アリーナ・コジョカルが見事に踊った独自の解釈による久保綋一版『白鳥の湖』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

プティパ、イワノフ、ガリーナ・サムソヴァ振付の『白鳥の湖』を、久保綋一が改訂振付、演出したヴァージョンが、アリーナ・コジョカル、平田桃子、エルマン・コルネホをゲストに迎え、NBAバレエ団により上演された。プティパ、イワノフ、サムソヴァ振付の『白鳥の湖』は、2006年3月にNBAバレエ団により日本初演されており、私も観ている。オデット/オディールはモスクワ音楽劇場バレエ団のナタリア・レドフスカヤ、王子役はセルゲイ・サボチェンコだった。
サムソヴァ版は、王子の友人のベンノが物語の進行を助ける役割で、道化は登場しない。また、第3幕では3人の花嫁候補がそれぞれのヴァリエーションを踊る、などの特徴があった。久保版はそれらの特徴を生かしつつ、物語に独自の解釈を加えて深めている。

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竹田仁美・勅使河原綾乃・新井悠汰 撮影:吉川幸次郎

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浅井杏里・猪嶋沙織・菊地結子・柳澤綾乃 撮影:吉川幸次郎

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宮内浩之 撮影:吉川幸次郎

プロローグでは、ロットバルト(宮内浩之)とオデット(アリーナ・コジョカル)が許嫁だったのだが、ジークフリード王子(エルマン・コルネホ)とオデットが相愛になってしまい、怒ったロットバルトはジークフリードを刺し殺し、怒りのあまりオデットをも絞め殺してしまう。ロットバルトは大罪を犯し、あまりの罪深さのために激しく自責し、怪鳥に姿を変えてしまう、という設定が描かれる。
時が流れ、ロットバルトは、オデットが生まれ変わったのを知る。ロットバルトは今度こそオデットと一緒になろうと願うが、彼女はまたも生まれ変わったジークフリードと出会い愛し合うことになる。そして、ジークフリードは花嫁選びのパーティーを開くのだが、ロットバルトはオディールをオデットそっくりにしたて、二人の中を切り裂こうと試みる。それとは知らぬジークフリードは花嫁選びの場に現れたオディールをオデットと見間違えて喜び、天に愛を誓う・・・。
そして結局、オデットが自殺し、ジークフリードが後を追う。ロットバルトは人間に戻って死ぬ、という結末を迎える。
少し強引な物語展開という気もしないではないが、「愛の悲劇」はしっかりと完結しており、なかなかおもしろかった。
それはやはり、アリーナ・コジョカルの安定した演舞が大きく貢献しているからであろう。コジョカルは、虚飾のないダンサー、というか無意味な装飾的動きがほとんどない。指先に至るまで身体のすべての動きに、豊かな情感がこめられている。表現するための神経が全身の隅々にまで行き渡っており、緩んだりする無意識なパーツがない。そのため、観客はほとんど気付かないうちに物語に深く感情移入している。キエフ・バレエから英国ロイヤル・バレエに移籍し身に付けた力である。そういえば、サムソヴァもキエフ・バレエ出身だった。
ジークフリードのコルネホも頑張ってはいたが、第二幕のアダージョもほとんどコジョカル一人で踊る振付であり、あまり見せ場に恵まれなかった。
第三幕は、既成の振付によく見られるパ・ド・カトルはなく、三人の花嫁候補がそれぞれゴール・ド・バレエとともにヴァリエーションを踊った。デヴェルテスマンは、男性ダンサーだけで構成した勇壮なスペインの踊りをドラマティックに使い、マズルカ、ポルカ、ルースカヤと独自の舞踊を見せ、華やかなグラン・パ・ド・ドゥへと繋げた。そしてさらに大きくドラマは展開して、主役がすべて滅亡していく大きな悲劇が顕現して幕を降ろした。

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アリーナ・コジョカル、エルマン・コルネホ 撮影:吉川幸次郎

古典名作バレエは、かつての偉大な振付家が完成度の高い振付を作っている。しかし、それを賛美ばかりしていたのでは、同じ演出・振付を繰り返すだけになってしまい、作品の生命力が尽きてしまうのではないか、と危惧してしまうこともある。そういう意味から久保版のような大胆に、舞踊家自身の想いを反映した作品を創っていくことは、バレエの創造の力を高める頼もしい試みだと感じた。
(2019年3月3日 東京文化会館大ホール)

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大森康正・河野崇仁・清水勇志レイ・玉村総一郎・三船元維 撮影:吉川幸次郎

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アリーナ・コジョカル、エルマン・コルネホ 撮影:吉川幸次郎

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