公演直前インタビュー=中村恩恵 鮮烈なアーティストとして知られる、画家・鴨居玲と彫刻家・カミーユ・クローデルを語り、踊り、そして演奏する公演が間もなく開幕する

ワールドレポート/東京

インタビュー・関口 紘一

<音楽と語り>による『Rey Camoy 』そして<音楽とダンス>による『Camille カミーユ・クローデル』という二つのプログラムが、8月9日から12日まで表参道のスパイラルホールで首藤康之と中村恩恵が所属するサヤテイの主催により上演される。1960年代から80年代に自己と対決した独特の絵を描き、熱狂的ファンを持つ鴨居玲と、ロダンを師とする彫刻家としてまた愛人として悲劇的な人生を生きたことで知られるカミーユ・クローデル、この二人をフィーチャーした舞台を連続して上演。そして両方の作品には天才ヴァイオリニストの郷古廉が舞台上で演奏し、レディ・ガガの衣装も手掛けた注目のアーテスト・デザイナーの串野真也が衣裳を手掛けるという、意欲的・実験的な企画である。
『Rey Camoy 』のステージングを担当し、『Camille カミーユ・クローデル』の演出・振付を行い、出演もする中村恩恵と主催者に話を聞いた。

―これは毎年行っている定期的な公演になりますか。
主催者 2017年より株式会社ワコールアートセンターさんのご協力により、スパイラルホールで主催公演を開催してきました。今年で3年目になります。

―今回の公演は、どのようにして生まれましたか。
主催者 郷古廉さんと首藤の出会いがきっかけとなっています。
そして、画家の鴨居玲は、もともと首藤が強い関心を持っており、いつか何かのかたちで舞台化したいと、また、カミーユ・クローデルは、中村がいつか創作の題材にしたいと話していました。

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―鴨居玲は<音楽と語り>、カミーユ・クローデルは<音楽とダンス>ですね。
主催者 <音楽と語り>では首藤が俳優として出演します。演出は、今、最も注目されている演出家の一人、シライケイタさんに、脚本・構成に人気劇団「アマヤドリ」の主宰であり、劇作家・演出家の広田淳一さんにお願いしました。また、美大出身で画家を目指していたこともある、実力派俳優の山口馬木也さんに出演していただきます。
57歳で生涯を閉じた鴨居玲という純粋芸術家と、才能豊かでありながら悲劇の終末を迎えたカミーユ・クローデル。一見すると全く関係のない男と女の二つの物語を「音楽とダンス」「音楽と語り」で表現する舞台です。当初は、これまで抱いていた関心から選択した題材でしたが、いろいろと調べ舞台化を進めていくうちに、面白いように有機的に結びつき、それぞれがとても良い緊張感の中で創作を続けています。鴨居羊子を姉にもった鴨居玲と、カミーユ・クローデルを姉にもったポール・クローデル、この2組のアーティストの姉弟たちと霊的な交流を舞台から感じていただければと思います。

―『Camille』の方は音楽はやはり、郷古廉さんが選曲されたわけでしょうか。
中村恩恵 ええ、郷古さんからラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」をダンスと共演してみたい、というお話がありました。そしてこの曲がラヴェルの師のドビュッシーのために捧げられている、ということを知りました。ドビュッシーはカミーユ・クローデルを愛し、彼女の彫刻を賞賛していました。そして次第に私の中でラヴェルのソナタとカミーユ・クローデルがリンクしてきました。ただラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」が一夜物にするには短いので、ベルギーの作曲家ウジェーヌ・イザイの曲(「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」)はも演奏しようと話が進んでいきました。
そしてまた、カミーユの弟のポール・クローデル(駐日大使も務めたことがあるフランスの劇作家・詩人)が、姉の死後に書いた文章に触れ、大きなインスピレーションを受けました。そこで最後まで生き残った弟が死者を悼むかたちで創作を進めようと決めました。イザイのヴァイオリンソナタは、彼がバッハの曲を初めて聴いた時の衝撃から、その夜、自宅に帰って一夜のうちに書き上げた曲です。バッハの影響が大きいのだけれど、それを乗り越えようとしてい、自分のものにして自分らしい音楽にしようとしてそのために破壊的な力が働いています。それがカミーユがロダンから大きな影響を受けても、それを乗り越えようとあがいていることとリンクします。また、弟ポールの姉カミーユについての文章を読んでいると、突然バッハの話になります。実は私たちは何も知らずに、中間部にバッハの曲を入れる構成にしていました。

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「Camille」
上左から)小野絢子、首藤康之、郷古廉(ヴァイオリン)、下左から)中島瑞生、中村恩恵、伊東裕(チェロ)

