東京バレエ団のブルメイステル版『白鳥の湖』とバレエと親しむ〈上野の森バレエホリデイ〉の様々なイベントが大いに賑わった

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

〈上野の森バレエホリデイ2019〉

東京バレエ団『白鳥の湖』ウラジーミル・ブルメイステル:改訂振付

幅広い層にバレエの魅力を知ってもらおうと、ゴールデンウィークの期間中、東京文化会館をメイン会場にした〈上野の森バレエホリデイ2019〉が、4月27日から29日まで開かれた。第3回を迎えた今年は、東京バレエ団によるバレエの代名詞ともいえる『白鳥の湖』の公演をはじめ、第3幕のみを解説付きで上演するファミリー向け公演や、バレエの鑑賞を深めるバレエ・アカデミー、参加型のバレエ・レッスンやバレエアイテムの手作り教室などの盛り沢山な屋内での催しに加えて、屋外ステージでのダンサーたちによる振付作品の発表や、国立西洋美術館「地獄の門」前でのミニ・コンサートなど、多彩なイベントが繰り広げられた。さらに今回は、初めて国立博物館に野外ステージを設け、ベジャールがクイーンの音楽を用いて振付けた『バレエ・フォー・ライフ』を上映するという話題も加わった。モーリス・ベジャール・バレエ団の公演をライヴ収録したものという。
予約不要で無料の催しも多く、また10連休の始めということもあり、「バレエと出会おう、バレエで遊ぼう」という大人や子どもたちで大変な賑わいだった。多くの人にバレエに触れる機会を提供したのは間違いない。この催し、主催は文化庁とバレエホリデイの実行委員会で、企画・制作を担ったのは東京バレエ団を運営する日本舞台芸術振興会だった。

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© Kiyonori Hasegawa

〈上野の森バレエホリデイ2019〉のメインといえるのは『白鳥の湖』の公演。東京バレエ団が上演したのは、2016年に導入したドラマティックな演出で評価の高いブルメイステル版(1953年)である。2018年の再演に続き、今回が3度目の上演で、主役は上野水香と柄本弾、川島麻実子と秋元康臣、沖香菜子と宮川新大のトリプルキャストが組まれていた。3組のうち、まだ観ていない川島&秋元ペアが踊る2日目を観た。ブルメイステル版では、音楽がチャイコフスキーの構想に添った曲順に戻されており、オデットがロットバルトにより白鳥に変えられるプロローグを付けて物語が分かりやすく提示されているが、最も特徴的なのは第3幕の舞踏会での各国の踊りをロットバルトの手下が踊る形にしたことで、オディールと一緒になって王子を欺くという演出には凄みさえ感じられる。ついでだが、第1幕で王妃や貴族の女性たちが村娘らに顔を背ける場面があるが、『白鳥の湖』でこれほど露骨に身分制度を描写した演出はあまりないだろう。

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© Kiyonori Hasegawa

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© Shoko Matsuhashi

秋元は、立ち姿にも王子らしい品の良さを滲ませ、気さくに友人たちと杯を交わし、踊りもしたが、王妃とのやりとりには、鬱屈した心の内や神経質な一面をのぞかせもした。何といっても脚さばきが美しく、第1幕では弓を手に伸びやかにソロを踊り、第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、しなやかなジャンプや回転技をきれいにこなした。対する川島は、第2幕では細い手脚を繊細に操り、王子とのやりとりでは豊かに情感を紡ぎ、しっとりとオデットを演じた。オディールとして登場した第3幕では、グラン・フェッテでダブルを入れるなど健闘したが、王子を威圧し惑わす魔性のパワーは今一つだった。第4幕で、王子を湖に引き込もうとロットバルトが起こす嵐は大きく波打つ布でダイナミックに表わされたが、うねる布の波間で王子が必死にあらがう様を秋元が驚くほどリアルに演じ、オデットが彼の元へ飛び込むと同時にロットバルトが滅び、王子が娘の姿に戻ったオデットを抱きしめる幕切れのシーンを印象づけた。

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© Kiyonori Hasegawa

全体にこなれた舞台運びで、それぞれの特色ある踊りが楽しめた。道化の井福俊太郎は勢いのあるジャンプや見事な回転を見せ、第1幕のパ・ド・カトルを踊った2組の男女は粒揃いで、第3幕の4人の道化たちも達者な技を見せた。各国の踊りでは、スペインの舞踊手のマントにオディールを見え隠れさせ、女性ソリストとオディールを一瞬で入れ替えるなど、踊り手たちが一体となって王子を翻弄するスリリングな展開には息を吞んだ。ダンサーでは、ナポリのソリスト、秋山瑛の王子に挑むような演技が光っていた。ロットバルトのブラウリオ・アルバレスは、舞踏会以外にあまり見せ場がないのが惜しまれる。白鳥たちの群舞は美しくそろい、幻想的な光景を現前させ、"白いバレエ"の魅力を伝えていた。ブルメイステル版の『白鳥の湖』は上演を重ねることで、隅々に磨きがかかり、完成度を高めているようだ。

この公演に先立ち、小ホールで行われたバレエ・アカデミーの〈バレエ劇「プティパの時代」〉ものぞいてみた。古典バレエの父、マリウス・プティパの創作の秘密をひもとくバレエ劇シリーズの『白鳥の湖』編である。靴職人役の塾一久とお針子役の入江真理子が案内役になり、『白鳥の湖』の創作にまつわる話に伝説的なダンサーや音楽家らのエピソードを織り交ぜ、バレエ発展の歴史を芝居仕立てで面白く、分かりやすく紹介した。アカデミーの後に控えたバレエの公演への興味を深めるものだった。この日はバレエの公演の後、同じ小ホールで『バレエ・フォー・ライフ』が追加上映された。野外シネマとして2回行うはずが、雨で1回中止になったためという。折しも、クイーンの伝説的ヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が日本でも大ヒットした後で、さらに来年のモーリス・ベジャール・バレエ団の来演を控えてもいるからの措置だろう。ライヴ収録のため粗い部分もあったが、クローズアップには迫力があり、細かい表情も伝わってきたし、生のステージを観るのとは異なり、全体をより客観的に見通すことができたのは収穫だった。
(2019年4月28日 東京文化会館)

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