フェデリコ・ボネッリ=インタビュー「音楽と一致して動くこと、このダイナミズムを<輝く英国ロイヤルバレエのスター達>公演から感じてほしい」

ワールドレポート/東京

インタビュー = 関口 紘一

----吉田都引退公演はとても素晴らしかったです。
フェデリコ・ボネッリ ありがとうございます。

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8月の吉田都引退公演より
© Kiyonori Hasegawa

----日本で行われた、元プリンシパルの引退公演に参加されていかがでしたか。
ボネッリ 都さんはロイヤル・バレエで最初に一緒に踊ったダンサーの一人です。ですから、私には彼女の存在はとても大きいのです。その方がたまたま日本人だったわけです。私は個人的に日本と非常につながりがありますしね。
彼女の引退公演に出演することができて、光栄でしたしとても楽しかったです。

----客席の雰囲気や舞台の方でも、何か特別な感じがありましたか。
ボネッリ カーテンコールではすごい喝采が贈られ、たくさんの方がお花を持って来られたり、舞台の袖でも、ダンサーたちが温かく見守っていました。そして、なによりも都さん自身が楽しんでいました。引退セレモニーは与えられて得るものではありません。恵まれた人だけが行うことができるものだ、と改めて思いました。

----『誕生日の贈り物』なども上演されて、プログラムもとても楽しかったです。
ボネッリ 『誕生日の贈り物』はアシュトンが振付けたクラシック・バレエだけれど、ステップがグラズノフの音楽にぴったりと一致していて、それは本当にすごいことだと思います。ソロを女性が1つずつ踊りましたけれど、見れば見るほど、振付が音楽とぴったりあっていることがわかります。

----プティパの古典様式へのトリビュートも込められていたのではないでしょうか。
ボネッリ プティパが築いた上に、アシュトンが重ねました。音楽の表現という意味で、アシュトンは新しかったのだと思います。

----腕の使い方などアシュトン振付の個性が表れていました。
ボネッリ それだけでなく、やっぱり個性的といえばその音楽性です。音楽なしで、ステップを見て、その後音楽だけ聞くと、さっきのステップはこれに合っていた、とわかると思います。

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----英国ロイヤル・バレエで踊るということは、ボネッリさんにとって一つの目標でしたか。
ボネッリ 私にとってロイヤル・バレエは芸術的なホームです。一番多くを学んだし、学び続けて、探求して、成功も失敗もありました。世界中のどこで踊るのも嬉しいことだけれど、やはり、ここで踊るのが一番嬉しいです。かつては入団できるとは思ってなかったので、もっぱらビデオで舞台を見ていました。

----アレッサンドラ・フェリやヴィヴィアナ・デュランテとか、英国ロイヤル・バレエではイタリア人バレエダンサーが活躍していました。
ボネッリ はい。でもあまり興味はありませんでした。ビデオの世界という感じで見ていましたので、現実の人ではなくあくまでビデオの中の人たちでした。

----バレエを始められたきっかけはどんなことですか。
ボネッリ Teatro Nuovo というイタリアの私の出身地のバレエ学校が無料でクラスをやっていて、そのオープンデークラスを受けたことです。ラッキーでした。
母と一緒にそのバレエ学校の前を通った時に、たまたま1時間くらいレッスンを受けたら、「また、来週ね」と先生に言われて、また行きました。

----カルラ・フラッチに憧れてとかではなく、ごく日常的なきっかけで英国ロイヤル・バレエのスターは、バレエを始めたわけですね。
ボネッリ 当時はカルラ・フラッチがどんな人か知りませんでした・・・。
私は、音楽と動きが一緒になることが好きでした。ジャンプ、回転、走る、それを音に合わせるのが、とても好きでした。
そして、ずっと後になってから、バレエは物語を伝えることができる、と知りました。バレエ学校の年度末の公演で、2日間ステージに立って、バレエが物語を伝えられることを初めて実感しました。

----物語を伝えることがお好きだったのですね。
ボネッリ ええ、バレエはバレエにしか無い方法で、感情を表すユニークな力を持っています。文学や他の芸術表現では表すことのできない、愛情、喪失、憎しみなどの大きな感情を表すことに、バレエは向いていると思います。
言葉を使わないので、どの国でも伝わるし、言葉になる前に直接的に胸に刺さってくる力があります。

----ボネッリさんは、最もロイヤル・バレエの伝統が輝いている『マノン』や『マイヤーリング』『ロミオとジュリエット』『オネーギン』などほとんどの作品で主演されてきました。しかし、最近ではスカーレットの『フランケンシュタイン』マクレガーの『ウルフワークス』ウィールドンの『ウィンター・テールス』などの新しい振付家の作品を踊ることが増えてきていると思います。
ボネッリ 最初にロイヤル・バレエに来た時は、『マノン』や『ロミオとジュリエット』などのマクミラン作品やアシュトンの伝統的なバレエを踊りたかったのです。
しかしダンサーとしては、新しいビッグな全幕バレエを作りたいので、そういった作品を踊れることは嬉しいです。
新しい作品のクリエーションというのは、ダンサーがその創作プロセスに一緒に存在するものです。受け身ではありません。真っ白なキャンバスにただ受け身として描くのではなくて、ダンサーという人として関わり、一緒に作りあげていくもので、それはとても価値があるものです。

