高田茜がキトリを踊った『ドン・キホーテ』が上映される、英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマシーズン 2018/19

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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© ROH 2019. Photo by Andrei Upenski

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19では、高田茜がキトリを踊った『ドン・キホーテ』が5月17日より、TOHOシネマズ他の全国の映画館で上映される。

高田茜は2015年にワジム・ムンタギロフのパジルと、アコスタ版『ドン・キホーテ』全幕をコヴェントガーデンで踊っているが、今回はアレキサンダー・キャンベルのバジルと踊った。その映像が英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン で公開される。2013年に初演されたアコスタ版『ドン・キホーテ』は、マリウス・プティパのヴァージョンに則っているが、スペイン色を最大限にうちだして、明るく楽しい踊りがめいっぱい踊られるヴァージョンとなっている。

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Don Quixote. Artists of The Royal Ballet. © ROH, Johan Persson, 2013

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DON QUIXOTE. Artists of The Royal Ballet. © ROH Johan Persson (2013)

英国ロイヤル・オペラ・ハウスの映像は、インターミッションを利用して、制作スタッフや主演ダンサーのバックステージを紹介しているので、舞台を見ただけではよく分からない作品の背景が理解できて、興味をそそられる。例えば音楽は、指揮者で編曲を担当した、マーティン・イェーツにインタビューしている。イェーツはウィーン出身のミンクスのワルツのメロディーを生かして、スペイン風のリズムで編曲し、アップテンポで演奏する、という試みを行なっている。そして指揮者のイェーツは、メロディーはもちろんミンクスなど作曲者のものだが、サウンドは私のものだ、とインタビューで語っている。さらに街のそこここで人々が、声を挙げ手拍子を鳴らして恋人たちを囃し立てるなどの現実音が加わって、バルセロナの街の音が作られていて、音楽とともに舞台に現実感を与えている。

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Don Quixote. Artists of The Royal Ballet. © ROH, Johan Persson, 2013

装置はバレエの装置を創るのは初めて、というミュージカルや映画の美術で知られるティム・ハットリーが、背景にならぶ家を可動式にして、大胆に移動させるセットを作った。まず、プロローグから第1幕への転換で、大きなドアを開けるとスペインの家々が立ち並ぶ街が姿を現し、視界が大きく開ける。そしてガマーシュが彼のテーマ曲と共に登場するシーンは、ガマーシュの家そのものが下手から中央に移動してきて、ドアが開いて彼が姿を現す、と言った具合だ。家はスペイン風だが、絵本の中の家のようでなかなか魅力的。また、ドン・キホーテの愛馬ロシナンテに至っては、針金で馬の形を造り藁で外観を整えていて、キャスターがついている。しかしこの漫画に登場するような馬が不思議とドン・キホーテのキャラクターに合っているので、なんだか楽しくなってしまう。装置は全体にややミュージカル風で、エンターテイメントとしても優れていて効果的だった。また、ロマのキャンプのシーンでは、冒頭にキトリとバジルのロマンティックなパ・ド・ドゥが情感をたたえて踊られた。第1幕の街で意地を張り合ったりするコミカルな二人の踊りとはまた異なった、魅力が存分に楽しめた。さらにロマのグループたちの中にギターを数台舞台にのせて、その演奏でフラメンコの実演さながらに踊るなど様々な工夫が凝らされていた。そしてこのロマのシーンの背景は、巨木が繁り、なにか黒い不気味なシルエットがドーム状に覆い囲み、ドン・キホーテが風車を怪物と思い込んで突撃してしまう錯綜する心理を映していた。第3幕の居酒屋のシーンは、実際のタブローというには、いささか広かったが、ローソクのくらい照明で、街のシーンとはくっきりとコントラストをつけて印象を深めた。

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©BC20Akane Takada as Kitri ©ROH 2014. Photo by Bill Cooper

高田茜のキトリは、脚を美しく挙げてダイナミックに踊り、キャンベルを圧倒するかの勢いを見せた。グラン・パ・ド・ドゥのフェッテではトリプル、ダブルをまじえて客席を沸かせた。そして主役はもちろんだが、キトリの友人(崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル)や街の人々、エスパーダ(ヴァレンティノ・ズケッティ)とメルセデス(マヤラ・マグリ)のグループもテーブルの上はもちろん馬車の上でも闊達に踊る。ドリアードの女王に扮した金子芙生も安定した踊りを見せた。
主役とソリストとコール・ド・バレエの踊りが、舞台上で動く装置や楽器などと見事に一体化して、スペインの風土を巧みに表現している、演出・振付である。キューバで育ったカルロス・アコスタらしさが充分に現れた見事な『ドン・キホーテ』だった。

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Akane Takada in The Royal Ballet's Don Quixote © ROH 2019. Photo by Andrei Upenski

『ドン・キホーテ』

【振付】マリウス・プティパ 【追加振付】カルロス・アコスタ
【音楽】レオン・ミンクス 【指揮】マーティン・イェーツ
【出演】ドン・キホーテ/クリストファー・サウンダーズ、サンチョ・パンサ/フィリップ・モーズリー、キトリ/高田茜、バジル/アレクサンダー・キャンベル
エスパーダ/ヴァレンティノ・ズケッティ、メルセデス/マヤラ・マグリ、キトリの友人/崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル
キューピッド/アナ・ローズ・オサリヴァン、ドルシネア/ララ・ターク、ドリアードの女王/金子扶生
ロレンツォ(キトリの父)/ギャリー・エイヴィス、ガマーシュ/トーマス・ホワイトヘッド

5月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか、全国公開!!

■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
■配給:東宝東和

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