中世の混沌とクールな悪のイメージがコントラストを描いた、熊川版『カルミナ・ブラーナ』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

K バレエ カンパニー/東京フィルハーモニー交響楽団

『カルミナ・ブラーナ』熊川哲也:演出・振付・台本

Bunkamra30周年記念フランチャイズ特別企画として、熊川哲也の演出・振付・台本による『カルミナ・ブラーナ』をK バレエ カンパニーと東京フィルハーモニー交響楽団が世界初演した。指揮は東京フィルハーモニー交響楽団首席首席指揮者のアンドレア・バッテイストーニ。K バレエ カンパニーを率いるのは、もちろんオーチャードホールの芸術監督でもある熊川哲也。そしてK バレエ カンパニーと東京フィルハーモニー交響楽団はともに、Bunkamura オーチャードホールのフランチャイズ団体だ。こうして劇場と芸術団体が恒常的な関係を結んでいることは、創造活動に良い効果をもたらすものと思われる。

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© Hidemi Seto/Bunkamura(すべて)

『カルミナ・ブラーナ』のテキストは中世の300曲にに及ぶ様々な通俗的な題材の歌曲集で、カール・オルフがその中から24曲を選んで作曲し、1937年にフランクフルトで歌手や合唱団、踊り手による劇として初演されている。その後、ナチスによる政治的な洗礼も受けているが、この音楽にはマリー・ウィグマン(1943)、そしてデヴィッド・ビントレー(1995)が現代風俗を加えてバーミンガム・ロイヤル・バレエに振付け、新国立劇場で2005年に上演された。日本人では晩年の石井潤が振付けている。

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熊川哲也はこの中世ドイツの歌曲集の世界を、一つの物語によって今日の観客に向けて表そうと試みている。興味深い果敢なアイディアだ。
冒頭に歌われる有名な運命の女神フォルトナは悪魔ルシファーと恋におちその子、アドルフを生む。悪の子であるアドルフはフォルトナを消し、人間世界に紛れ込む。アドルフに触れるとすべてが悪に染まる、花も鳥も太陽もヴィーナスも白鳥も神父すらも・・・。だがやがてフォルトナが復活する、と言った物語である。
合唱団を舞台に載せ、ソプラノ(今井実希)カウンターテナー(藤木大地)バリトン(与那城敬)とともに歌い、ダンサーと同じ板のうえで演じ、バレエの群舞とオーケストラが強い一体感を持って観客に訴えた。とりわけ演奏が素晴らしく、中世の神の世界を表し、かつ今日の人たちにも語りかけた。

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アドルフは関野海斗。全編を通して踊り、クールな悪の像を創った。フォルトナは中村祥子で堂々と貫禄を見せた。宮尾俊太郎の太陽、矢内千夏のヴィーナス、堀内将平のダビデ、遅沢佑介のサタン、などそれぞれうまくパーソナリティーを表して踊った。
中世の猥雑な混沌から生まれる得体の知れないエネルギーが、クールな悪のイメージがコントラストを見せた。そこに現代の人間の存在の環境を感じさせるものがあった。身体を使って物語を表すことには力強さがあり、これこそがダンスの生命だ、と改めて感じさせられた舞台だった。

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© Hidemi Seto/Bunkamura(すべて)

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