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----スカーレットの新作『フランケンシュタイン』の創作に参加されていかがでしたか。
ボネッリ これはとても暗いお話です。それが振付やダンサー同士の関わりの中に表現されています。
これは、大いなる喪失に関する物語です。
ヴィクター・フランケンシュタインは、幼い時にお母さんを亡くしてしまいます。幼い子が、お母さんとどうしても離れたくない、という感情から、彼女を取り戻す手段を探します。大好きなものを失って、それが、彼を壊してしまいます。そして死体から命を蘇らせてしまうのです。

----ぜひ、見たいです、熱望します。日本でも上演してください! ウェイン・マクレガーの振付は、また特別だと思いますが、いかがですか。
ボネッリ 彼の作品の作り方は、とても特別です。多くを生みだすことができます。
とてもたくさんの素材を用意してきて、リハーサルのアプローチは選び取っていくプロセスとなります。私からすると、彼は画家のようです。
最初はわからないけれど、だんだん踊り込むうちに、リハーサルで使われているテクニックが、空間全体のクリエイティヴィティを育てるものだと気づくのです。振付家だけでなく、ダンサーもキャンバスではなくて、生きているものなのです。
ウェインがやって見せて、ダンサーがそれを試してみると、全く一緒ではないことがあります。でも彼は、NOとか違うからこうやって、とは言いません。きっと明確でなかったんだね。こういう風に考えてたんだ、と言います。
その理由は、ダンサーたちが和やかに、創作プロセスに関われるようにするためです。こういった雰囲気が、最も創作の花を咲かせる力があるからです。

----10年後の英国ロイヤル・バレエの主要な演目は、大きく変わっているかもしれないですね。
ボネッリ そう言われると、芸術監督のケビン・オヘアも喜ぶと思います。バレエ団が進化して行くことを願っていますから。

----小林ひかるさんがプロデュースの仕事をされることをどうお考えですか.
ボネッリ 全く驚いていないです。
彼女は才能に溢れていて、人々を束ねて何か成し遂げたいと思っていることはずっと以前から知っていました。今回のガラ公演「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」のプロデュースは、その一部でしか無いけれど、大切な第一歩です。

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----バレエ団の公演ではなくて、こう言ったガラ公演に参加するということは、ダンサーにどういう影響があると思いますか。
ボネッリ 良いことだと思います。両方に参加することで、ダンサーは成長すると思います。外国の劇場まで遠出して、いつも一緒に踊っていない人たちと踊る、そう言った経験がダンサーにとって必ずプラスになって行くと思います。

----小林ひかるさんが会社を設立されましたね。
ボネッリ 私は特別なポジションではないですが、彼女をサポートすることが役目です。

----現役を退かれたら、どのようなことをしていきたいですか。
ボネッリ いつかは、バレエ団のディレクターになりたいと思っています。まだたくさん学ばなくてはならないかもしれませんが、最近は新しいことを学ぶことに力を入れています。*Clore Fellowshipというコースを終了し、リーダーシップの養成講座を終えてきたばかりです。
ディレクターという仕事が私の目標だし、目指していくところだと思っています。今は一つの転機ですが、思ったほどの大きな変化ではなく、ごく自然なことだと思っています。
私は、踊るのも好きですが観ることも好きで、一人の観客でもあります。同時に、新しい作品を作り上演する人々を支えることにも関心があります。自分自身、自然に素直に、非常に興味のあることです。この大好きなバレエの世界の一員でありたい、と思っています。
それからもう一つ。全力を尽くして変えていきたいことがあります。
バレエにプロとして関わる人の中で、振付家は男性が圧倒的に多いです。バレエにはステージの上で物語を伝える力があることを考えると、もっと女性の作る作品が見たいと思うのです。社会全体としては、才能や能力があれば、上に上がっていけるように、だんだん変わってきたと思いますが、バレエの世界でも同様に公平になっていって欲しいと思います。

----ボネッリさんは小林さんが出産される際に、育休を取られたのですよね。
ボネッリ 私の娘がうまれた時は、女性が9ヶ月休みを取れるだけでした。今は、9ヶ月間休む権利を、夫婦で分けて使うことができるようになりました。
実際、私は出産の時は何度か公演に出れなかったけれども、結局、1週間くらい休んだだけでした。
今、*PiPAのアンバサダーの立場としては、子供を持つ人に、パートタイムの仕事を与えることに力を入れて行きたいです。まずは欧米から。日本では難しいかもしれないですが。
多くの場合、子供が生まれると女性の負担が多くなります。それには選択肢がなく、そうなることが多く、才能があっても伸ばす機会が奪われることがあります。でも、そういった才能を発展させる環境を整える努力をしたいと思います。

