様々の国から若さと意欲あふれるバレエダンサーが集結した、バレエ・アステラス2019

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

バレエ・アステラス2019 〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜

新国立劇場バレエ研修所

今回のバレエ・アステラスは海外で活躍する日本人バレエダンサーとそのパートナーそして、カナダ国立バレエ学校をゲストに迎えた2部構成。英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の首席指揮者、ポール・マーフィーが東京フィルハーモニー交響楽団を指揮し、金子三勇士によるショパンの演奏もあり、10回目を記念した2日間公演となっていた。
まず、恒例のオープニングは、牧阿佐美がシャルル・グノーのオペラ『シバの女王』のバレエシーンの曲に振付けた『ワルツ』。新国立劇場バレエ研修所の研修生と予科生たちが踊った。牧阿佐美の手馴れた振付で、ワルツのリズムが良いテンポで感じられて、ちょっと懐かしい気分も味わうことができた。

「ワルツ」新国立劇場バレエ研修所 撮影/瀬戸秀美

「ワルツ」新国立劇場バレエ研修所 撮影/瀬戸秀美(全て)

第1部はまず『ダイアナとアクテオン』。プティパの『エスメラルダ』の中のディヴェルティスマンとして振付けられたものだが、現在はアグリッピーナ・ワガノワの振付が定番として踊りつがれている。ハンガリー国立バレエ団の高森美結と同じカンパニーのドゥミソリスト、森本亮介が踊った。伸びやかな手足と大きな動きによるワガノワ・スタイルの表現が明快に踊られた。バレエ好きの国、ハンガリーの血流を日本人のペアが受けとめた舞台だった。

「ダイアナとアクティオン」

「ダイアナとアクティオン」

「ダイアナとアクティオン」

「ダイアナとアクティオン」

「ラ・シルフィード

「ラ・シルフィード」

ブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』第2幕よりパ・ド・ドゥを踊ったのは、ジョージア国立バレエのペアで、ソリストの横山瑠華とコリフェのディエゴ・ブッティリオーネ。ブルノンヴィルらしい軽やかで華やかな細かいステップが見られたが、もっと強調してもらいたいとも思った。
『Take Me With You』は、ポーランド国立歌劇場バレエのプリンシパル、海老原由佳とソリストのクリストフ・シャボが踊った。白いシャツと黒いショーツを着け、手拍子で始まり手拍子で終わるダンス。レディオヘッドの曲を使い、ダンサーの身体と融和する動きで構成されていた。ポーランドの振付家ロベルト・ボンダラがこの二人のために振付たというだけあって、息のぴったりとあった完成度の高い舞台だった。
ハンガリー国立バレエ団の石崎双葉とダービット・モルナーが踊ったのは、『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ。音楽はプロコフィエフ、振付はジョヴァンニ・ディ・パルマ。身体を密着させる振りが多く、ヴェローナから追放されるロミオの激情が自ずと現れてくる、なかなか魅力的な踊りだった。
元パリ・オペラ座のエトワール、ローラン・イレールが芸術監督を務めるモスクワ音楽劇場バレエからは、直塚美穂とソリストのアリシェイ・カリヴァイが『海賊』第2幕より、パ・ド・ドゥを踊った。直塚の伸びやかな身体が映え、この作品独特の雰囲気が現れた踊りだった。
第1部の最後は『Notre Chopin』。ポーランド独立100周年を記念してショパンの「ピアノ協奏曲第1番」に、英国ロイヤル・バレエのリアム・スカーレットが振付けた作品だそうだ。金子三勇士のピアノに乗って、ポーランド国立バレエ、プリンシパルの影山茉以とコリフェ/ドゥミソリストのマルコ・エシパジトが第2楽章のデュエットのパートを踊った。スカーレットの繊細にして豊かな音楽性のある振付が情感が溢れるように踊られた。美しいラインを描く見事なデュエットに魅了された。

「Take Me With You」

「Take Me With You」

「ロミオとジュリエット」

「ロミオとジュリエット」

「海賊」

「海賊」

「Notre Chopin」

「Notre Chopin」

休憩の後、第2部は英国の作曲家ウィリアム・ウォルトンの「ファサード」(アシュトンが振付けた事で知られる)に、三谷恭三が振付けた『ヴァリエーション for 4』で始まった。黒いハットを被った男性ダンサー四人が黒いトップとパンツにキラキラ光る胸飾りを付けて踊った。それぞれのヴァリエーションをユーモラスに表した楽しい舞台だった。新国立劇場バレエ研修所及び終了したゲストダンサーが踊った。
今回のゲスト、カナダ国立バレエ学校の二人が『ラ・バヤデール』第3幕 影の王国より パ・ド・ドゥ。そしてO. パレット音楽、R. ビネー振付の『Three Images of Hope』よりデュエット。ともに若さが溢れる新鮮な踊り。特に『Three Images of Hope』は希望を積極的に信じ、未来に憧れる気持ちが込められていた。
『タランテラ』を踊ったのはワシントン・バレエの宮崎たま子と滝口勝巧。男性は赤い帽子、女性は赤いトップ。毒蜘蛛に刺された時の様子を表す、とも言われるこの作品は、スピードに乗ったリズムをタンバリンを打ちながら一気に踊りきることが肝要。観客を巻き込んで踊りに参加させてしまうくらいの魅力的な力強い求心力のある民族舞踊風の踊りだ。もう少しだけエネルギーが欲しい気もしたが、品良く踊りうまくまとめた。

「ヴァリエーション for 4」

「ヴァリエーション for 4」

「ラ・バヤデール」カナダ国立バレエ学校

「ラ・バヤデール」カナダ国立バレエ学校

「Three Images of Hope」カナダ国立バレエ学校

「Three Images of Hope」カナダ国立バレエ学校

「タランテラ」

「タランテラ」

第2部は、クラシックのパ・ド・ドゥが多くプログラムされており、次は『ジゼル』第2幕より パ・ド・ドゥ。ルーマニアのシビウ劇場バレエ、プリンシパルの永井綾香とブカレスト国立歌劇場バレエ団、プリンシパルのロベルト・エナケが踊った。永井はイングリッシュ・ナショナル・バレエスクールの卒業好演でもジゼルを踊った、と公演プログラムにあるからよく踊っているのだろう。ジゼル好きのダンサーらしく、細やかな表現が身に付いていた。ただこのパートナーとはそれほど多く踊っていないのかもしれないとも見えた。
『グラン・パ・クラシック』よりパ・ド・ドゥ。カールスーエ州立バレエ団グループソロの菊地桃花とファースト・ソリストのパブロ・オクタビオが踊った。クラシック・バレエの美しさを音楽と技巧的動きの構成によって現す作品を堂々と見せた。
最後は新国立劇場バレエ団による『ドン・キホーテ』第3幕より。新国立劇場バレエのレパートリーであるファジェーチェフ版。キトリの友人の第一ヴァリエーション(奥田花純)第二ヴァリエーション(廣川みくり)とともに、キトリの米沢唯(プリンシパル)とバジルの渡邊峻郁(ファースト・ソリスト)が踊った。
特に米沢はさすが、悠揚せまらぬ踊りで圧巻。客席をも圧倒するかの踊り。渡邊も逞しさを感じさせる動きで、見事に公演全体を締めくくる舞台だった。
(2019年8月3日 新国立劇場オペラパレス)

「ジゼル」

「ジゼル」

「グラン・パ・クラシック」

「グラン・パ・クラシック」

「ドン・キホーテ」

「ドン・キホーテ」

カーテンコール

カーテンコール 撮影/瀬戸秀美(全て)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る