―やはり、作品を作ることは追体験ということもあるわけですからね。音楽の方からの積極的なアプローチもあって、どこかで霊的な交流があったかもしれない・・・。
恩恵 音楽は抽象的です。クローデルの彫刻は、心理的なものも感情的なものも具体的なところから出発しています。けれども、彫刻化されるというところで抽象化されているのだと思います。カミーユの創った一つの彫刻もしくは、カミーユとの関係から生まれたロダンの一つの彫刻というものが、どういうところからその形に至ったのだろうか、そして、もしそのポーズから動きが始まるとしたら、どのような展開となるのか、ということを考えながら創っています。音楽が作品に寄り添って、作品の進むべき方向を示してくれるような感じがしています。音楽との関わりがもともとこの作品のために作られた音楽ではないところが却って非常に面白いのだと思います。

―カミーユの彫刻って、一般的にはすべてロダンとの関係で見られてしまうようなところがありますね。そことは全く異なったカミーユの彫刻の音楽性からのアプローチしていくというのは、とっても面白いと思います。
恩恵 カミーユの彫刻は、空間的、時間的な「間」が作品の中心テーマになっていると思います。かつてキリアンさんが武満徹と仕事して日本の文化から「間」を感じ学んだと言ってました。「無」をフレームにするために動きが有る、ということをおっしゃっていました。カミーユも弟のポールを通して日本の文化に触れているからでしょうか、私は彼女の作品の中の「間」とか虚の空間の使い方にすごく惹かれるものがあります。虚が生まれ、その虚の空間が次のモーメントで崩れていく。そういうところからカミーユ、ロダン、ポールという3体の身体のドラマがまた生まれてきます。それは一般的に言われているようなロダンとカミーユの関係から作られるものとは異なると思います。カミーユが創った形から出発して、今度は私がそこに応える形を創っていこう、と思っています。

―「余白」とか「間」ということですね。
恩恵 私は、ヨーロッパから日本に帰国してすぐに、Noismに『ワルツ』という作品を創っています。これもカミーユの彫刻「ワルツ」に触発された舞台でした。これを創っているときには一つの問題意識がありました。魂が型を産み出すのか、それとも型が魂を宿すのか、これは当時の私には大問題でした。私はそれから数年間ダンサーとして演出家として活動して、想いが先行してそこに形の生まれたものの中には魂が宿るけれども、想いが先行しなければ形が生まれても魂が宿ることはない、という強い確信が生まれました。2007年に『ワルツ』を創った時の問題意識の明確な答えに、十数年かけてやっと至りました。

―昨日、エイフマン・バレエの『ロダン〜魂を捧げた幻想』を見ましたが、彫刻を作る現場をダンスで演じました。ブロンズの塊の中にダンサーが入っていて、削っていくと中のダンサーが次第に完成品のポーズをとっていくのですが、そのシーンは人間が人間を作る作業というか、とても興味深かったです。
恩恵 ロダンのドキュメンタリーを見たことがありますが、ロダンがモデルのポーズをいろいろと工夫しながらつけていくのですが、彼のモデルへの触り方がただ触っている以上にとてもマジカルに感じられて、まるで振付の作業を行なっているかのようで、とても面白かったですね。

―ダンスの動きの方はどのようなものを作られるのですか。
恩恵 まず、音楽に対峙するということが大きいですね。もう一つカミーユ・クローデルは、自分をモデルにして作品を創っていることも多いのです。あるいはカミーユは、自分自身を創っていたのかもしれない。カミーユがもう一人の作り出された自分と向き合っている。そこから分裂的なもの、裂かれた精神状況が生まれてきたのかもしれない。カミーユとカミーユが対峙しているのを弟のポールが見つめている、という構図の作品にしようと思います。彼らが創った彫刻のポーズをダンサーが再現してみる。そこから生まれる緊張感とか、身体に強く語らせたりしながらドラマを展開していこうと思っています。

―弟のポールも登場するのですか。
恩恵 ポールの視点で、ドラマが思い返されていきます。ポールは一番若手の中島瑞生さん、カミーユが小野絢子さんと私、ロダンを首藤康之さんが踊ります。郷古廉さんは舞台上でヴァイオリンを演奏します。また、郷古さんのお声がけによりチェリストの伊東裕さんにも演奏していただきます。

―衣裳はどうなりますか。
恩恵 衣裳は『火の鳥』でもコラボレーションした串野真也さんです。今回カミーユ・クローデルをテーマに作品を創ろうと思った時に、カミーユとポールには男女が入れ替わっているというか、中性的なところがあると感じました。串野さんには、マネキンの足や腕といったパーツを男と女を入れ替えた作品があって、とても興味を惹かれていました。串野さんの作品である一対のマネキンが作品の全体の基調を定めることになります。

―『Rey Camoy』では、鴨居玲の現物の絵画が登場するそうですし、いろいろと実験があってとても面白そうな連続上演ですね。大いに期待しております。本日はどうもありがとうございました。

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上左)郷古廉(ヴァイオリン)、首藤康之、下左)シライケイタ、山口馬木也

『Rey Comoy』2019年8月9日19:30〜 10日14:00〜、18:00〜 
『Camille』2019年8月11日14:00〜、18:00〜 12日14:00〜
●詳細は http://www.sayatei.com/camoy/

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