東京バレエ団・ウィーン国立歌劇場公演『ザ・カブキ』開幕! 欧州ツアー帰国後の展開にも注目

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

東京バレエ団は現在、約1か月間にわたる大規模な欧州ツアー中だ。6月19日に日本を出発し、ポーランドのウッチ劇場、ローマのカラカラ野外劇場での公演を成功裡に終え、7月2日より、世界最高峰のオペラハウスのひとつであるウィーン国立歌劇場で3回公演を開催した。ウィーン国立歌劇場公演初日の第一報とともに、ツアーに先立つ6月4日、東京・帝国ホテルで行われた記者会見の模様もあわせてお伝えしよう。

東京バレエ団のウィーン国立歌劇場公演は、1986年、1989年に続き3回目となる。2019年が「日本・オーストリア友好150周年」に当たることから出演依頼があり、今回の公演が実現した。オペラの殿堂であるウィーン国立歌劇場が外来のバレエ団を招聘して公演を行うことは珍しく、今世紀に入ってから招聘されたのは東京バレエ団のみだという。同歌劇場での演目はモーリス・ベジャールの『ザ・カブキ』。
チケットは、全3回公演がソールドアウト。終幕後には熱狂的なスタンディングオーベーションが巻き起こった。歌劇場の広報スタッフも「ここまでカーテンコールが続くのは珍しいこと。大成功です」と語ったという。
柄本弾は定評ある由良之助を力強く踊りきり、ひときわ大きな喝采を浴びた。顔世御前を演じた上野水香は「この歴史ある美しい劇場で踊れるのは本当に幸せなこと」と喜びをかみしめた。斎藤友佳理芸術監督は、「30年前に『ラ・シルフィード』の主演として立ったこの劇場に、芸術監督として戻ってこられたことを感慨深く思います。今回のツアーから、ダンサーたちが少しでも多くのことを学び、成長してくれることを願っています」と語った。尚、本公演はオーストリア公共放送(ORF)がニュース番組で2度にわたって紹介。また、NHKのニュース番組「おはよう日本」にも取り上げられた。
東京バレエ団は7月7日にジェノヴァのネルヴィ国際フェスティバルに参加、11日からミラノ・スカラ座で4公演を行った後、16日に帰国。ツアーが終わった時点で、東京バレエ団の海外公演は32か国155都市、通算775回となる。

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Wiener Staatsoper / Ashley Taylor

このツアーは、東京バレエ団創立55周年記念事業の一環。ツアー出発に先立つ記者会見で、NBS 日本舞台芸術振興会の髙橋典夫専務理事は、今回の55周年記念事業のテーマについて「東京バレエ団のブランディングです」と言い切った。
「東京バレエ団の母体である東京バレエ学校は、来年で開校60周年を迎えます。今年から来年を、竹の節のような成長の節目にしたい。東京バレエ団は大きく変われるし、変わらなければならない。今がそのタイミングだと思っています。55周年記念事業をすべて終えた段階で、東京バレエ団が芸術的にも組織としても成長し、国際的な価値を高めていることが望みです」(髙橋理事)。
ツアー帰国後、8月に行われる「めぐろバレエ祭り」のサマーバレエコンサートでは、今年生誕140周年を迎えるワガノワの代表作『ダイアナとアクティオン』をコール・ド・バレエ付きで上演。「日本では、ワガノワについてほとんど知られていません。若い人たちに、バレエの歴史を振り返ってほしいという気持ちが年を重ねるごとに増してきています」と斎藤監督は語る。
さらに10月には勅使川原三郎の新作初演、12月には『くるみ割り人形』の新制作が控えている。
「これまで東京バレエ団は日本人の振付家の作品を取り上げたことがありませんでした。国際的に高い評価を得ている勅使川原さんの作品を、海外戦略のひとつの武器としたい」と髙橋理事は明言。斎藤監督はこう明かした。
「勅使川原さんには、東京バレエ団にしかできない、真珠のような作品をつくってください、海外にもっていきやすく、日本でも受け入れられ、装置はあまり大掛かりでなく、話題性があり、大成功する作品をつくってくださいとプレッシャーをかけてしまいました(笑)。作品の完成を楽しみにしています」。

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© Tomohiro Ichimura

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© Tomohiro Ichimura

また、『くるみ割り人形』はバレエ学校開校2年目に初演した、東京バレエ団の原点ともいえる作品。振付・演出は従来の東京バレエ団版『くるみ割り人形』を柱に改訂を行い、衣裳、装置はすべて刷新するという。
「高橋さんが新制作を決定したのは昨年12月。55周年のこの機会に、何が何でもやらなければ、というのです。時間との闘いではありますが、夫のニコライ(・フョードロフ)がロシアで走り回ってくれまして、装置・衣裳をマリインスキー劇場の美術家に依頼することができました。200着以上の衣裳は、モスクワとペテルブルクの計5か所の工房で、同時進行でつくっています」と斎藤監督は明かす。
さらに、2020年3月にはラコット版『ラ・シルフィード』を上演する。「これはダンサーとしても指導者としても、私の原点となった作品です。原点に戻って55周年を締めくくりたい」と斎藤監督。
歴史を踏まえつつ、攻めの姿勢を崩さずに、果敢なチャレンジを続ける東京バレエ団。ツアーから帰国後の展開にも、ますます注目が集まる。
https://thetokyoballet.com/

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© Alexey Semenov

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