----これから子供が生まれてくる男性ダンサーへアドバイスをください。
ボネッリ 努力はお互いに半分ずつ負担する、という意識をはっきり持つことです。実際の働きがフィフティ・フィフティにならなくても、努力していこうという気持ちは、一緒に同じだけ持っているべきです。

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----今回のガラ公演「輝く英国ロイヤルバレエのスター達」では、『レクイエム』と『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』、『アポロ』を踊られる予定ですね。プログラム全体はどのように思われていますか。

ボネッリ そうですね、Part 1 は「ダイナミズム」。音楽と一緒に動くこと、これが、まさに私がバレエを好きになった入り口です。いまでも大好きです。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』やクラシック・バレエの名作から、このことを感じて欲しいです。

Part 2のモティーフは「エモーション」です。『レクイエム』は、マクミランの素晴らしい振付とフォーレの素晴らしい音楽。とても深い感情が描かれています。マクミランには個人的に非常に魅了されていました。バレエが感情を伝えることができる、ということが、このプログラムから伝わって欲しいと思います。

Part3 は「神秘的な存在」。『アポロ』はとても好きなんです。音楽的だし知的だし。動物的なところを表現しながら踊ることも好き。アポロは神だけれども、動物的なところもあるのでおもしろいのです。詩的だし、白くて、美しいラインに溢れていて、そういったところは、生身の生き物らしいところだけれども、同時に若さというテーマも表していると思います。

----本日は興味深いお話をありがとうございました。日本で見ることのできるあなたの次の舞台をとても楽しみにしております。

*Clore Fellowship(The Clore Leadership という団体の中のClore Fellowshipというプログラム名。リーダーシップの養成講座の一つ。)
https://www.cloreleadership.org/programmes/clore-fellowship/fellowships-overview
*PiPA (Parents in Performing Arts)
http://www.pipacampaign.com/

輝く英国ロイヤルバレエのスター達

●公式サイト http://www.royal-ballet-stars.jp/
10月12日(土)より先行販売、10月26日(土)より一般販売。
詳細は公式サイトへ

Part 1: Dynamism
ダイナミズム―ロイヤルゆかりの作品が誇るダイナミックな妙技を

1.『白鳥の湖』より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ
ヤスミン・ナグディ、ワディム・ムンタギロフ
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョトール・イリイチ・チャイコフスキー

2. "Corybantic Games" より パ・ド・ドゥ<日本初演>
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:レナード・バーンスタイン

3.『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ
高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:ニネット・ド・ヴァロワ、レフ・イワノフ、エンリコ・チェケッティ
音楽:レオ・ドリーブ

4.『ライモンダ』第3幕グラン・パより
メリッサ・ハミルトン、平野亮一
振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンダー・グラズノフ

5.『クローマ』よりパ・ド・ドゥ
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:ジョビー・タルボット、ジャック・ホワイトIII

6.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
ローレン・カスバートソン、フェデリコ・ボネッリ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョトール・イリイチ・チャイコフスキー

Part 2 : Personal Emotion
パーソナル・エモーション--ダンサー自身が想いを表現できる作品を自ら厳選

1.『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
ヤスミン・ナグディ、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

2.『レクイエム』より2つのソロ
第2曲オッフェルトリウ:フェデリコ・ボネッリ
第4曲ピエ・イェズ:ローレン・カスバートソン
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ガブリエル・フォーレ

3. "Two Pieces for HET"
マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:エリッキ=スヴェン・トゥール、アルヴォ・ペルト

4. "Dance of the Blessed Spirits"
ワディム・ムンタギロフ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:クリストフ・ヴィリバルト・フォン・グルック

5.『ルナ』(月のソロ)
メリッサ・ハミルトン
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

6.『春の水』よりパ・ド・ドゥ
高田茜、平野亮一
振付:アサフ・メッセレル
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ

Part 3. Mystical Being
神秘的な存在−バレエ作品で語り継がれる物語

1.『火の鳥』よりパ・ド・ドゥ
マヤラ・マグリ、平野亮一
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:イゴール・ストラヴィンスキー

2. "Homage to the Queen"より Earthのパ・ド・ドゥ
高田茜、アクリ瑠嘉
振付:デヴィット・ビントレー
音楽:マルコム・アーノルド

3.『アポロ』より
メリッサ・ハミルトン、フェデリコ・ボネッリ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:イゴール・ストラヴィンスキー

4.『ラ・シルフィード』
ヤスミン・ナグディ、ウィリアム・ブレイスウェル
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:ヘルマン・レーヴェンスョルド

5.『シルヴィア』よりグラン・パ・ド・ドゥ
ローレン・カスバートソン、ワディム・ムンタギロフ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:レオ・ドリーブ

※演目および出演者は、2019年10月8日現在の予定です。変更の可能性がございます。

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