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3つの日本のバレエ団と2組のデュオが個性を際立たせて競演した、NHKバレエの饗宴

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

NHKバレエの饗宴2019

東京バレエ団『セレナーデ』ジョージ・バランシン:振付、カリーナ・ゴンザレス&吉山シャール ルイ・アンドレ『ロメオとジュリエット』バルコニーのパ・ド・ドゥ スタントン・ウェルチ:振付、C/Ompany『bolero/忘れろ』大植真太郎:構成、東京シティ・バレエ団『Octet』ウヴェ・ショルツ:振付・舞台美術・衣装・照明デザイン、牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』第3幕 アザーリ・M・プリセツキー、ワレンティーナ・サーヴィナ:演出・振付(プティパ、ゴルスキー版に基づく)

最近は日本のバレエ団が一堂に会して競演する公演は、非常に少なくなってしまった。特定のバレエ団体が主催する公演以外では、この「NHKバレエの饗宴」ぐらいではないだろうか。その意味で広く日本のバレエを鑑賞するために、この公演は非常に貴重な機会を提供しているということができる。今回は、東京バレエ団、カリーナ・ゴンザレス&吉山シャール ルイ・アンドレ、C/Ompany、東京シティ・バレエ団、牧阿佐美バレヱ団という5つのバレエ団とグループが踊った。管弦楽は井田勝大指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。

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東京バレエ団『セレナーデ』撮影/瀬戸秀美(すべて)

開幕は斎藤友佳理が芸術監督を務める東京バレエ団による、バランシン振付・チャイコフスキー音楽の『セレナーデ』。上野水香、川島麻実子、中川深雪、秋元康臣、ブラウリオ・アルバレスほかが踊った。チャイコフスキーの美しい音楽を、淡いブルーのロマンチック・チュチュを着けた女性ダンサーたちと男性ダンサーが踊る。速いテンポのリズムと、時折、独特を動きを加えてアクセントを付け、主旋律の表現が創られ、曲の構造が美しく表されていく。若々しい出会いの喜びから、長い髪をたゆたうように靡かせて、少し沈んた深い感情を表現するまでを、4つの楽章に寄り添いながら巧みな動きで表している。といってもこれは特定の時系列で生起する物語を示しているのではなく、名もない物語の断片を音楽の流れとともに組み合わせて見せた、と言った風なもの。抽象的バレエとよく言われるが美的に抽象化したというよりも、観客に様々な物語を空想させ楽しませるために編まれたと思われる。その意味ではむしろ象徴的手法と言えるかもしれない。パの組み合わせの中に織り込まれたバランシンによる動きの軽いユーモアを含んだニュアンスが、ダンスの中に常に息づいているので、いつ見ても新鮮で魅力的に感じられるのである。とても良くまとまった一体感のある素敵な舞台だった。

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『ロメオとジュリエット』

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『ロメオとジュリエット』

続いてカリーナ・ゴンサレスと吉山シャール ルイ・アンドレのヒューストン・バレエ団の二人が、スタントン・ウェルチ振付・プロコフィエフ音楽の『ロメオとジュリエット』バルコニーのパ・ド・ドゥを踊った。ウェルチはオーストラリア・バレエ団の元プリンシパルで、現在、ヒューストン・バレエ団の芸術監督を務める。ゴンザレスはヴェネズエラ出身のヒューストン・バレエ団プリンシパル。吉山シャールは、ローザンヌ国際バレエコンクールやYAGPで受賞歴を持つ同じくプリンシパル。ウェルチの振付は、登場人物の心の細やかな情感を捉えている。特別に複雑なテクニックを駆使するのわけではなく、動きのラインに若々しさを表す工夫が凝らされている。舞台前中央にロメオのマントを敷き、二人で座って初めてのキスを交わす、このシーンのクライマックスまで、青春の喜びが舞台に響いているようだった。ゴンサレスは初々しさを素直に表して気持ちよく、吉山シャールも伸びやかな踊りで応えた。

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カリーナ・ゴンサレス、吉山シャール ルイ・アンドレ『ロメオとジュリエット』撮影/瀬戸秀美(すべて)

