牧阿佐美バレヱ団『リーズの結婚』リハーサルレポート〜うつくしく織り上げられる極上コメディ
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坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi
のどかな田園の恋愛騒動を、ユーモアたっぷりに描いたバレエ『リーズの結婚』(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)。世界的にポピュラーなアシュトン版は、日本では牧阿佐美バレヱ団だけがレパートリーとし、1991年の初演以来、同団で大切に上演されてきた作品だ。
振付指導にウィーン国立バレエ団バレエマスターのジャン=クリストフ・ルサージュを迎えてのリハーサル見学会が、5月15日、東京・中野のスタジオで行われた。
まずは1幕「リボンのパ・ド・ドゥ」から。農場主の娘・リーズと農夫のコーラスは恋人どうし。しかし、リーズの母シモーヌは、娘をお金持ちの息子アランと結婚させたがっている。リボンは、母の目を盗んでリーズとコーラスが会うときの目印ともなり、二人の愛を表現するモチーフとして使われる。「リボンのパ・ド・ドゥ」はその典型的なシーンだ。
ピアノが、子馬が跳ねているようなチャーミングな音楽を奏で始める。「ステップ! ポーズ! ステップ! ポーズ!」とルサージュの声が飛び、リボンの端と端を持ったリーズ(青山季可)とコーラス(清瀧千晴)が軽やかなステップを繰り出す。リボンをくるくると体に巻き付け、引き寄せ合ってはキスを交わす二人。続いて、リボンを手綱に見立てての「お馬さんごっこ」。リボンをくわえて飛び跳ね、馬になりきる清瀧、トゥで移動しながら澄まし顔で馬を駆る青山がなんともキュートだ。
やがて二人は見つめあい、輪にしたリボンを体に巻き付けあう。リボンをはずすと、ちょうどあやとりのようにきれいに組まれた模様ができあがり、見学者から拍手が起こった。そしてピアノのやさしい旋律とともに、清瀧が地面に置いたリボンを揺らして小さな波をつくり、青山がその上をトゥの小刻みなステップで渡ってゆく。
「リボンは小川なんです。ルサージュ先生に『川にタッチするように』と言われて、あーなるほど!ってイメージがわきました」と、今回別キャストでリーズを踊る中川郁は、リハーサル後に語ってくれた。
「ルサージュ先生のご指導で、振り一つひとつの意味がよりわかりやすくなりました。たとえば、リーズがリボンの端をコーラスの胸に当てて気持ちを伝えるシーンがあるんですけど、彼はその位置を左側に直す。その動きには、『僕のハートはこっちだよ』っていう意味があることを今回初めて知りました。すべてが細かくできていて、おもしろいんです」と青山も語った。
リハーサル二つ目のシーンは、お金持ちのブドウ園主の息子アラン(細野生)のソロ。アランが、リーズの前でいいところを見せようとぎこちなく、一生懸命踊るシーンだ。
どったん、ばったんと妙なところにアクセントのある音楽。体を斜めにしたまま横っ飛びに跳んだり、振り下ろした足に自分でつまずいて、前のめりに倒れ込んだり......。見た目はコミカルだが、運動量がすごい。「失敗してるように見せなきゃいけないけど、下手をするとただのバタバタした動きになってしまう。考えなきゃいけないことがいっぱいありますが、うまくはまるとすごく楽しいんですよ」と細野。「アランはみんなに『いじられる』役ですけれど、痛々しくならないように。純粋で一生懸命、でもその一生懸命さがちょっとズレてるから面白い。物語のキーとなる役のひとつなので、お客様の印象に残るアランを演じたいですね」。
三つ目のシーンは第二幕のパ・ド・ドゥ。リーズ(中川郁)とコーラス(菊地研)、そして8人のリーズの友人が、8本のリボンを使って踊る見せ場である。
どこか懐かしさを感じさせる音楽とともに、リボンの端を持った8人がメリーゴーランドのように旋回してゆく。リボンの中心でバランスをとり、ゆっくりと回る中川、リボンの下を縫うように走る菊地。振り向く、目線を合わせる、そっとキスを交わす----二人の動きとともに、リボンのフォーメーションも変わってゆく。リボンでひし形の窓をつくってそこからのぞいたり、キューピッドの弓のような三角形をつくったり......見た目に美しいだけでなく、二人の恋を応援する友人たちの思いも感じられて、なんともあたたかな気持ちにさせてくれるシーンだ。
とはいえ、小道具も決まり事も多いだけにハプニングも多いのだという。「障害物競走の連続みたい!」って皆でよく言ってます。ハードルを跳び越えたら次はパン食い競争!みたいな(笑)。それだけに全部『クリア』できると本当に素敵なんです」(中川)。
今回のリハーサルには登場しなかったが、タップダンスのような木靴の踊りを始め、見せ場も多いリーズの母・シモーヌ役はこの作品になくてはならない存在である。リハーサル後の懇親会で、シモーヌ役を務めて17年目になる保坂アントン慶に話を聞くことができた。
「『リーズの結婚』は、バレエ作品の中でも圧倒的にコメディですよね。でも、ただドタバタと笑いを取るだけではなくて、ちょっとほろりとさせるシーンもある。シモーヌは口うるさくてお調子者、でも娘への愛情は最初から最後まで一貫しています。シモーヌとしてこの作品の世界観をしっかり伝えたい。この役はなかなか奥深くて、やってもやってもまだ先があるんですよ」。
シモーヌだけでなく、アラン、アランの父トーマス、見事なダンスを披露する鶏たちなど、「すべてのキャラが立っている」ことも魅力だという。「本当に楽しいバレエなので、大人の方にも、小さなお子さんにも観ていただきたいですね。ジャンプや回転がきれい!というだけでなく、バレエにはこんな表現もできるんだって感じていただけたら」。
ルサージュの指導のもと、開幕に向けて急ピッチで進むリハーサル。リーズとコーラスの恋をめぐるあたたかくやさしい世界が、まもなく舞台上に現れようとしている。
牧阿佐美バレヱ団 『リーズの結婚 〜ラ・フィーユ・マル・ガルデ〜』
2019年6月8日(土) 15:00
2019年6月9日(日) 14:30
文京シビックホール 大ホール
http://www.ambt.jp/
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