古典名作と東京バレエ団のダンサーが振付けた意欲的2作品が上演された「サマー・バレエ・コンサート」

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

【めぐろバレエ祭り】

〈サマー・バレエ・コンサート〉『ライモンダ』より マリウス・プティパ:振付、ほか

"子どもから大人まで 夏はめぐろでバレエざんまい"をキャッチコピーに、【第7回めぐろバレエ祭り】が8月20日から25日まで、めぐろパーシモンホール全館で開かれた。東京バレエ団によるバレエ公演をはじめ、ダンサーによるバレエのレッスンやレクチャー、ぬり絵遊びやこども音楽会、フィナーレを彩る「スーパーバレエMIX BON踊り」など、多彩な行事が繰り広げられた。バレエ公演は、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』と〈サマー・バレエ・コンサート〉で、このうち古典バレエの名作と団員による新作を織り交ぜた後者を、15時30分からの第2回目のキャストで観た。

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© Kiyonori Hasegawa

第1部の幕開けはアグリッピーナ・ワガノワ振付の『ディアナとアクテオン』。クラシック・バレエの教授法を確立したワガノワの生誕140年を記念しての上演で、高度のテクニックが要求される狩猟の女神ディアナと猟師アクテオンのパ・ド・ドゥが、女性群舞付きで踊られた。後方に置かれた額縁の後でポーズを取るダンサーたちをシルエットで浮かび上がらせた後、ダンサーたちが次々にステージに現れて踊り、再び額縁の中に収まって終わるという洒落た演出だった。ディアナの吉江絵璃奈は入念にパを踊り繋ぎ、ダブルを入れたフェッテも優雅にこなし、アクテオンの池本祥真はパワフルで豪快なジャンプで圧倒した。
マリウス・プティパ振付の『眠れる森の美女』より"ローズ・アダージオ"では、オーロラ姫の金子仁美が4人の王子を相手に繰り返される片脚バランスを手堅く決めた。王子ひとりひとりと、きちんと目線をかわして踊る姿が初々しかった。プティパの『海賊』より"パ・ド・トロワ"は、コンラッドと恋人メドーラ、奴隷のアリによる高度なテクニックが詰め込まれた演目。コンラッドの秋元康臣は海賊の首領らしく威厳を漂わせて滑らかに美しくジャンプし、アリの宮川新大はダイナミックな跳躍や強靱な回転技で印象づけ、メドーラの川島麻実子はしなやかな身のこなしで端正に踊った。

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© Kiyonori Hasegawa

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© Kiyonori Hasegawa

第2部では、東京バレエ団のダンサーが振付けた2作品が紹介された。バレエ団がダンサーに創作に挑戦してもらおうと立ち上げた〈Choreographic Project〉で評価を得た作品という。最初は岡崎隼也の『理由』。四方に置かれた小さなイスに、四隅から登場した白いワンピースの女性4人が腰掛け、踊り始めた。プロコフィエフの〈ロミオとジュリエット〉の終幕の音楽で始まったので、「人やペットの死は必然と分かっていても何故と理由を求めてしまう」という岡崎の言葉からすると、愛しい人を失った女をイメージしているのだろう。4人は独特のポーズを取ったり、イスを移動させたりしながら、離れ離れに踊った。やがて互いに絡み合う動きが増え、心の内を放出するように伸びやかに踊った後、冒頭シーンに収束するようにイスに腰掛けて終わった。2作目は、ブラウリオ・アルバレスが日本の鬼婆伝説をもとに振付けたという『夜叉』。中川美雪は人を食うという夜叉の化身だろうか、総タイツで長い髪を振り乱して凄みのあるソロを踊った。床に仰向けに寝ていた女4人と男4人は中川の分身なのか、起き上がるとペアを組み、中川に煽られるようにエネルギッシュに踊りまくった。後半に登場したショートパンツの池本祥真は、生身の身体をみせつけるように無防備に踊ったものの、中川に取り憑かれ、口づけされるとフリーズしたように動きを止めた。そして、中川ら夜叉たちが標的に定めた池本を散々にいたぶったあげく取り殺すまでが一気に描かれた。インパクトのある作品だった。2017年にスタートしたばかりの〈Choreographic Project〉だが、ダンサーの振付の才能を引き出すだけでなく、創作に立ち合ったダンサーたちにとっても解釈や表現力を深める上で刺激になると思えるだけに、今後の展開が期待される。

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© Kiyonori Hasegawa

最後を飾ったのは古典の名作で、プティパの『ライモンダ』より結婚式の場面が上演された。ライモンダの上野水香はすらりと伸びた脚を優雅に操り、ジャン・ド・ブリエンヌの柄本弾と共に、一つ一つのポーズやステップを端正にこなし、プティパの格調高い様式を際立たせた。踊り込んでいる作品だけに群舞もよくそろい、主役のカップルに協和して舞台を華やぎで満たした。続く「フィナーレ」(構成・振付:岡崎隼也)では、出演したダンサーたちが作品の衣装のまま登場し、それぞれが踊った作品ならではの妙技を競うように披露して会場を盛り上げた。
(2019年8月24日15時30分  めぐろパーシモンホール)

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