まりも終わりもない時間や、観念から解放された問い......『ありえないこと』が奇跡のように、その日、その時間に東京文化会館で起きるだろうと期待しています」。

公演では、20世紀の傑作であるバランシンの『セレナーデ』、ベジャール『春の祭典』が併せて上演され、2作品以上に出演するメンバーも多い。まったくスタイルの違う3作品をどのように踊りこなすか、ダンサーたちの挑戦も見所だ。
勅使川原三郎のダンス言語と武満徹の音楽、ダンサーの身体が生み出す「奇跡」、劇場で目撃したい。

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photo: Arnold Groeschel(すべて)

東京バレエ団×勅使川原三郎新作「雲のなごり」世界初演

10月26日(土)14:00
10月27日(日)14:00
東京文化会館
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/teshigawara/

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