クリストファー・ウィールドンの機知に富んだ動きと音楽を共振させる才能に感心させられた『真夏の夜の夢』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

NBAバレエ団

『リトルマーメイド』リンテーラー・コルベット:振付、『真夏の夜の夢』クリストファー・ウィールドン:振付

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『リトルマーメイド』竹田仁美 撮影:吉川幸次郎

NBAバレエ団がリンテーラー・コルベット振付、マイケル・モーリッツ音楽『リトルマーメイド』と、クリストファー・ウィールドン振付、フェリックス・メンデルスゾーン音楽『真夏の夜の夢』を2日間に渡って同日公演した。2作ともに公演の形を変えて再演されている舞台で、エンターテインメントとしても優れたなかなか楽しいレパートリーである。
『リトルマーメイド』は、周知のようにミュージカル風の音楽に、バレエの表現を巧みに組み合わせたもの。マーメイド役の竹田仁美が全編を通して良く踊った。歌声と音楽に乗せて、全身を使って踊り、海の王の末娘の健気さを率直に表した。

もう1作の『真夏の夜の夢』は、クリストファー・ウィールドンの才気煥発の振付が際立った。ウィールドンの振付は、とりわけ妖精を表す表現が実に巧み。アームスを大きく波打つように動かしたり、手首を細かく震わせるような動きが、<妖精>という不可思議な存在の特徴を的確に表している。また、妖精の王オベロン(三船元雄)が魔法をかける時も、軽く頭に触れるだけで十分にその表現が伝わってきた。これはやはり、人間の心の中に生起する妖精の世界を振付家が明快なイメージで把握しているから、観客に理解しやすい表現が作れる、ということの証左だろう。そして見事だったのは、一度だけ使ったアリアが実に効果的だったこと。

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『リトルマーメイド』 撮影:吉川幸次郎(すべて)

ウィールドンは『不思議の国のアリス』の振付などでは、さらに複雑な動きを実に巧みに音楽と連動させているが、ここでもそうした機知に富んだ動きと音楽を共振させる優れた才能は遺憾なく発揮されていた。
ダンサーたちは、オベロンもパック(前沢零)もティターニア(佐藤圭)も、彼らのキャラクターとともにそれぞれの関係性も良く表現していた。そしてティターニアは、ボトム(古道貴大)との魔法に操られたラヴシーンにも、ほのかな色香を漂わせていて感心した。ハーミアの大島淑江、ライサンダーの安西健塁、へレナの須谷まきこ 、デミトリウスの新井悠太も頑張った。ウィールドンらしいスピード感溢れる動きによる、かなりの長丁場を一気に踊りきった。その他の出演者たちもテンポを合わせて動き、舞台を盛り上げており、ダンサーたちのレベルも次第にあがってきていると思う。

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新井悠汰・宮内浩之

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猪嶋沙織・竹内碧・清水勇志レイ・森田維央

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柳澤綾乃・宮内浩之

開幕するとすぐに、物語の発端をピンスポットの中で端的に示し、二幕の始まりには、同様にピンスポットの中にそれまでの物語を復習して見せる、という手法はなかなか気が利いていて、その表現のための予算はほとんど必要ない優れたもの。舞台芸術の国、英国のショーの伝統に根づく練達の技を感じさせるものがあった。
(2019年5月25日 新国立中劇場)

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『真夏の夜の夢』撮影:吉川幸次郎(すべて)

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