海外のカンパニーで活躍しているダンサーを中心に、20名が踊ったフレッシュなオーチャード・バレエ・ガラ

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

熊川哲也 オーチャードホール芸術監督 特別企画

オーチャード・バレエ・ガラ 〜JAPANESE DANCERS〜

Bunkamura オーチャードホールは、今回2回目となる「オーチャード・バレエ・ガラ 〜JAPANESE DANSERS〜」を開催した。次回は2021年開催予定。2018年には「オーチャード・バレエ・ガラ〜世界名門バレエ学校の饗宴」&入学特別オーディションを開催したが、次回は2020年に行う予定。そして今後は、この二つを姉妹公演と位置づけ、長期的視野を持って定期的に開催していく予定だという。とても良いことだと思う。バレエダンサーを目指す人たちが、カンパニーを越え国境をこえて交流していくことは、テクニックのみならずダンサーのアーティスティックな面の向上にも繋がる。さらなる良い結果に期待したい。

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『海と真珠』飯田ゆにか、西山菜月、淵山隼平
© Hidemi Seto / Bunkamura(すべて)

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『ヴァスラフ』よりソロ 菅井円加
© Hidemi Seto / Bunkamura

第2回「オーチャード・バレエ・ガラ」は全10演目とフィナーレを、海外のカンパニーで踊るダンサーたちを中心とした20名が様々な演目を踊った。古典名作バレエのパ・ド・ドゥが多かったが、マルコ・ゲッケの日本初演作『Wir Sagrn uns Dunkles』とノイマイヤーの『ヴァスラフ』、オープニングの『海と真珠』などは、なかなか見ることのできない作品だ。
まず、アレクサンドル・ゴルスキー振付の『海と真珠』で開幕した。これはロシアの民話を原作としたバレエ『イワンと仔馬』の、姫君のために海底に指輪を取りに行くシーン。溝下司朗が監修・指導した。男性一人(淵山隼平、ローザンヌ2019ファイナリスト)と女性二人(飯田ゆにか/チューリッヒ・ダンス・アカデミー、西山菜月/ミュンヘン州立バレエ アカデミー)によるパ・ド・トロワで、明るく楽しく可愛らしい作品だった。近年はほとんど忘れられつつある、ロシアのよき時代を思い起こさせる雰囲気があって懐かしい。2010年にラトマンスキーが振付けた『イワンと仔馬』をマリインスキー・バレエが来日して上演している。

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『ラ・シルフィード』より
 前田紗江、隅谷健人

続いてブルノンヴィル版の『ラ・シルフィード』より。ジェームズとシルフィードの森の中のシーン。英国ロイヤル・バレエの前田紗江とABTの隅谷健人が踊った。音楽によくのった楽しい踊りだったが、ブルノンヴィル独特の細かいステップの特徴が少し弱かったようにも見えた。
ジョン・ノイマイヤー振付の『ヴァスラフ』よりソロ。今年、日本人で初めてハンブルク・バレエのプリンシパルに昇格した菅井円加が踊った。ノイマイヤーは史実を綿密に調査して、2000年に『ニジンスキー』を振付けているが、『ヴァスラフ』は1979年に自身のカンパニーが主催する「ニジンスキー・ガラ」のために振付けた。ニジンスキーが構想して未完に終わった作品をノイマイヤーが作品化したもの。この中の女性のソロを菅井が踊った。滑らかで伸びやかな素晴らしい動きで、もっと見たかったのだが、ややあっけなく終わってしまった。

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『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ 二山治雄

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『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥ 金原里奈

『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥは、イングリッシュ・ナショナル・バレエのソリスト、金原里奈とパリ・オペラ座バレエのカドリーユ、二山治雄。イギリスとフランスのカンパニーで踊っているので、パートナーシッブが少しだけスムーズさを欠いたが、それぞれのヴァリエーションはとても良かった。特に二山の軸の揺るぎない動きは見事だった。
ヒューストン・バレエの芸術監督のスタントン・ウェルチ振付の『ロミオとジュリエット』より、バルコニーのパ・ド・ドゥ。これは全幕は未見だが、(このシーンはNHKバレエの饗宴で上演された)素敵な振付だ。ここだけ見るとマクミラン版に勝るとも劣らない。特にジュリエットを踊った飯島望未(ヒューストン・バレエ、プリンシパル)は、初々しい魅力を見事に表現として描き出している。ロミオ(中野吉章、ピッツバーク・バレエ、プリンシパル)もジュリエットの美しさを引き立てるように、闊達に踊った。
『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』は、K バレエ カンパニーのプリンシパル、矢内千夏とプリンシパルソリストの山本雅也の活気ある踊りだった。

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『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
飯島望未、中野吉章

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『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
飯島望未、中野吉章

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『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ
近藤亜香

休憩の後は、『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ。オーストラリア・バレエのプリンシパルで昨年のブノア賞にノミネートされた近藤亜香とKバレエ カンパニーのプリンシパルソリスト高橋裕哉が踊った。近藤はバランスがじつによい。脱力感があり、身体の自由さが保証されているのだが、踊りにエネルギーがあって魅力的だった。
マルコ・ゲッケ振付の『Wir Sagen uns Dunkles』は、ネザーランド・ダンス・シアター2の二人、石丸ニコルと福士宙夢が踊った。ゲッケの振付には、ボートビルなどの大衆舞台芸術のテクニックが生かされている。しばしばロックやポピュラーソングを使うし、動きにもミュージックホールなどで使われていた技巧がまじる。超スピードの細かい動きが基本となっているが、大きなステップも時折使う。独特で個性的であり、言葉に還元し難いところがあるのだが、多くの観客は身体で受け止め身体で理解している。

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『Wir Sagen uns Dunkles』より
石丸ニコル、福士宙夢

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『タリスマン パ・ド・ドゥ』
寺田翠、大川航矢

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『ラ・バヤデール』"影の王国"より
佐々晴香、石田浩明

『タリスマン』のパ・ド・ドゥはピョートル・グーセフ振付。プティパが振付けた『タリスマン』は、天界の娘と人間の愛をめぐる物語で、タリスマン(お守り)が重要な役割を果たす。プティパ自身もたびたび改訂を加え、このパ・ド・ドゥも初演にはなかったともいわれる。プティパの原振付は失われてしまったが、旧ソ連のダンサーであり、バレエ・マスターも務め、ロシア・バレエに造詣の深いグーセフが残された資料をもとに振付けている。ノヴォシビルスク・バレエのソリスト同士の寺田翠と大川航矢が踊った。寺田は恋する天界の娘をうまく表した。現実性を希薄にして、ソフィストケイトされた存在感を巧みに漂わせ、しかし、恋する気持ちをしっかりと表した。大川も天界の娘に対する人間としての愛をしっかりと表して踊った。無駄な装飾のない振付で作られていて好感の持てる舞台だった。
最後の演目は、『ラ・バヤデール』影の王国より。スウェーデン王立バレエのファースト・ソリスト、佐々晴香のニキヤが楚々として踊りとても良かった。ソロルは同バレエ団のセカンド・ソリスト、石田浩明でオーソドックスに踊り、全体に豪華さを表した。
フィナーレは20名のダンサー全員が、華やかにガラ公演を楽しむように舞台に立ち幕を下ろした。
(2019年7月27日 Bunkamura オーチャードホール)

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『ラ・バヤデール』"影の王国"より
佐々晴香、石田浩明

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『フィナーレ』

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