休憩の後、大植真太郎と辻本知彦の『bolero/忘れろ』。構成は大植真太郎、音楽はラヴェル。これは、私は見ていないのだが、同名のタイトルの3部作の第1部をリクリエーションしたものだという。
幕開き前から大植が一人で動いている。やがて辻本も加わって、照明が入り、あのよく知られた「ボレロ」が鳴り渡り始める。常に二人は絡み、観客にも直接話しかけたりして、じゃれあっているようでさえあるが、常に小さな赤い×印を起点とした動きを創っている。それは舞台上の目印にとなるもののようでもあるが、それにしても赤いテープで作られた×印に二人ともしきりに拘っている。
やがて、「ボレロ」の曲が最後のクライマックスに至ると、大植がジャンプして、「ジョルジュ・ドン!」と叫びつつ着地した。その辺までは、おもしろく楽しくみていたのだが、突然、スタッフが舞台にスーっと現れ、ごく自然に舞台のフロアに大きなクロス×を描いた。これは、あの『バレエ・フォー・ライフ』で映された映像の中で、〈神の道化〉ジョルジュ・ドンが長い布で示し、ラストシーンでは舞台に光で描かれた大きなクロスを示唆しているのではないか、と思った。そしてそれは、ニジンスキーがサンモリッツのホテルで行った最後のパフォーマンスで描いた、魂の救済を激しく希求するクロスでもある。これは20世紀のダンスに通底している創作の原点と捉えていいのかもしれない。だとすると「21世紀のダンスよ、ボレロを忘れろ! 忘れたところから出発せよ」 そういうメッセージが、このダンスには込められていることになる。私にはそう感じられたのだが。

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大植真太郎、辻本知彦『bolero/忘れろ』撮影/瀬戸秀美(すべて)

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続いてウヴェ・ショルツ振付・メンデルスゾーン音楽の『Octet』。安達悦子が芸術監督を務める東京シティ・バレエ団が踊った。ダンサーはキム・セジョン、清水愛恵、石黒善大、岡博美、沖田貴士、中弥智博ほか。第1楽章から第4楽章まで踊られた。作曲者の指定によるテンポに沿ってスピードの変化があり、第1と第4楽章はほぼ全員で踊り、第2楽章はカップル、第3楽章は男性ダンサーのみという構成であった。ただ冒頭に上演された『セレナーデ』と比べてみても解るように、バランシン作品とは異なり、オフバランスや独特の動きはなく、ほぼ型通りの動きを構成し曲の流れと合わせて連ねたもの。もちろん、音楽自体が違うのであるから一括して語られるべきではないが、バランシンとは明らかに異なった振付である。公演パンフレットには「バランシンの正統的後継者」と書かれていたが、そのように言い切るのには多くの問題がありそうだ。バランシンの動きを徹底的に分析解体して再構築した、と言われるフォーサイスの実績に触れずに「正統的後継者」を語ることはできないだろう。また、ショルツは『春の祭典』の振付にみられるように、激しい個人的な苦悩を激白するダンスも創っていることも忘れてはならない。ダンサーたちはショルツ作品の動きをよく表し、安定的にしっかりと踊っていた。

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東京シティ・バレエ団『Octet』撮影/瀬戸秀美(すべて)

再び休憩の後、牧阿佐美バレヱ団の『ドン・キホーテ』第3幕が上演された。アザーリ・M・プリセツキー、ワレンティーナ・サーヴィナ演出・振付(プティパ、ゴルスキー版に基づく)、音楽はミンクスである。キトリは阿部裕恵、バジルは清瀧千晴、キトリの友人に日高有梨、中川郁、街の女たちには織山万梨子、高橋万由梨、光永百花、今村のぞみ、キューピッドには米澤真弓、というキャストだった。このヴァージョンは、キトリとバジルの恋の話とドン・キホーテの心象風景とをシーンごとに分けて描き、第3幕で完結するものである。阿部は2017年にキトリ役で全幕デビューを果たしているが、一段と安定感のある落ち着いた踊りだった。清瀧の踊りも鮮やかで観客を楽しませるものだった。牧阿佐美バレヱ団の『ドン・キホーテ』は、全体に良く整えられているので、特にこの第3幕では、祝祭ムードが高まり観客の気分も盛り上がった。

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牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』撮影/瀬戸秀美(すべて)

「フィナーレ」では出演者全員が舞台に登場した。異なるカンパニーの日本のバレエダンサーたちがこれほど多勢同じ板の上に立つことは珍しくなった。一つのカンパニーの全幕もののカーテン・コールも良いものだが、それとはまた異なった素晴らしい雰囲気の公演だった。
(2019年4月6日 NHKホール)

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