篝火を焚いた野外能舞台で森山開次『雨ニモマケズ』を上演する、第41回小金井薪能
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坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi
東京・小金井市在住の能楽師・津村禮次郎と、リンボー先生の愛称で知られる作家・林望の2人が発案し、1979年より毎年行われてきた小金井薪能。第40回の節目となった昨年は、小尻健太振付・酒井はなら出演による創作舞「THE KUMANO-2018」が話題となった。
今年は、森山開次振付による新作創作舞『雨ニモマケズ』を上演。舞人として、左足を失ったダンサーとしてリオ・パラリンピック閉会式などに出演した大前光市らが出演する。
6月、セルリアンタワー能楽堂にて記者発表が行われた。
小金井薪能は、毎年夏の終わり、広大な都立小金井公園内の特設舞台で行われる。虫の音の聞こえ始める夕暮れ時から、炎と闇がつくりだす幽玄な空間の中、一流の演者による能・狂言が楽しめるとあって、遠方から訪れる人も多い。近年は、新作創作舞を楽しみに訪れるバレエ・ダンスファンも増えているという。
今回の公演は8月25日(日)。能「橋弁慶」、狂言「月見座頭」、創作舞「雨ニモマケズ」の三本立てだ。
津村禮次郎
森山開次
能『橋弁慶』は、牛若丸と弁慶の出会いを童話的に描いた、子どもが見ても楽しい作品。大長刀をふるう弁慶と、小太刀で立ち向かう牛若丸との立ち回りが見所だ。弁慶役を津村禮次郎が、牛若丸役を津村の8歳になる孫、青山昴生が務める。
狂言『月見座頭』で、座頭(盲目の琵琶法師)を演じるのは人間国宝の山本東次郎。人間の二面性や孤独を鋭く描いた狂言で、山本家では非常に大切に演じられてきた演目だという。
創作舞『雨ニモマケズ』について、津村禮次郎は「2011年の震災以来、宮澤賢治作品をテーマに何かできないかというふつふつとした思いがあり、ようやく今回実を結ぶことになりました」と語る。舞人は森山開次、大前光市、津村禮次郎。振付を手がける森山は「賢治風に言えば、宇宙に散らばる、色とりどりに輝く石を拾うように、自分たちの色を体で見つけていくような創作ができたらいいなと思っています」と語った。『春と修羅』『永訣の朝』『銀河鉄道の夜』など賢治の有名作品をたどりつつ、『雨ニモマケズ』に集約していくような作品になるという。ちなみに、今回のポスターのメインカラーは『銀河鉄道の夜』から連想される深いブルー。中央に立つ真っ赤な面の人物は、東北の民俗芸能「鬼剣舞」の舞人だという。「賢治の作品と鬼剣舞には、深い関わりがあります。この赤もひとつのポイント」と森山。
大前光市は次のように語った。「能舞台というところには、幽霊だとか鬼だとか、人じゃないものがよく出てきますよね。僕も膝から先が"人じゃない"から、たぶん人じゃないものをやるんだろうと(笑)。能舞台は異界との境目のない、究極のバリアフリーな空間。そこに展開される東北の宮澤賢治の作品の中で、各々のハンデを背負った者たちが出会う。何をやろうとしているのか、しだいにわかってきました。森山さんはずっと尊敬しているダンサーで、その世界観を表現できることはすごく光栄です。自分を賭けて臨みたい」。
音楽は仙台出身の作曲家・渋谷牧人のオリジナル曲。チェロ奏者の多井智紀、全盲の筝奏者・澤村祐司らが参加し、篠笛と能管、太鼓が加わって和と洋を織り交ぜた楽曲となる。記者発表の冒頭、澤村は自ら作曲した「たれかおもはぬ」の生演奏を披露し、強く艶のある歌声と哀調を帯びた筝の響きが会場を満たした。澤村は「自然の中で、自然の音を感じながら弾く、その幸せをかみしめつつ演奏させていただきたいと思います」と語った。
「大前さん、澤村さんとは10年以上のおつきあいですが、2人とも独特な世界観を持つ、優れた表現者です。私も77歳という年齢のハンデがあるわけですが、それぞれのハンデを、甘えが許されない能舞台という厳しい場でぶつけあってみようじゃないかと。『橋弁慶』『月見座頭』『雨ニモマケズ』という三つの作品が、パラリンピックの精神につながる、ひとつの薪能になればという思いです」と津村。
特設舞台は、昭和初期の旧光華殿を背景とし、草月流の倉田康治による造形でかざられる。初秋の気配が漂う小金井公園で、様々な境界が溶け合い、非日常に遊ぶ、薪能ならではの体験ができそうだ。
第41回小金井薪能
2019年8月25日(日) 開場 17:00 開演 17:30
都立小金井公園 江戸東京たてもの園前
(雨天の場合 中央大学附属高等学校講堂)
http://koganeitakiginou.sakura.ne.jp/
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